第10話 聖女様は、ちゃんと祈ってくれる
その日は、やけに人が多かった。
「……今日、見学会か何かですか?」
俺が聞くと、リリエラはため息をついた。
「聖女が来る」
「ああ……」
嫌な予感しかしない。
■ 聖女様、降臨
転送陣が光る。
現れたのは、白を基調とした神聖衣装の少女だった。
淡い光をまとい、歩くだけで空気が清らかになるタイプ。
いわゆる――
正統派・聖女様だ。
「は、初めまして……!」
深々と頭を下げられた。
「私、ミリア・ルーンと申します!
世界のために働いている皆さんに、心から感謝を……!」
眩しい。
物理的にも、精神的にも。
「……こちらこそ」
俺は反射的に頭を下げた。
リリエラは、一歩引いた位置で無言。
■ 聖女の善意① 祈り
ミリアは、周囲の根を見て、目を潤ませた。
「こんな……
こんなに、苦しんでいるなんて……」
フィルタON中なので、俺には声は聞こえない。
でも、彼女には聞こえているらしい。
「だ、大丈夫ですか?」
俺が聞くと、ミリアは強く頷いた。
「はい!
でも、私が祈れば……!」
やめて。
俺が口を開く前に、彼女は手を合わせた。
「どうか、世界樹に祝福を――!」
光が、広がった。
■ 現場、阿鼻叫喚(※ログには出ない)
次の瞬間。
根が、強く脈打った。
「……あ」
リリエラの声が低くなる。
【警告】
【根系ブロックE-52】
【腐敗進行率:48% → 63%】
「……え?」
俺は目を疑った。
上がった。
「な、なんで!?」
ミリアは動揺している。
「わ、私、回復の祈りを……!」
リリエラが即座に割り込む。
「聖女様、今は――」
遅い。
根から、ドン、と重い衝撃。
フィルタ越しでも分かる異変。
「……これ」
俺は喉が渇くのを感じた。
「治癒じゃなくて、“刺激”になってません?」
■ 善意の仕様
ログ=フェアが現れる。
「解析結果を報告」
無慈悲だ。
「聖属性魔力の流入により、
世界樹の活動が一時的に活性化」
活性化。
「その結果、
腐敗部位との摩擦が増大」
摩擦。
「……要するに」
俺がまとめる。
「炎症起こしたってことですか」
「概ね正しい理解です」
最悪だ。
ミリアは青ざめた。
「そ、そんな……
神様は、祈れば救われるって……」
リリエラが静かに言う。
「それ、枝の話」
枝。
「根は、別」
■ 聖女の善意② もっと祈る
ミリアは、泣きそうな顔で言った。
「で、でも……
何もしないなんて、できません……!」
善意だ。
疑いようのない善意。
「……じゃあ」
俺は一歩前に出た。
「一つ、お願いしてもいいですか」
ミリアが顔を上げる。
「な、何でしょう!」
「祈る前に」
俺は、根を指差した。
「これ、触ってみてください」
リリエラが俺を見る。
止めなかった。
■ 現実を知る
ミリアが、恐る恐る根に触れた。
フィルタは、彼女には効いていない。
「……っ!」
小さな悲鳴。
「い、いた……!」
一瞬だけ。
でも、それで十分だった。
「……これ」
彼女の声が震える。
「ずっと、こんな……?」
「ええ」
リリエラが答える。
「祈っても、治らない場所」
ミリアは、しばらく黙っていた。
やがて、ぽつり。
「……知らなかった」
それが、全てだった。
■ 神のフォロー(善人ムーブ)
その場に、アウルの投影が現れる。
「ミリアさん、どうかお気になさらず」
優しい声。
「あなたの祈りは、間違っていません」
「でも……」
「現場の状況が、少々複雑なだけです」
少々。
「引き続き、枝の安定に集中してください」
つまり。
現場から、離れろ。
ミリアは、唇を噛んだ。
「……はい」
従うしかない。
■ 視察後
聖女一行が去った後。
現場は、少しだけ荒れていた。
「……今日のログ」
俺が聞く。
リリエラは答える。
「“聖女による士気向上イベント”」
イベント。
「腐敗進行、上がった件は?」
「“一時的な変動”」
便利な言葉だ。
■ 小さな決裂
俺は、根の前に立った。
フィルタON。
静かだ。
でも、さっきミリアが触れた瞬間の顔が、頭から離れない。
「……ねえ」
俺は言った。
「祈りが、間違いじゃないなら」
「何?」
「ここが、間違ってません?」
リリエラは、しばらく俺を見ていた。
そして、静かに言った。
「……それを言い出した人は」
嫌な予感。
「みんな、ここにはいない」
「辞めた?」
「消された」
消された、という言葉が重い。
世界樹が、ざわ……と鳴った。
フィルタ越しでも、分かるほどに。
俺は、決めた。
――このままじゃ、ダメだ。
それが、
最初の“反抗”の芽だった。
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