謝って許されることだと思ってるんですか?
ヒナタは隠し持っていた出刃包丁を取り出す。
「ほ、本当にごめんなさい…許して…」
俺は怯んで、ぴーちゃんを床に落としてしまった。
「あ、ぴーちゃ…」
サクッ。ぬちゃ。ぬちゃ。
「や、やめ…」
ぐちょぐちょぐちょ。
「うわああああああああ!やめろ…!」
いや、今やめてももう遅いか…ぴーちゃんだったものは、ぐちゃぐちゃの肉塊になった。
妙に、冷静に、そして冷淡に脳は現実を理解した。
「はぁ、はぁ、はぁ…本当は然るべき場所に送らなきゃいけないですけど…持ち逃げされるよりはマシでしょう」
「…」
もし、ムカデをぶっかけなければ、ぴーちゃんは生きていた…?俺が、余計なことせずにぴーちゃんを野生に逃していたら、自分の力で生きていけた…?俺は、俺は、俺は俺は俺は俺は俺は
「えっ…?」
ボクが手に持っていた包丁の先が、キミの腹部に突き刺さっている。
キミが、ボクに抱きついている。
「い、一体、何のつもりです…!?離れなさい!?」
キミはさらに体をボクの方に押し付ける。包丁が、半分ほどキミの体の中に消えている。
「死んでしまうじゃないの!そこまでは怒ってないから…離れなさい!」
「い、いえ、こういう時は無理に包丁を抜くと出血につながるんだっけか…あ、ああもう、どうすれば…!」
取り乱しているボクを見て、キミは微笑みながら言う。
「俺も、気づいてなかったんだよ。自分自身の罪にさ」
「オスのひよこ、見殺しにするじゃん。そんで、金もらうじゃん?俺、この仕事簡単だし嫌いじゃなかったよ」
「で、ではなぜ…?」
「気づいちゃったんだよ…って言い方はぴーちゃんに失礼か…。むしろ、ようやく気づけた。俺達が腐ってるって」
「こうすれば、お前も気づいてくれると思ったんだよ…」
「そ、そんな理由で命を捨てるなんて…!」
「…オスのひよこは食肉として出荷されるまでに産卵をしないからメスと違って育ててる間は不利益しかないよな。たしかに商売としてはすぐに殺して売るのが正解だ。だが…」
「わ、わかったってば!キミの言いたいことはわかったから…もう喋らないで、救急車、呼ぶから…!」
「本当にか?」
「本当にだよ…だ、だから…!」
「そう、か…。」
キミは一言も喋らない。
「やっと大人しくなってくれたのね…あ、ボクのスマホは電話かけようとしたせいで充電がほとんどない…救急車を呼ぶのって確かパスワードなくてもできるんだよね?ちょっと借りるよ…」
ボクはキミの鞄からスマホを取り出そうとしたときにキミの手首に指先をぶつけた。その手首は、とても静かだった。