第三話「僕と疑惑」
月花祭、私たちの村の祭りのひとつで一年で一番華やかな一夜だ。
14歳になった少女が綺麗な衣裳に身を包み、花の精のように月夜の下で踊るのだ。
「僕が出たってつまらないよ、背も小さいし美人でもないし」
「それに普段は男の子と見間違うほどですもんね。『僕』なんて言ったり、髪も短かったりするから市場に行くとしょっちゅう男の子に間違われますもんね」
「な、なんでそんなことまでわかるのさ!先生は目が見えないんでしょ」
僕は先生に殴りかかる。けど、先生はそれを華麗にかわした。
「いやぁ、さっきロストフさんが楽しそうに話してましたから、ハハハ」
「旦那…、今度会ったら……」
僕が怒りで顔を赤くしていると先生は何も言わず奥の部屋に入って行った。
話は脱線し、これで月花祭の話も流れたかと思うと少し安心した。
先生も少しは僕の気持がわかるようになったようだ。
「あ、そうそうロッシュの衣裳はロストフさんの奥さんが仕立ててくれるらしいですよ。フリッフリのカワイイのを」
前言撤回。やっぱり先生は僕のことなんて何一つわかっちゃいない。
むしろ僕が悩んでいる状況を楽しんでいるようだ。
「このバカ野郎ー!!」
僕はそこら辺にある鍋やらフライパンやらを先生に投げつけてここから飛び出した。
「夕食までには帰ってきて下さいよー」
「うっさい馬鹿野郎!」
最後までマイペースな先生に毒を吐きながら私は小さな小屋から離れていく。
気が付いたら村外れの大きな樅の木のところまで来てしまっていた。
ここは人通りもなく、静かで涼しい樅の木の下で僕は走り疲れた体を休めることにした。
柔らかい草の上に寝転び僕は月花祭のことに思いを馳せる。
本当のことを言えば僕も女の子なんだから月花祭にはもちろん出たい。
だけどどうしても出れない理由があるのだ。
先生がそのことを知っているかどうかは分からない。
でもいくら先生の目が見えないといっても先生と僕が大半の村人たちからどう思われているか知らないわけではないだろう。
だけどそのことを先生に伝える勇気は僕にはない。
村人からの信頼の厚い先生、だけど村人の全てがみんなそうだというわけではない。
先生を訪ねてくれる人たちは優しい人ばかりだ、みんな親切にしてくれる。
でも、心の底ではどう思っているか…。
「あー、もうやめた!」
大切な人たちを疑うのはよそう。
そして僕が月花祭に出なければなにも問題はないんだから。
奥さんには申し訳ないけど。
周りを見ると夕日で紅く染まっていた。
もうこんな時間か、早く帰って夕食を作らなきゃ。
僕は来た道を急いで戻る。
先生はきっとお腹を空かせて不機嫌にしてるだろうな。




