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第一話「先生と僕」

 大きな村の外れ、そこの小さな小屋にその人は住んでいた。

 いや、居ついていたというほうが正しいのかもしれない。

 

「ロッシュ、どこにいるのですか? ロッシュ――」

 

 その人はさっきからずっと僕のことを呼んでいる。

 

「いないのですか、ロッシュ?」

 

 その人がこの村に来てからずっと、僕はその人のお世話係をやっているわけなのだけど……

 

「ロッシュ――ロッシュ――。本当にいないんですか?」

 

 その人が来てから身の回りの世話はみんな僕の仕事だ。

 来る日も来る日も料理、洗濯、料理、洗濯の繰り返し。

 正直、退屈になるくらい単調な毎日だ。

 

「じゃあ、この猫はロッシュのベッドにでも置いておきましょうか」


「わあぁ! やめてよ先生! 僕が猫アレルギーだって知ってるでしょ!」

 

「おや、いたのですか」


 先生と呼ばれたその人は三毛猫を抱えて僕の方に歩み寄ってくる。

 

「うげっ! せっ、先生それ以上近づかないで、ジンマシンが!」

「おっとすいません。うっかりしてました」

 

 うっかりなもんか、絶対わざとだ。

 

 先生は三毛猫を窓から放り出して、『猫が入ってきたんでどうしようかと思ったんですよ』と白々しく答えた。

 

「大体、猫が入ってきたぐらいでいちいち僕を呼ばないでよ」

「失敬な。それだけのためにあなたを呼ぶわけないじゃないですか」

 

 先生はムッとした表情で僕を睨んみ、そして真剣な顔でこう言った。

 

「お腹が空いたのです」

 

 この先生との生活ももう十年近くになるしこんなことは日常茶飯事だ。

 だけど僕は召使いロボットでもなければ従順な犬でもない。

 今のこんな生活に耐えられないくらいの嫌気が差すのは自然なことじゃないだろうか?

 

 それに僕は体の不自由な先生のお手伝いさんという名目でここにいるわけなのだけれど。

 目の前の先生はどこをどう見ても不自由そうには見えない。

 むしろ自由そのものだ。

 

 だから今日という今日は先生に従うわけにはない。

 少し反抗を見せるべきではないかと思う。

 

「先生は偉い先生なんだから自分のご飯ぐらい自分で作ったらどうなの?」

 

 僕はキッと先生を睨み返してフライパンを先生につきつける。

 

 さあ、どうでる? 先生。

 

「偉いからこそ食事は他人に任せるという見方もできますが、そもそも今の私は料理は作れません」

 

 窓の外の猫に向けていた顔を僕の方に戻して先生は続ける。

 

「私は眼が見えないんですから」

 

 そう言って先生は笑った。 


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