第97話 俺達の学校が体育祭開始な件
「どうして、ですか……」
体育祭当日。
各々この日の為に頑張ってきた練習してきた結果を見せようと、体育祭に対してやる気を見せる生徒が居る一方で、マホは全身から絶望のオーラを出していた。
その理由は、忘れ物をして出場出来ない訳でもない。怪我で動けない訳でもない。体育祭当日にワルインダーが攻撃してきた訳でもない。緑や咲黄達とチームが別れてしまった訳でもない。
「どうして……」
「仕方がないよマホちゃん。だから元気出して、ね?」
「どうしてマジュくんを体育祭に呼べないんですかあああああ!!!」
「さすがに魔法世界から此方に来てもらうのは無理があるよ!?」
ただただ、悲しみに明け暮れているだけであった。
魔法世界から人連れて来ようとすんな。
ガク先輩に頼めば簡単に世界と世界を渡るのは可能だろうけどさ、急に「体育祭の応援してほしいから、此方の世界に来て!」なんて言われたら相手も混乱するだろ。あと誰だよマジュくん。
「なぁ咲黄、マホの言うマジュくんってのは」
「マホちゃんの弟くんだね」
「あぁ、なるほど」
つまりはマホもブラコンなのか。
両想いなのか、それともマホの片想いなのか知らないが、中学生が小学生もしくはそれより幼い相手に対して異常な愛を向けてると書くと、犯罪の匂いが強いな。
「勇子ちゃん離してください。私は今から魔法世界に行ってマジュくんを連れてくるんです!」
「もう体育祭始まってるから! 落ち着いてマホちゃん!」
『えー、はい。只今より体育祭を開催致します。あと私は放送部の副部長です』
「始まるみたいよ」
俺達は暴走するブラコンを押さえている勇子を背景にし、開会式の方へと身体を向けた。
開会式と言っても、校庭のど真ん中に集まってボッーと突っ立って話を聞くような状態じゃない。
ここ数年で夏は気温が急上昇していて、日影の無い場所に居るのは危険だろうと、学校の方でテントを用意してくれたのだ。
まぁ正確に言うと、テントを用意したのは学校で準備したのは運動部とか体育祭の準備を手伝った俺らだけどな。
そのため俺らはそのテントの中でぬくぬくと椅子に座って、雑談しながら開会式を聞いているのである。
黙って話を聞くべきだと真面目な性格をしている人物なら言うかもしれないが、その真面目な人物は現在暴走しているので、ここに注意する奴は誰も居ない。
また余談になるが、別クラスの咲黄と緑が俺達と一緒に居るのは、同じ学年であればテント内での席移動は自由となっているからだったりする。
『まずは応援団団長による選手宣誓からです。あと私は放送部の副部長です』
「あれ、さっき自己紹介しなかったか?」
『それでは団長、お願いします。あと私は放送部の副部長です』
「明らかに関係ない情報入ってるんだけど!?」
何回放送部の副部長だって主張するんだよ、お前のキャラが濃いのはもう分かったよ! そんなに主張するな、体育祭に集中出来なくなるだろ!
『あーあーあー、よしマイクは問題無いな』
「お兄ちゃぁぁぁん! 今日もカッコいいよおおお! 此方向いてえええ!」
応援団の団長もとい、陸上部の部長はマイクの音量を確認して、挨拶のためのカンペを取り出す。
ああ言うのって本番で読んで良いんだっけ? よく覚えてないな。
『ッスー……我々ッ!』
部長は大きく息を吸い、選手宣誓の挨拶をし始めた。するとどうだろうか、最初の「我々」と言った所でマイクが切れてしまった。
幸いにも部長の声はマイクが無しでも充分に聞こえるので問題は無いが、急にマイクが使えなくなったとなれば、挨拶よりもそっちに意識を向けてしまう。
「あれ、どうしたのかしら」
「分からん」
選手宣誓の声があまりにも大きくて、俺の鼓膜が破れた可能性は0に等しいだろう。
仮に破れていたら緑の声や、マイク無しでの選手宣誓が聞こえる事は無いだろうからな。
『えー、はい。団長が大声でマイクを破壊したので挨拶は中断します。あと私は放送部の副部長です』
「何してんだあの人!?」
マイク破壊すんな!
部長はマイクを破壊したのを気にしてか、トボトボと応援団の元へと帰っていきリュウや、他の応援団達に慰められていた。
陸上部で部長を勤めてたり、応援団の団長を勤めてたりと、やっぱり周りに人を集める人望とか上に立つカリスマはあるんだな。行動はちょっと規格外だけど。
さてと、確かこの後は校長の挨拶とかあって最後に応援団の応援があるんだったな。
部長やリュウがどんな応援するか気になるから、その時だけは見るとしよう。他の挨拶は興味が無いし。
「相変わらず元気ね。ねぇ咲黄」
「…………」
「咲黄?」
「あ、咲黄ちゃんまた気絶したのか」
「気絶!? ってまた!? 私咲黄が気絶したの今まで見たこと無いわよ!」
「実は前に咲黄ちゃんがな、部長の大声を聞くと癒されて気絶するって言ってたんだ。実際にオレはその場面を見たことがある」
「ちょっと何言ってるか分からないわ」
そんな体質あるの始めて聞いたんだけど。
マホや勇子は聞いたことが……あぁ駄目だ、暴れなくなったと思ったら今度は落ち込んでるよ。
勇子も勇子でマホを励ましてるし、聞ける雰囲気じゃなさそうだな。
「ラン。どうすれば咲黄は目を覚ますんだ?」
「放置してれば復活する」
「ならそのままにしとくか」
復活するなら何もしなくて良いか。
起きないって言うなら保健室に運んだだろうが、この現象を体験した事あるランが放置って言うなら、それに従っておいた方が良いだろう。
変に揺さぶったり、大声で起こそうとして、大事になったら咲黄も嫌だろうし。
「ただいま戻りましタ。どうしでしたカ、僕の応援ハ!」
「あ、ごめん。見てなかった」
「どうしてですカ!?」
「マホが弟居なくて暴走して、咲黄が部長の大声で気絶した」
「まさかの一大事!?」
ごめん。本当にごめんて……見ようとは思ったんだよ、思ったんだけどそっちに意識を向ける以上にインパクトの強い出来事が起こってたんだよ。
『次の種目は保護者競技です。出場する保護者の方は入場門に集まってください。あと私は放送部の副部長です』
「あぁ、マジュくんが来ていればその勇姿をこの目に焼き付けられたのに……!」
「誰かこのブラコンを止めてくれ」
まだ言ってるのか、そろそろ諦めてくれ。
開会式が終わり、次々と競技が始まっていき今度は保護者競技が始まる番となった。
ただなぁ、俺の親は来てないし、他のみんなも忙しかったり、異世界に住んでたりで誰も来てないんだよな。
友達の親が来てないって言うなら別に見る必要無いかなぁ……あれ、なんか保護者競技に1人だけ見覚えのある人が居る。もっと言うとメイド服着てる。
「なぁ緑、すげぇ見覚えのある。メイド服着てる人の幻覚が見えるんだけど」
「奇遇ね。私もその幻覚が見えているところよ」
落ち着け、落ち着くんだ。あの人な訳がない、仮に体育祭に来てたとしてもメイド服着て保護者競技に出るだなんて……もしかしたら、メイド服着てるだけの赤の他人かもしれない。
いや、メイド服着て体育祭出るような奴が2人も居たら、それはそれで怖いけどさ。
「心様、この家政婦でありメイドである私の勇姿をその目に焼き付けてくださいませ」
「幻覚じゃ、なかったわね……」
「そう、だな……」
なんで居るの? ねぇ、なんで居るの?
ガク先輩の所の家政婦だから、一応は保護者って枠組みなんだろうけどさ。まさか保護者競技に参加するとは思わないじゃんか。
「あっ、ガク先輩の所のメイドさんだ!」
「メイドではなく家政婦さ」
「そうだったそうだった……ってあれ、ガク先輩!?」
「いつの間に来てたんだ?」
「ついさっきさ」
俺達が自称メイドの登場に目を奪われていると、いつからそこに居たのだろうか。俺達の後ろの席にガク先輩が座っていた。
学年で席別れてた筈だが……まぁ細かい事は良いか。ガク先輩もずっとここに居るって様子じゃなさそうだし。
「ガクちゃんパイセン! やほ!」
「やほだねランくん」
「どうしてこちらに? 三年生の席は別の場所の筈ですが」
「いやなに。暇だから少し君達の様子を、と思ってね」
タイミング的に自称メイドの視界から逃げてきたようにしか見えないが、きっと気のせいだろうな。
ガク先輩はその性格から周りから距離を取られているようだし、3年の所でずっと自称メイドの競技を見るよりは、一応は共通の知り合いの俺らと一緒に見た方が面白いと思って来たのだろう。
「ガク先輩、あの自称メイドって保護者代わりなのか?」
「今日来れない私の両親の代わり、と言う意味では合っているね。どうやら私の両親に私の活躍をカメラに納めてほしいと頼まれたようでね」
「普通に楽しんでるように見えるんだけど」
「メイドの嗜みとして、保護者競技の練習をしてきたようでね。張り切っているようだ」
「聞いたことねぇよそんな嗜み!」
俺は保護者競技で無双している自称メイドを遠い目で見ながら、これから突っ込み疲れが起きそうな体育祭だと未来の苦労を想像して頭を抑えるのであった。
体育祭限定キャラとして、放送部の副部長が進行係として新登場です。
元々の役職は部長の予定でしたが、陸上部の部長と被るので変更しました。他に比べたらキャラが薄いな……。
そして保護者枠として自称メイドの参戦です。まぁ参戦と言っても、今回で保護者競技が終了したので、マトモな出番は今回で終わると思いますが。




