第93話 俺の先輩が相変わらず行動理由不明な件
「なぁガク先輩、俺が知らない内に山登ることになってたんだけど、何か言うことは無いのか?」
「君なら来てくれると信じていたさ」
「キレるぞ」
俺が緑を立ち直らせて気絶した日の放課後。
どうやらガク先輩の薬によって気絶している間に、マホ達とガク先輩、そして俺の6人で山に登ることが決定していたらしい。
当然の話になるが、俺は気絶していたので何も知らない。
気絶から目が覚めたら「今度の休日、私の提案で山を登ることになった。力男くんも来たまえ」と言われた時、俺はキレそうになった。なんなら今もキレそう。
人の事を信頼してくれるのは嬉しいんだが、俺の知らない内に決めるなって。
いやさ、結局は着いてきたけどさ。着いてきたけど、勝手に決められるとなんかこう、モヤモヤするんだよ。
「つーか、そもそもなんで急に山? 登山が趣味だったりするの?」
「マホくん達を立ち直らせるには、山頂の景色を見せるのが一番だったからね」
「意味分からん」
山頂の景色を見るのと、マホ達を立ち直らせるの。この二つにどんな関係があるんだよ、全く分からねぇ。ここはテレパシーで読み解くとするか。
❴(テレパシーを使ってきた程度で、私が理由を答えるわけないだろう?)❵
「なんで毎度攻略出来るんだよ!?」
「君がそれを使うタイミングは、なんとなく分かるからね。大方私の言葉の意味をカンニングしようとしたのだろう?」
「カンニング言うな」
やっぱガク先輩相手にテレパシーは駄目かぁ。
俺の考えがバレてるせいで、テレパシー使うより先に対策されるんだが。本当にこの人はどうなってんだよ。
俺は山頂に着けば嫌でも答えが分かるだろうと、自分自身を無理矢理納得させる。
もしランからの言葉なら、素直にガク先輩答えたかな? でもランは体育祭が終わったら部活の大会直前になるからって、自主練しに行ってるからなぁ。
ついでにだが、リュウは居るとマホ達が気まずくなるからと山登りに誘ってない。
そらリュウが前に居た組織の人間にボコボコにされて意気消沈してます、なんて言えないからな。
「ほら、早く登りましょう!」
「み、緑ちゃん待ってぇ……」
「はぁ、はぁ……あぁ。お兄ちゃんが目の前に」
「咲黄ちゃんそれは幻覚です。しっかりしてください!」
「ふむ。緑くんは元気になったようだね」
「あれ見た感想がそれなの!?」
俺は頂上を指差しながら眼を輝かせる緑、その後ろに息切れしながら続く勇子と、幻覚が見えるほど限界が近くなった咲黄を背負うマホを見て、今日もカオスだと苦笑いをする。
「私では自力で彼女達を立ち直らせる事は出来なかったのだがね……緑くんになんて言ったんだい?」
「俺1人じゃなくてクラヨウも一緒だったんだが、戦って勝つのが目的じゃなくて戦って守るのが目的だろ? って話した」
「なるほどね。あの時の緑くんは守るためには勝つしか無いと言っていた、いつの間にか目的が変わっていたと言う事だね」
「あとは……あぁそうだ。アレも言ったな」
「アレ?」
「『自分が正しいと思ったように動いておけ、やる後悔よりやらない後悔。そして出来なかった後悔の方が大きい』ってな」
「ふむ。それは……君の実体験かい?」
「ノーコメントだ」
「なら深くは聞かないでおこうか」
こういう人の過去を追及しようとしない部分は、好感が持てるんだよなぁ。性格面が欠点過ぎてプラマイゼロどころか、好感度がマイナスに振り切ってしまっているが。
まぁ性格が良いガク先輩とか、綺麗なジャ〇アンぐらい別人だから今の方が良いけどさ。
「さて、頂上に着いたね」
「はぁ、疲れた。ガク先輩は疲れてないのか?」
「フィールドワークも研究者として大事だからね。体力には多少の自信があるのさ」
「意外だな。で、運動神経は?」
「その問いに答える代償として、実験に協力してもらう必要があるが構わんかね?」
「構うに決まってるが!?」
ガク先輩と雑談しつつ、最後尾で山を登っていると、ようやく頂上へと着いた。
動けなくなる程では無いが、山に馴れてないのもあってか、さすがに疲れたな。
「遅いわよ2人共!」
「すまないね。少々話し込んでしまっていた」
「緑、今日テンション高いな。どうした?」
「山に来たら誰でもテンションが上がるでしょう?」
「何言ってんだコイツ」
もしかして登山とか好きなのか? それとも今日の登山で覚醒したのか。まぁ緑の事は良いんだ、恋愛関連の時と比べたらまだ歯止めは効きそうだからな。
それよりも、途中で体力が切れていた咲黄は大丈夫だろうか。
俺は山頂に設置されているベンチで横になっている咲黄へと近付き、様子を確認する。
どうやら疲れて眠ってるだけみたいだな。マホに背負われてからそれなりに経ってるから、そろそろ目覚めてもおかしくないが……あ、起きた。
「ん……あれ、ここは?」
「ここは山頂ですよ咲黄ちゃん」
「地獄じゃないの?」
「違います。それと力男さんとペンヨウは今から叱るので覚悟してください」
「なんで!?」
「ペンヨウ何もしてないセイよ!?」
俺咲黄に変な事した覚えないんだけど!? え、なに。近付いたから? 近付いたから叱られるの? でもペンヨウはずっとバックに入ってたから、そっちの方の理由は分からないな。なんだろ。
「なんでじゃないよ! 力男くんがペンヨウが変な事教えるからでしょ!」
「変な事覚えるなよペンヨウ」
「誰のせいだと思ってるセイ……」
チクショウ、前に気絶が目覚めたアクロコとペンヨウ相手にふざけたのが、ここで返ってくるとは思いもしなかったな。
俺は無実だとさらっとペンヨウに責任を押し付けようとしたが、ジト目で俺のせいだと睨まれてしまった。
よし、仕返しとして今度ペンヨウとゲームする時は手加減しないでおこう。
「まぁまぁ、折角山頂まで来たんだ。喧嘩するよりも……ほら、景色を見るのをオススメしようではないか」
「慰めだれても叱るのは変わりません、よ……?」
俺とペンヨウを叱ろうとするマホだったが、ガク先輩に景色を見ようと、腕を引っ張られて景色を一望出来る場所まで案内される。
景色を見た程度で叱るのは変わらない、そう言葉を喋っている最中、不意にマホの口が止まる。
「どうしたのマホちゃん? わぁ……」
「良い景色だね……」
「そうね……」
「お前らどうし……あぁ、なるほどな」
マホに続いて3人も口が止まったのを不思議を思い、俺も一緒に景色を眺め、それと同時に口が止まった理由を理解する。
「どうだい? この景色は。ここはちょっとした隠れスポットになっていてね、街を一望出来るのさ」
「こんな所があるなんて知らなかったです」
「ねぇねぇガク先輩。ここどうやって見つけたの!?」
「いやなに。君達の正体を探っている頃に、街に異変が起きていないかいち早く察知出来る場所探していてね。その時に見つけたのさ」
山頂から見える街の景色。
俺達の通っている学校、水鉄砲で遊んだ市民プール、夏祭りで訪れた神社など。それは俺達の今までの思い出を走馬灯のように脳裏を流してくれる。
「さて、君達はこの景色を見てどう思った?」
「良い景色だと思いました!」
「私達の住んでる街が小さく思えるよ!」
「お兄ちゃんと過ごしてきた思い出が色々甦ってくるよ」
「そうか。ならば良くその眼に焼き付けてくれたまえ。この景色こそ、君達の守ってきたものさ」
「この景色が」
「私達が」
「守ってきたもの?」
あぁ、なるほどな。
俺はガク先輩がどうして山頂にマホ達を連れてきたのか理解した。
これまでマホ達は守ってきたモノを自慢する事が無かったのだろう。誰にも正体を喋らないと決めている以上、それは仕方がない事ではある。
見返りを求めない。言葉にすれば聞こえは良いが、それは自分の行動がどういう結果になるか知らない事を指す。
マホ達は魔法少女であると同時に、ただの中学1年生である。年相応らしい反応や感情は当然あるし、魔法少女として戦ってきた事に意味があるのか悩んだりした事もあっただろう。
だからガク先輩は頂上の景色を見せる事にした。
この街を守ってきたのは紛れもなくマホ達なのだと、もっと胸を張って良いと、今まで頑張ってきた結果この街を守られてきたのだから、自信を持って良いのだと。
「ねぇガク先輩、もしかして山に来たのって」
「シッ。ここはガク先輩に任せようぜ」
緑も俺と同様に、頂上まで来た理由に気が付いたようだが、俺は緑の口に指を当ててその言葉を止める。
ここで3人に伝えるのは簡単だが、これは本人達が気付いてどう受け止めるか、だからな。第三者の口から言ったら意味が無い。
「君達の正体は隠すものだと私自身納得しているさ。だが、守ってきたモノを心の中でソッと自慢してもバチは当たらないだろう」
「「「…………」」」
「……ねぇ、みんな」
3人はガク先輩の言葉を聞くと共に、景色を再び眺め始める。そして緑も3人に並ぶように頂上から見える景色へと視線を向けて、口を開き始めた。
「さて。感慨に浸っている彼女達はそのままにして、私達は気が済むまで待つとしようか」
「そうだな」
ガク先輩は立ち直らせる為の土台を用意した、俺は一番心に傷を負っていた緑を説得した、緑は立ち直った成功者としての姿を見せた。
これ以上は本人達、そして魔法少女としての問題だ。
俺とガク先輩の出る幕じゃないが……まぁ、良い方向へ傾くよう祈るぐらいの事をしてもバチは当たらないだろう。
今回はいつもの「ここどこ→地獄」はキャンセルでした。
そらマホがそんな事言うのは解釈不一致ですからね。力男なら言うけど、あそこは状況的に咲黄を運んだマホが喋る方が自然ですので。




