第80話 僕の思いが爆発な件でス
「暑いセイ~」
「ペンヨウ、もう少しですので耐えてくださいね」
義姉さんに啖呵を切っテ、ワルインダーを抜ける宣言をしてから一週間。僕は魔法少女を倒すための作戦をずっと考えていましタ。どの魔法少女を倒すのカ、どうやって仕掛けるのカ、どう戦うのカ。
この世界の一般人───部長やランさんは例外ですガ───と戦うのであれバ、僕は余所見していても勝てる実力ありますス。ですが妖精の力を借りている魔法少女は違いまス。
一般人と僕との力量の差を歩行者とトラックとするのなラ、僕と魔法少女の力量の差はトラックと山。逆立ちした所で勝てる強さではありませン。
ですが魔法少女と言っても所詮は人、付け入る隙はありまス。
「マホさんこんにちハ」
僕は自分の練った作戦なら大丈夫だと勇気を振り絞リ、偶然通りかかったフリをして目を付けた魔法少女、マホさんへと声をかけまス。
「こ、こんにちはリュウさん。何処かに用事ですか?」
「何処かにと言うカ……実はマホさんに話がありましテ」
「私に、ですか?」
妖精の姿を見られないようにト、妖精の入った鞄のチャックを閉めましたガ、僕の正体に気付いている様子は無さそうですネ。まずは第一関門突破でス。
「まぁ話と言ってモ」
「リュウさん?」
僕はその言葉と共に変身を解きまス。学生としての姿である唯野 リュウかラ、ワルインダーの幹部であるスリュウ・コマツールへト。
魔法少女が油断している隙を付いテ、攻撃されるよりも先に変身をク。これが第二関門でス。そしてこれを乗り越えれバ……
「すぐに終わりますけどネ!」
「ッ!」
最後に残る関門であリ、一番重要である先手を取って尚且つ短期で魔法少女を倒す事だけが残りまス。とは言ってもこれが一番難しいですガ。
僕は魔法少女と比べて力も頭も心も劣っていまス。そんな僕が勝つ方法は限られてきまス。
それは年密に作戦を練った上デ、相手の油断と動揺を利用しテ、それらから復活する前に決着を付けル。これしかありませン。
僕は幹部としての姿に戻ると共に、まだ変身していないマホさんへと攻撃を仕掛けましタ。
変身前の一般人に毛が生えた程度の力しか無いマホさんになラ、一回攻撃するだけで動けなくなるほどのダメージを与えられまス。ですガ、
「ペンヨウ!」
「分かってるセイ!」
「変身!」
そこは魔法少女と言うべきでしょうカ。僕の拳が当たるよりも先に後ろに跳ビ、バックから飛び出してきた妖精からステッキを借りて変身をしましタ。
変身前に攻撃して倒す作戦は失敗しましたが想定内でス。変身された事で勝てる見込みがグッと下がりましたガ、心が万全でない状態今ならまだ倒せる可能性はありまス。
「避けられましたカ」
「スリュウ!? どうしてリュウさんの姿に……リュウさんを何処にやったんですか!」
「何処と言われましてもネ。目の前で見ていたでしょウ?」
警戒こそはしていますガ、動揺が隠せていませんネ。油断も無くなったのは辛いですガ、大丈夫。僕は義姉さんとコマツール様に恩を返すんでス、勝てる見込みが薄くてもせめて爪痕だけは残していきまス。
「え? ま、まさか……」
「そのまさかですヨ」
マホさんは僕のその言葉デ、今まで友達として過ごしてきた唯野 リュウがスリュウ・コマツールだと気付いてしまったのでしょウ。動揺で指先が震えて警戒も疎かになりましタ。
「マホ、来るセイ!」
「キャッ!」
その隙を僕は見逃しませン。
ペンヨウとやらが注意を促しましたが既に遅ク、僕の蹴りがマホさんに命中しまス。変身前ならそれで倒せたでしょうガ、魔法少女に変身した今では痛みはするけど充分に動ける程度でしょウ。
マホさんは蹴られた衝撃で後ろに飛びますガ、その反動を利用してバク転をしながらさらに後ろへと下がりましタ。これで僕がより不利になってしまいましタ。
追撃を加えられれば良かったですガ、一度攻撃した以上マホさんは既に僕の事を敵として見ていまス。
更にはバク転で距離を取られたのデ、無理に詰めようとすれば「何かしてくる」と油断も動揺もせず対処してくるでしょウ。
「リュウさん……いえスリュウ。貴方は今まで私達を騙していたんですか?」
「えエ、そうですヨ」
「なら! 学校での日々も嘘だったんですか!」
「僕は貴方達を騙していたんでス。当然それも嘘ですよ」
言葉での時間稼ぎですかネ?
いやでも何もかも僕を上回っているマホさんがそんな事をする理由が無いでス。マホさん1人居れば僕を倒すのは容易でしょうシ、ならいったい何の意味ガ?
まぁなんにせよこの状況を利用させてもらいましょうカ、話の主導権を此方が握って動揺するような言葉をもう一度掛ければ勝機ガ……!
「…………では聞きます。貴方のその流している涙も、嘘なんですか?」
「エ?」
その僕の作戦はマホさんの言葉と共に崩れまス。涙とはいったい何の話カ、そう口を開こうとした時、ポツポツと滴が垂れるような音が僕の真下から聞こえまス。
今の天気は快晴、雨なんて一滴も降っていませン。
ならば何処から水滴が垂れているのカ、何故か違和感を感じる目元をソッと撫でると、そこには水滴がありましタ。
目元からの水滴となれば一つしかありませン。
「あレ、なんデ。僕は戦うっテ、義姉サ……総帥に恩を返すために頑張るって決めたのニ」
「それはきっと、悲しいからじゃないですか?」
「悲しイ? 貴方達と嘘の関係を築いてきたんですヨ。そんな嘘をバラしたからっテ」
「ならその涙はどう説明するんですか?」
「ソ、それハ……」
僕はこれは涙ではなく汗だと思い込みまス。自分がこれまで学生と過ごしてきた日々は魔法少女を倒すためだかラ、悲しくも無いし友情なんか感じていなイ。
『陸上部に全速前進だ!』
『あぁ、リュウって海外から来たんだろ? 今までと違う言語だろうし、日本の授業を受けるのはちょっと大変と思ってな。勉強教えようか?』
『何か困ってそうだったからな! それ以外に理由なんて無いさ!』
ですがその思いとは裏腹ニ、僕の脳内には学校で知り合った人々との日々が思い起こされまス。
魔法少女のように敵対したからこそ知り合ったのではなク、学校と言う場所で学生である唯野 リュウとして知り合った人々との思い出ヲ。
「スリュウ。私は貴方にどんな事情があるのか分かりません。ですが、その涙の理由は予想がつきます」
「うるさいうるさいうるさイ! 僕の思いなんカ、魔法少女が分かる筈無いだろうガ!」
「敬語が外れていますよ」
「ッ!」
動揺を誘う筈が自分が動揺してしまっていル。
僕は貴方達のように持っている人間ではなイ、誰かのピンチに颯爽と駆け付けられる力を持っていなイ、心が折れても立ち上がれる精神を持っていなイ、ひたすらに大切な人を救おうとしても溢れ落ちてしまった弱者ダ。
そんな弱者の気持ちヲ、何もかも出来る魔法少女が分かる筈がなイ。伝承上の存在が僕みたいなチッポケな存在なんか理解出来るわけがなイ。
「私は、今まで戦ってきて許せない事はあります。怒っている事もあります。悲しかった事もあります。ですが、それはスリュウ・コマツールに対しての気持ちです。リュウさんに対しての気持ちでは無いです」
「今更何を言っているんですカ。僕は『唯野 リュウ』と言う名前はただの偽名。そんな人間は存在しませんヨ」
「いいえ、存在します」
「エ?」
僕は魔法少女の言葉の意味が分からず首を傾げまス。
唯野 リュウは何処にも存在しない、僕が学生として潜入するための偽りの人間ダ。いったい何が言いたいのだろうカ。
「私の、私達にとってのクラスメイトであり友達のリュウは、目の前に居ますよ」
「…………ハァ」
何を言うのかと思えばそんな事かト、思わず溜め息を出しまス。まだ僕の事を偽りの姿であるリュウだト、友達だと呼んでくれるんですネ。
「まったク、相変わらず甘いですネ。それでは足元を掬われますヨ」
「否定出来ませんね。実際に自分を省みず周りを助けようとした結果、何度ピンチになったことか」
その甘さと優しさが嫌になル。
言葉だけ見れば呆れている僕ト、中々反省しないマホさんの図に見えるでしょうガ、不思議と僕達の表情は敵に向けるそれではなク、友達に向ける優しい顔でしタ。
僕は今まで恩を返す事しか考えていなかっタ。僕自身ヲ、そして周りを見てこなかっタ。それを敵である魔法少女に気付かされるなんて思いもしなかったですネ。
「行きますヨ、スカイブルー!」
「掛かってきなさい、スリュウ!」
ごめんなさい義姉さン、コマツール様。貴方達に拾われた恩を返せそうに無いでス。ですので一つ我が身を言わせてくださイ。今だけは恩返しではなク、僕自身の思いで戦わせてくださイ。
油断も動揺も無い魔法少女にはきっと勝てないでしょウ。それでも僕は最後まで戦いたいんでス、敵である僕を友達と呼んでくれタ、姉ちゃんと似て甘い性格をしている魔法少女ト。
マホ的には「衝撃の真実ゥ!」だけど、読者からすればリュウが初登場時点で正体分かってるんだよなぁ……。




