第78話 俺達のおみくじ結果が陰謀を感じるな件
「皆さン、待ってくだサ……はぁはァ」
「みんな待ってぇ……」
「咲黄! リュウ! 大丈夫か。疲れてるようだが安心しろ、ワイが背負っていくぞ!」
「ア、それは結構でえええええええェ!!」
俺達はおみくじを引くため、神社の本殿へと続く長い階段を登っていた。
咲黄とリュウは運動が苦手なのか、体力が切れた結果部長に背負われてジェットコースターのような勢いで登っていき、ランは一番乗りになりたいと1人で先に登っていった。
そんな中、俺とガク先輩は最後尾をゆっくりと登っており、その数十段先にマホ、勇子、緑の3人が居る。
出来る事ならこんな長い階段は登りたくないんだが、本殿にしかおみくじ置いてないんだよなぁ。階段の下の方で夏祭りやってるんだから、そこに持ってきてくれれば良いのに。
「それにしても、なぁ」
「ふむ。私がおみくじなんて言うのは意外かね?」
「そうだな」
俺は隣を歩くガク先輩へと視線を向ける。
何故おみくじを引こうと言ったのか。神だの迷信だのを信じなさそうなガク先輩が言うのは、あまりにも意外であった。
もしかしたら、ガク先輩は案外神とか信じる人なのかもしれない。
「マホ達に用事って言ってたのは、おみくじに誘うためか?」
「大凶を引こうと思ってるね。マホくん達が近くに居る時に引いた時が都合が良くてね」
「待ってガク先輩。今大凶って言った? 大吉じゃないのか?」
「大凶さ。それを引くために、くじ屋の店主の恨みを買う行動をしたり、かき氷にシロップ全種類掛けてたのさ」
「変な事してる自覚あったのかよ!?」
訂正しよう、この人神なんて信じる人じゃねぇや。
大凶狙うってなんだよ、初めて聞いたよそんな言葉。つーか大凶出すのに本気出しすぎだろ、何がそんなにもガク先輩を駆り立てるんだよ。
「なんで大凶なんて狙ってるんだ?」
「マホくん達に押し付けようと思ってね」
「何言ってんだこの人。そもそも引いたの本人の話なんだから、悪い運を押し付けるとか出来ないだろ」
「私は別に運自体を押し付けたい訳では無いのだがね……おっと、本殿が見えてきたようだ」
「おーい、こっちだよこっち!」
ガク先輩が正面に指を差すと、本殿へ先に着いた勇子が俺達に大きく手を振っていた。
なお、部長に背負われて超スピードで本殿まで連れていかれた結果、白目を向いてるリュウは見なかった事にする。安らかに眠ってくれ。
「ふむ。誘ったのは私だからね、ここは全員分支払おうではないか」
「後で変な要求しないよな?」
「今回ばかりは貸し借り無しの善意さ。それにしても、君は私をなんだと思っているのかね?」
常識を無視して、校則に全部目を通してる癖に平気で破り、人を実験に簡単に巻き込むマッドサイエンティストだと思ってる。
この人に借りを作れば何をされるか分かったモノじゃないが、今回は違うようなので甘えるとしよう。
だがガク先輩が善意を振り撒くなんて珍しい。明日は隕石が降るかもしれないので、戸締まりはしっかりしておこう。
ガク先輩がおみくじの隣に置いてある箱に、全員分の金額を入れる。そして1人1人おみくじを引き、全員でそれを開いた。
「俺は吉か、まぁまぁだな」
欲を言えば大吉が出てほしかったが、凶じゃないだけマシと思う事にしよう。あまり欲を掻くとロクな目に合わないからな。
「ランはどうだった?」
「中吉! 健康運は問題ないって書いてある!」
「何故に健康運だけピックアップ?」
ランが健康運についてドヤ顔してきたが、ランみたいに元気な奴が病気に掛かるのなら、その病気はもう人類の手に負えないだろう。ランが病気に掛かる姿なんて想像がつかないし。
「ふむ、大吉か。面白くない」
「ガク先輩不正した?」
「こんな所で不正をして何があると言うのかね? そもそも不正するのなら、大凶を狙うさ」
大凶を欲しがっていたガク先輩であったが、日頃の行いは何処へ行ったのやら。大吉を引いており、健康面や勉強面も大成功すると書いてあった。
どうなってんだこの人……あ、慢心すると足元掬われるって書いてある。でもこの人が足元掬われるのが想像つかないな、じゃあ関係無いか。
「吉ですカ、まずまずと言ったところですかネ。部長はどうでしたカ?」
「ワイは小吉だ! リュウはワイよりも運が良いな!」
「小吉よりも吉の方が良いんですネ」
「あくまで一説によるがね。吉より小さいのを小吉と捉えるか、吉よりも少し運が高いのを小吉と捉えるか、解釈次第と言ったところさ」
「ガクっちは詳しいな!」
へぇ、そんな説があるんだ。俺はずっと吉>小吉と思い込んでた。そういや前世でもこんな風に親友と小吉だから負けただの、吉だから勝っただのしてたな。
見てるか親友、あの時は俺が負けたと思ってたが小吉の方が位が高い説があるから、実質的にあの勝負は俺の勝ちだぞ。悔しかったらもう一度勝負を仕掛けてこい…………前世の話だから、もう会えないけどな。
「私のは中吉ね。中々と言ったところかしら」
「緑ちゃん、私の大吉と交換しない?」
「交換したころで変わらないと思うのだけれど。どうしてかしら」
「この大吉、恋愛運が『兄以外なら叶う』って書いてあって……」
「ピンポイント過ぎないかしら!?」
咲黄だけ恋愛系のおみくじ引いた?
いやまぁ、全員同じ種類の引いたから違うけどさ。恋愛運の部分に兄だけってあるとか、咲黄だけをピンポイントに狙った神様的な奴の陰謀だろ。
「私のは……うっ、末吉かぁ。大吉出ると思ったんだけどなぁ、マホちゃんはどうだった?」
「…………」
「マホちゃん?」
「大凶、でした」
「え?」
「大凶引いちゃいましたあああ!」
勇子の呼び掛けに反応しないマホ。いったいどうしたのかと思っていると、突如大凶を引いた時が大きな叫びを出した。
後ろから回り込むような形でおみくじを覗いていると、デカデカと大凶と書かれており、他の運勢も悪く書かれていた。
おい待て、なんだその恋愛運の項目は。どうして『弟との恋愛は叶わない』って書いてあるんだ。咲黄と言い、マホと言い対象がピンポイント過ぎるだろ。
「ねぇマホちゃん。そのおみくじに運を回復させる方法って書いてないの? もしあるなら、それを試してみれば」
「ハッ! そうですね! えっと、運を回復させる方法は……『自分の作った道を進む』ですね」
「抽象的ね」
咲黄からアドバイスを聞き、引いたおみくじに書いてある運を上げる方法を読んだマホだったが、内容があまりにも抽象的過ぎて頭を抱えた。
どの道だよ、どうやって進むんだよ、他人の引いた道進んでるとか自覚ねぇよ!? 色々と言いたい事はあるが、マホはもう魔法少女をするって言う自分の道を進んでるから意味無いと思う。
あれ、じゃあもう運を向上させる方法無くね?
「本来なら悪いおみくじは結ぶのだが……マホくん、少し貸したまえ」
「え? は、はい」
大凶で落ち込むマホだったが、ガク先輩におみくじを渡すよう言われて素直に渡す。するとガク先輩はそのおみくじを畳み、何かを祈るように両手でおみくじを掴んで目を閉じた。
「ガクちゃんパイセン何してるんだ?」
「いやなに。私の運を少し分けようと思ってね、こうやって念じてパワーを与えてるのさ」
「なにそのオカルト」
「じゃあオレもパワーを送る! マホちゃんの運よ上がれぇ!」
「ならワイの運も分けよう!」
「仕方なイ、僕も送りますカ。知らない内に倒れてル、なんて事態になったら寂しくなりますからネ」
「俺の運も分けるぞ」
「私もよ」
「わ、私も!」
「ぐぬ~、はぁ~! はいマホちゃん!」
あまりにもオカルトチックな方法だが、これでマホが元気になるのならそれに越した事は無いだろう。ガク先輩、ラン、部長、リュウ、俺、緑、咲黄、勇子の順番でおみくじに運を送る。
運を送ると言っても、そういう雰囲気を醸し出してるだけで本当に出来てるかは知らないけど。まぁ要するに気分だ、気分。
「皆さん……ありがとうございます!」
「それを持っていれば運が悪くなる事は無いだろうね。ただ、万が一手放すと不幸が訪れるかもしれない、肌身離さず持ちたまえよ」
「はいッ!」
そうしてマホは大凶と書かれたおみくじを大切そうに、財布へと仕舞うのであった。
なお、その途中で屋台で買い物し過ぎたのか、財布の中身を見て驚愕するマホの姿は見なかった事にする。
勇子達と合流するまでに使いすぎたからだろ。早速金運面で不幸が訪れたな、自業自得って言った方が近いかもしれないが。




