第76話 俺の知り合いが夏祭りに集合な件
「ん? あれ、マホじゃないか」
「力男さん、こんばんは」
俺、ラン、ガク先輩の3人で夏祭りを見て回っていると、勇子の両親に買ってもらったのか、それとも勇子のお下がりなのか、水色の浴衣を着たマホを見つけた。
いつもなら誰かと一緒に行動している事が多いが、今日は1人だけ。しかも夏祭りなんて魔法世界から来たマホなら目を輝かせてそうなものだが、辺りを見渡してソワソワしていたりと、何処か様子がおかしい。何かあったのだろうか。
「力男さんも1人ですか?」
「ん? あぁいや、あそこにランとガク先輩が」
「仮面戦士、RN参上ッ!」
「店主。先ほどから見ていたが、一向にくじの当たりは出ないのは何故かね? ふむ。まだ当たりは出ていないだけ? あぁいや、別に店主を疑っている訳ではないさ。ただまぁ物事には確率ってものがあるからね、当たりが出ないって確率を引いているだけだろうね……時に店主、夜には不審者が多い。不審者と遭遇して命を危険に去らす、なんて確率を引かないよう気を付けたまえよ。なに、これはただの忠告だ。そうガタガタと震えなくても良いさ」
俺が指を差した方向には、お面屋でお面を買ってテンションが上がっているランと、くじ引き屋の店主を詰めているガク先輩の姿があった。
「…………悪い、見なかったことにしてくれ」
「あ、はい」
何してんだコイツら。
ランはまだ分かる。祭りに来てテンション上がったんだろうなって、勉強こそは例外だけど、ランは何事にも全力で楽しむタイプだし。
ただ、ガク先輩に関しては何したいの? 疑ってないとか絶対嘘だろ、確立の話持ってきて脅しをかけるな。
「あー、ところでマホ。今日は1人で来たのか? マホだけだと迷子になるだろ」
「むっ。私はそう簡単に道を間違うほど幼くないですよ。それに迷子なのは私じゃなくて勇子ちゃん、咲黄ちゃん、緑ちゃんの3人です!」
いや、それ明らかに迷子になった奴が言う台詞だから。いい加減方向音痴なの認めろ、この前も地図見てもスーパーの場所分からなかったから案内しただろ。
「じゃあ聞くが、神社の鳥居。つまり入り口はどっちだ?」
「えっと……あっちです!」
「逆だよ」
「え!?」
このままマホ1人にするのは不安だ。
俺のスマホから今連絡出来る奴は……ガク先輩ぐらいだな。マホもランもスマホ持ってないし、勇子達も同様だ。そもそも持ってたら、ここで連絡して事情説明すれば解決出来るし。
そうなるとガク先輩にここを離れるって一言掛けて、もし勇子達を見掛けたらここで待ってもらって、俺に連絡するよう頼むか。
「なぁガク先輩」
「何故突然店を畳もうとしているんだい? まるでやましい事を隠しているみたいじゃないか。商品は残っているのだろう? そのままだと赤字まっしぐらじゃないか。私がさっき話したのは確率の話さ。そう、そのくじと同じ確率の話だから怯えることは無いさ」
「駄目だこの人、俺の声が聞こえてない」
俺はガク先輩を頼るのを止めた。
取り敢えず、勇子達の居場所は千里眼で調べられるから、千里眼に従ってその場所まで行けば良いんだが、俺がこの場から離れてる間に、ランとガク先輩が俺がはぐれたと思って探す、なんて事態になったら二度手間だからなぁ。ランに一言話しておくか。
「ラン」
「オレはランではない、仮面戦士RNだ!」
誰だよ仮面戦士RN。
ランの名前を英語表記にしたRANから取って、RNって名乗ってるんだろうが、今はその冗談に付き合ってる暇は無いんだ。
「じゃあ仮面戦士RN」
「ハッハッハッ、何用かね!」
「ちょっとマホが勇子達とはぐれたようだから、一緒に探してくる。もし勇子達を見かけるような事があったら、ここで待ってもらってくれ」
「え、マホちゃんはぐれたの? よし分かった、オレも一緒に手伝いたいけど、力男の言う通りここで待ってるぜ!」
よし、これで問題ないな。
ガク先輩にはこれ以上踏み込まないようにして、俺はマホを連れて勇子達の元へ行くことにした。
えっと千里眼で勇子達の居場所を調べてっと……なるほど、あっちか。3人で固まってるみたいだな。
「前みたいに道を間違えないよう着いて来な」
「はい。不束者ですが、よろしくお願いします」
「その言葉は誤解を生むから止めような?」
前にもこんなやり取りしたな。
俺は真っ直ぐ勇子達の場所に向かったら、なんで場所が正確に分かったのかと疑問に思われるだろうからと、少しばかり寄り道しつつ、千里眼を使いながら勇子達が居る場所へと向かうのであった。
「力男さん力男さん、焼きそば売ってますよ焼きそば!」
「美味しそうだな。店主、焼きそば2つ頼む」
「型抜き? へぇ、爪楊枝でこの板をくり抜くんですか。少しやってみましょう……あっ、崩れました。難しいですね」
「もう少し丁寧に削ればいけるんじゃないか?」
「りんご、飴? 初めて聞きますね。もしかしてりんごが丸々飴になっているんですかね?」
「あぁいやりんご飴ってのは……おい待てマホ」
「はい、なんですか?」
少しばかり寄り道と言ったな、あれは嘘だ。本当は何度も寄り道した挙げ句、勇子達とは段々離れていってる。
いやだってさ、屋台を進む度にマホが目を輝かせて「力男さん力男さん、アレはなんですか!」って聞いてくるんだよ。それに全部答えて、興味あるならと寄ってたら、いつの間にかこうなってた。
「勇子達と合流する目的何処行った」
「ハッ! い、いえ。ちゃんと覚えてますよ! 決してお祭りの楽しそうな雰囲気に流されて、忘れてた訳じゃないですから!」
「それもう忘れてるって言ってるじゃねぇかよ」
俺も人の事言えないけどさ。途中から、魔法世界から此方に来たマホに夏祭りを楽しんでもらおうと思って、合流する目的忘れて屋台しか見てなかったけどさ。
改めて勇子達と合流しようと、千里眼を使おうとした時、買わずに通りすぎようとしたりんご飴の屋台から、俺とマホの耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
「これがりんご飴だ! 旨いかリュウ!」
「美味しイ、ですネ。故郷を思い出す味でス」
「リュウの故郷でもりんご飴あったのか?」
「僕の居た故郷ではりんごの代わりニ、桃を使っていましタ」
それは私服姿の部長とリュウであった。
あの2人が一緒に居るなんて珍しいと言うか、意外だな。
片やワルインダーの幹部、片や一応は一般人の陸上部の部長。互いに接点を持つような相手じゃないから、一緒に居るぐらい仲が良いなんて知らなかった。
意外な組み合わせに目を奪われていたのもあって、ずっと部長とリュウを見ていたが、あっちも俺達に気が付いたようで、りんご飴片手に近付いてきた。
それとマホ、りんご飴なや後で買ってやるから。そんな欲しそうな目をしてたら2人とも食べにくいだろ。
「おお力男とマホか、久しぶりだな!」
「力男さン、マホさン。こんばんハ」
「よっ」
「こんばんは。突然ですみませんが、勇子ちゃんや咲黄ちゃん、緑ちゃんを見ませんでしたか? 3人とも迷子になっていまして」
「迷子はマホだろ」
まだ認めないつもりか。まぁそんな小さい子どもみたいな言い訳、信じる奴なんて居ないだろうから、強く訂正しなくて良いか。
「なにぃ!? 咲黄が迷子だと! 待ってろ咲黄、お兄ちゃんが探してやるからな!!」
「いやあの部長、僕を掴んで何処にへええええエ!!」
前言撤回しよう、信じる奴ここに居たよ。
部長は咲黄が迷子だと話すマホの言葉を聞いた瞬間、りんご飴を口に加えて、リュウの手───りんご飴持ってる方とは反対の手───を掴んで、何処かへと走り去ってしまった。
「…………聞く相手、間違えたな」
部長がシスコンなのをすっかり忘れてた。
もし覚えてたら、マホの言葉を訂正して……も、多分だけど部長は聞く耳を持たなかっただろうな、うん。結局は変わらないか。
俺はマホにりんご飴を買い与えると、もう寄り道はしないと誓って勇子達との合流を再開するのであった。
え、なに。金魚釣り? 勇子の家で飼えるか分からないから駄目だ。ほら、早く行くぞ……あ、かき氷? ブルーハワイ味が食べたいって言われてもな。そもそもかき氷のシロップって全部同じ味で、違いは色だけでってちょっ、そんな落ち込むなって! 悪かったって、夢を壊すような事を言ってさ。このベビーカステラやるから元気出してくれよ! あ、元に戻った。チョロいな。
私の中のマホイメージ:幼い妹。ペットの犬。




