第72話 私の身体が縮んでしまったな件です
「う、うぅん……」
「目覚めるまで2分56秒。ふむ、やはり計算に狂いは無かったようだね」
「狂ってるのはガクの頭ライ」
「ハハハ、ライヨウくんは冗談が上手いね」
いつから眠ってしまっていたのか。
私はガク先輩とライヨウが楽しそうに会話しているのを耳にし、うっすらとしていた意識を覚醒させていきます。
確かランちゃんがこの前プールに持ってきていた水鉄砲と同じ物がガク先輩のお家にも置いてあって、それについて聞いていてその後は……あぁ、そうでした。ガク先輩がジュースに薬を盛ったと言ってましたね。
「あれ、ペンヨウ。大きくなりましたか? 成長期ですね」
「たった数分で大きさが変わったのを成長期の一言で済ますんじゃないセイ。あとペンヨウが大きくなったんじゃなくて、マホが小さくなったんだセイ」
「え!?」
ペンヨウの言葉に私は自身の身体を確認します。
すると私の身体は数分前と比べて縮んでおり、見た目こそは服装含めて変わっていませんが、このぬいぐるみ程度の大きさはまるで妖精のよう……いえ、妖精そのものです。
「え、あ……」
「マホ、驚くのも分かるセイ。でもこれはガクが薬を」
「ペンヨウ、黒い服装した怪しい人見ませんでしたか!? これは事件です、怪しい組織の陰謀です、小さな名探偵になるチャンスです!」
「アニメの見すぎセイ。早く正気に戻るセイ」
「あいたっ!」
この世界にコ〇ン君が実在した事実に興奮していると、ペンヨウに頭を軽くペチペチと叩かれます。
うぅ、元の姿ではペチペチされてもなんともないですが、この姿ですとペンヨウと同じぐらいの大きさになっているのもあってか、身体全体でペチペチを受けるので痛いですね。
「ふあぁ~おはようマホちゃん。ってあれ、マホちゃんの姿が変わってる!? あ、私もだ!?」
「おはようマホくん、勇子くん。身体の調子はどうかね?」
「身体の調子って……ガク先輩、どうして私達をこの姿に? キック力を上げる靴はありますか?」
「家政婦を見せる対価として実験に付き合ってもらおうと思ってね、30分経てば元の身体に戻れるさ。それと私は発明家になった覚えは無いね」
私は勇子ちゃんやペンヨウ達と毎週見ているコ〇ン君が使っているような道具が無いと知って、ガックリと肩を落とします。道具があればコ〇ン君ごっこしようと思いましたが、残念ですね。
それにしても、ガク先輩の言う実験は何処か心辺りがありますね。人を妖精にする薬、聞き覚えがあるんですがね。あれは確か……
『そうか。急に電話してすまないね、謝礼として人間を妖精に変える薬をプレゼントしようではないか』
「あっ! 実験ってもしかしてあの時の!」
「おや、思い出したようだね。まぁ思い出そうがそうでなかろうが、結局は説明するつもりだったがね」
そうです、ガク先輩がペンヨウについて力男さんに電話していた時に、そんな薬があると言っていました。
あの時言っていた薬が、私達が今こうなっている原因なんですね。
「実は君達には、人間を妖精に変える薬を飲んでもらったのさ」
「ええ!? そんな事出来るの!?」
「事実は小説より奇なりと言うだろう? 実際、君達のその姿こそが答えを表しているさ」
話として聞いていたり、こうして体験こそしているものの、そんな薬があるとは信じがたいですね。
正確には、人を別の生物へ変化させると言う常識外の事に対して、脳が理解を拒んでいると言った方が合っているかもしれませんが。
「マホちゃんマホちゃん!」
「どうしました勇子ちゃん?」
私が目の前の受け入れがたい事実を、ゆっくりと受け入れようとしていると、勇子ちゃんが目を輝かせながら話しかけてきました。
そして、そんな勇子ちゃんは大きなクッキー───人間サイズでは指で簡単に摘まめるぐらいの大きさ───を一枚抱えていました。
「この姿だと、クッキーを沢山食べられるよ!」
「本当ですか!?」
勇子ちゃんの言葉に私はお菓子の置いてある皿に近付いて、クッキーを一枚食べ始めます。
人間サイズでは一口で食べ終わってしまうようなクッキーですが、身体が妖精となっている今では、いくら食べ進めても減る気配が無いです。
これは革命、革命です! いつもなら簡単に無くなってしまうお菓子ですが、この姿なら沢山食べれます! 私、もう一生この姿で良いかもしれないです!
「クッキー食べてると喉渇いてきちゃった。ガク先輩、このジュースって飲んで大丈夫?」
「君達が寝ている間に普通のジュースに変えておいたからね。問題ないさ」
「ありがとう! ジュース、ジュース……っとと!」
「勇子ちゃん大丈夫ですか?」
クッキーを食べて喉が渇いた勇子ちゃんは、薬が入っていないジュースを飲もうとしますが、慣れない身体のせいかジュースを溢しそうになって、慌てて紙コップを支えます。
「ありがとうマホちゃん。うーん、この姿だとジュースが飲みづらいね。ライヨウ、力を貸して!」
「何するか知らないけど分かったライ」
ジュースを飲んで紙コップを置いた勇子ちゃんは、何かを少し考えてからライヨウに力を貸すように頼みます。いったいなんでしょうか?
「変身!」
「え!?」
「ほぉ?」
私とガク先輩の驚く声と共に、勇子ちゃんは光に包まれて魔法少女へと変身していきます。
ですがいつもの変身と違う部分があります。それは等身が今の妖精の姿から、いつもの人としての大きさまで変わっている事です。いえ、この場合は戻っているの方が正しいでしょうか。
「やった、成功した!」
「ゆゆゆ勇子ちゃん、元の姿に戻ったのですか!?」
「うん! 変身して、だけどね」
「ふむ。変身後の姿は薬を飲んでも変わらないのか。これは魔法少女に変身出来ない私では発見出来なかったね」
お菓子を沢山食べるには妖精の姿が良いですが、ジュースを飲むとなると人の姿の方が良いんですね。ぐぬぬ、私はどっちを選ぶべきですかね……!
「でもこの服を汚すのは嫌だなぁ。ライヨウ、元に戻っても良い?」
「我が儘ライね。ま、良いライよ」
私が変身するか否か悩んでいると、勇子ちゃんは魔法少女としての服を汚したくないと変身を解除しました。
万が一お菓子やジュースで汚してしまった場合、魔法少女の服をそのまま洗濯に出すわけにはいかないですからね。
「あれ、縮んでる!?」
「薬の効果はまだ残っているからね。変身を解除したから、薬の効果が再発したのだろうね」
「そんな~!」
あぁ、変身したからと言って、変身を解いたら元の人の姿に戻れる訳では無いんですね。変身したらもう妖精の姿に戻れなくて、クッキーを沢山食べれないと思ってました。
そうしますと……ハッ! 天才的な発想を思い付きました!
「勇子ちゃん! お菓子を食べたい時はこの姿、ジュースを飲みたい時は変身すれば良いのでは!?」
「それだ!」
「「ペンヨウ!」」
「「そんな私利私欲で変身させたくないセイ」」
「「え~!」」
私の天才的な発想はペンヨウとライヨウに拒否されました。うぅ、沢山お菓子を食べれる最高のアイデアだと思ったんですが……。
結局私達は薬の効果が切れるまで、妖精の姿で30分過ごしました。
今度、ガク先輩に頼んでこの薬貰いましょうかね? べ、別に私利私欲では無いですから。お菓子を沢山食べたいからって理由ではなく、あえて妖精の身体を利用する事によって、ペンヨウ達が生活する上で苦労している事が無いか調べるためですから。えぇ、本当ですよ!
初期は真面目そうな面が目立ってたマホが、こんなにもボケるようになって私は嬉しいよ……! なお、突っ込みの負担は考えないものとする。だから力男、今後も頑張れよ。
※この世界にコ○ン君は実在しません。




