第70話 みんなのふざけが限界突破な件
※今回はギャグ100%回となってます。深く考えるのは止めましょう。
3人に泳ぎ方を教え始めて、大体2時間が経った。各々最低限の目標は達成出来、水にも慣れたので事故───主に緑が溺れたり───が起こる事は無いだろうと思い、自由に遊んで良いことにした。
そもそも教えてたのは泳ぎ以前の問題だったからなのが理由だが、折角遊びに来たのに今日一日教えて教えられるのはつまらないだろうからな。最低限が出来るようになったなら今ならきっと大丈夫だろ。
「勇子ちゃん、あそこまで競争しましょう!」
「うん! 負けないよマホちゃん」
教えた事をスポンジのように吸収したマホは、瞬く間に成長して今では勇子と競争出来るようになった。
それも、一度も泳いだことの無い人間がたった2時間で、小学校6年間の授業で泳ぎに慣れている人間と競争が成立するようになった、と言えばよりその凄さが伝わるだろうか。
勉強面でもそうだったが、マホは魔法世界出身なのもあってこの世界に来るまで今まで知らなかった、もしくは試すような機会が無かったのだけで、勉学や運動と言った様々な面の素質を秘めているのだろう。
「見なさい咲黄、私は浮けるようになったわ!」
「良かったね緑ちゃん。ここ、膝ぐらいの深さしか無い場所だけど」
一方で緑に関してだが……まぁ、うん。頑張ったんだ、頑張った上で何故かどう頑張っても身体全身が浸かるプールでは沈むのが判明した。ちょっともうどうにも出来ない。
と言う訳で、浅い所で特訓してもらう事にした。これは湯船に使っている時は溺れた事が無い、つまりもう少し浅い所なら浮けるのでは? と緑自身の発想を採用した結果である。
その結果、膝程度の深さなら沈まないと判明した。身体全身が浸かるプールから始めたのに、いつの間にかハードルが下がったが、元は沈まないと言う目標だったので実質達成したと言えるだろう。
「ラン、調子はどうだ?」
「泳ぐのって難しいな。オレには向いてないかもしれない」
そしてランに関しては、泳ぎが必要ない事が判明した。
いやだってさ、スタートダッシュ時に壁を蹴った反動だけで泳がずに反対側に辿り着けるし、より速さを求めるなら水の上を走れば良いから、泳ぐメリット無いし。
素潜りだったり、溺れた誰かを助ける場合でも、潜水するよりさっきみたいにバタフライの勢いで水を左右に割った方が楽で速いし。
「やっぱり走った方が速いな!」
「それはお前だけだよ。普通、人類は水の上走れないからな?」
ラン以外に水の上を走れる奴なんて……あー、ざっと5人は思い付くわ。
具体的に言うと、魔法少女達と部長。なんやかんやで部長と会ったのは陸上部の強制体験が最初で最後だが、あの人のキャラが強烈すぎてずっと記憶に入っている。
「あっ! ちょっと思い出した事ある。震えて待ってろ!」
「まだそこまで身体冷えてねぇから」
そう言ってランは更衣室の方へと一度戻っていった。
ランよ。2時間もプールに入ってたとは言え、ここ温水プールだし休憩も取ってたから。唇が紫になってガタガタと震えるほど冷えてないから。
「みんな、丸太は持ったか!」
「水鉄砲じゃねぇか」
「ほい、力男の分」
「マジで? サンキュ」
どうやらランは拳銃サイズの水鉄砲を二丁持ってきていたらしく、その内の一丁を俺に貸してくれた。そして俺はその水鉄砲をマジマジと見る。
ランの事だから変なのを持ってきたと思ったが、そこら辺に売ってそうな水鉄砲だな。唯一気になる点があるとすれば、水鉄砲に謎のボタンが一つ付いている部分だろう。
このボタンを押すと何が起こるか気になるが、それは一旦後で試すとしよう。そんなことよりも、今はこれ使ってふざけたい。
「緑、手を上げろ!」
「え? あ、そういうことね。くっ……分かったわ。今手を上げオボボボボ!」
「緑ー!?」
「緑ちゃーん!?」
一瞬、俺の行動に呆気に取られた緑だが、握っている水鉄砲を見て全てを理解したようで、水に浮かんだ状態で両手を上げてそのままバランスを崩して溺れた。
まさかその状態で腕を上げるとは思っていなく、俺は水鉄砲を降ろして急いで咲黄と一緒に緑を引き上げる。
ここは浅いプールのため、さっきと違い今回はプールサイドまで引き上げる必要は無く、上半身だけをプール出すだけで済んだ。
「悪い。てっきり、起き上がってから手を上げるものかと」
「別に気にしてないわよ。こういう時は動かないのが定番だと思い込んでた私も悪かったし」
テンションが上がっていたとは言え、柄にも無くふざけるのは止めよう。そう心の中で誓い、またふざけて緑が溺れると困るため、ランに水鉄砲を返そうと辺りを見渡す。
「マホちゃん動くなよ、動いたら勇子ちゃんの髪はビショビショになるぞ!」
「きゃ、キャー。マホちゃん助けてー」
「ひ、卑怯ですよー」
探すのに手間が掛かると思ったが案外簡単に見つかった。どうやらランは勇子を人質に取って遊んでいるようだった。
まぁ人質と言ってもそんな深刻なものではなく、勇子もマホも遊びだと言う意図は分かっているようで、棒読みの演技でその状況を楽しんでいた。
「ランちゃんあの水鉄砲持ってきてたんだ」
「ここって水鉄砲使って良かったのかしら」
「そうならあそこの看板に使用可能って書いてあるぞ」
「あら本当」
あの水鉄砲ってなんだ、あの水鉄砲って。もしかしてこのボタン押すと何か起こるの? ちょっと怖くて押せないんだけど。
「私もランちゃんに対抗しないと……! 力男くん、それ貸して!」
「え? お、おう」
珍しく積極的な咲黄に押されるがまま、水鉄砲を渡すと咲黄はランの後ろに回り込むような形で3人へと近付く。
「ランちゃん! 勇子ちゃんを離して、そうしないと撃つよ!」
咲黄はランに警告を出すと共に、水鉄砲に付いているボタンを押す。すると拳銃サイドだった水鉄砲が突然変形を始め、抱えられる程の大きさなり、爪楊枝1本しか入らない程度であった銃口も複数に増え、人の腕がスッポリ入るほどに変わった。
「なぁ緑、水鉄砲って変形したっけ」
「少なくとも私は知らないわね」
変形する水鉄砲って何? 聞いたこと無いんだけど。何あれ市販? それともガク先輩が作った? でも市販じゃ見たこと無いし、ランとガク先輩って接点無いよなぁ。じゃあ本当になんだあれ、怖いんだけど。
「警告はしたからね! えーい!」
咲黄は未だ勇子を人質にするランに話は通じないと思ったのか、明らかに水鉄砲とはかけ離れたモノを構え、ランに向かって発射した。
「ぐわー!」
「待って咲黄ちゃん! それ私も巻き込まうわあああ!」
「2人とも今助け……あっ、脚を吊りまガボボボボ!」
変形した水鉄砲からは洪水と思い浮かべるような勢いで水が噴射され、それをマトモに受けたラン、そして人質にされていた勇子を巻き込むような形でプールへと吹き飛ばす。
そんな吹き飛ばされた2人を助けようとしたマホだが、教えに沿って泳ぎの特訓をしたり、勇子と競争して長時間身体を使ったためだろう。疲労した脚を吊ってその場に沈んだ。
「力男くん、緑ちゃん。私……これでみんなの事、救えたかな?」
「「誰一人救えてねぇよ!?」」
ギャグ空間に飲み込まれている咲黄を正気に戻し、俺達はマホ達3人……いや、マホ達を助けようとプールに飛び込んで見事溺れた緑を含めて、4人をプールから助けるのであった。




