第69話 俺の友達が泳げないな件
ここで一つ小話。
この頃になって「へぇ。ニチアサって主人公に独特の口癖や決め台詞あるんだ」と知りました。当然この作品にそんなのは無い。だって今まで知らなかったから。
唯一あるとすれば、勇子がよく呟いている「終わった……」です。よし、これからはそれを決め台詞にしよう!
……ねぇ、嫌なんだけど。魔法少女側主人公の相棒ポジの決め台詞がこんな絶望感溢れる台詞とか。これがニチアサだったら見てる女児一切ポジティブなれねぇよ、ネガティブまっしぐら路線だよ。
最近はひたすらに暑い日が続く。
夏だから。そう言われたら何も返せないが、こう暑い日が続くと外に出るのすら億劫になる。そんな事を言っている俺だが、今現在外出中だ。どうしてかって? そりゃあ……
「力男力男、早く泳ごうぜ!」
「その前に準備体操しろ陸上部」
ランと泳ぎに来たからである。
ここは学校近くの市民プール。夏の間ならば中学生以下は無料で入れると言う太っ腹なサービスが実施されているのだ。俺1人なら暑くて行こうとはしなかったが、ランから電話で「暑いからプール行こうぜ!」と誘いを受けて、一緒に来たのである。
プールに来てテンションが上がったのか、ランはプールサイドを走る勢いでプールに飛び込もうとするが、俺はランの肩を掴んでそれを止める。まったく、こんな所知り合いに見られたら呆れられるぞ。
「あれ、力男くん?」
早速居たよ、知り合い。
俺は声の主である咲黄の方へと振り返る。1人で来ているのか、それとも誰かと来ているが別行動なのか。咲黄の近くに知り合いらしき人物の姿は見えない。
「咲黄も泳ぎに来たのか?」
「うん。マホちゃんや勇子ちゃん、緑ちゃんと一緒に来たんだ」
そう言って咲黄が指を差した先には、プールの隅っこ付近でワチャワチャしている3人の姿が見えた。妖精の姿が見えないが、更衣室で待たせるのは悪いと思ったのか、今日は連れてきてないのだろう。
俺は四人も居ればランが変な行動しても止められるだろうと思い、咲黄にランが準備体操をちゃんとしてるか見るのを頼み込んでから、3人へと近付いた。
「実は私、泳いだこと無くて……良ければ泳ぎ方を教えてくれませんか?」
「私に任せなさい! まずはこうやって水に浸かオボボボボ!!」
「緑ちゃん!?」
何してるの? ねぇ、本当に何してるの?
マホに手本を見せると言って、プールサイドから手を離した瞬間沈んでいった緑に呆れつつ、溺れてる緑を助けようとしている勇子を手伝うためプールへと入る。
「おい、水飲み込んだりしてないか?」
「え、ええ。ありがとう……って力男!?」
プールから引き上げると一息付けたのか、溺れる心配が無いと分かると、周りを見る余裕が出来たのか、すぐ側に俺が居る事に緑は驚いた。
この様子だと然り気無く超能力使ったのはバレてなさそうだな。
さすがに2人───マホも助けようとしたが、泳いだことの無いマホは水に慣れてないのか中々前に進めなくて、緑の居る場所に着く頃には既に助け終わってた───とは言え、溺れてる人間1人助けるのは難しいと思い、俺は緑に『サイコキネシス』を使った。
俺のサイコキネシスは触れたモノを一つだけ自在に操れる超能力だ。今回の場合は溺れてる緑に触れて、勇子と一緒に引き上げる時に緑の身体を操り、簡単に持ち上がるようにした。
この超能力を自分自身に使えば擬似的に空を飛ぶのも可能だが……こんな暑い中、空を飛んだら常時身体全体で熱風を浴びる形になるので使う機会は無いだろう。そもそも目立つし。
「どうしてここに?」
「ランに誘われてな。それより、泳げないなら無理するなよ」
「いえ、私はちゃんと泳げるわ。安心しなさい!」
今のを見て何をどう安心しろと?
俺はもう一度泳ごうとする緑を止めて、準備体操が終わった咲黄とランを呼ぶ。あくまでマホに教えるって建前なら、緑も無理に泳ごうとしないだろうし、誰か近くに居れば溺れた時助けやすいからな。
「俺やランが見るから、ひとまずマホと緑は泳ぎ方を」
「オレ泳げないぞ」
「…………マジで?」
「マジだ!」
それはちょっと意外すぎる。
てっきり規格外の身体能力で世界記録を簡単に破ってると思ってたんだが。ランがそういう冗談は言わないのは分かっているが、一応咲黄に視線を送って確認を取るが、頷いているので本当のようだ。
「もしかしてカナヅチなのか?」
「泳ごうとすると、身体が直立するんだ」
ちょっと何言ってるか分からない。
泳ぐと直立する? 直立とはその言葉通り、真っ直ぐに立つ事を差す。そして本来泳ぐとなれば、基本的には身体はプールと平行になって前へと進んでいくだろう。
「あー、うん。一度泳ぎを見せてくれ」
「バタバタバタバタ!」
ランは俺達から少し離れると、身体全体を水へ浮かしてバタ足を始めた。するとどうだろうか、バタ足のあまりの速さに身体が前に進むのでなく、段々と身体が起き上がっていき、最終的には水の上に立った。
何を言っているか分からないかもしれないが、俺もよく分からない。見る限りでは、身体が水に沈む前にバタ足で動かしている脚によって、沈まずに水の上に立てているようだ。
「物理法則どうなってんだよ……」
「こんな風に泳げば良いんですね!」
「違うよ!?」
これを泳ぎとは俺は認めない。
マホが変な勘違いをしているが、勇子が必死に説明しているのでその誤解はきっと解けるだろう。それより今はランがどの程度泳げるか確認するのが先だ。
マホ、緑の2人には初歩的な部分から泳ぎを教える事になりそうだが、ランはまだ分からないからな。もしかしたらバタ足が出来ないだけで、バタ足を使わないバタフライや平泳ぎは出来るかもしれないし。
「ラン、次はバタ足せずに腕だけをバタフライのように動かしてくれ」
「せいやぁ!」
ランが両腕を上げプールへと叩きつけた瞬間、プールの水がランに道を作るように左右に真っ二つへと割れた。その光景はまるで、神話として語り継がれている『モーゼの海割り』そのものであった。
「誰が神話を再現しろと言ったよ!?」
「力男、失敗した」
「見たら分かるわ! あーもう、ちょっと待ってろ。3人分のビート板借りてくるから、それ使って練習するぞ」
「なぁ力男」
「ビート板に乗ってサーフィンの真似事するのは禁止な」
「「え~!」」
もう何を言おうとしてるか予想がつくんだよ。俺はラン、そしてコッソリ同じことを考えていたらしい勇子の抗議を右から左へと聞き流し、ビート板を取りに行くため一旦プールから出た。
「さて、まずはバタ足から教えるが」
「咲黄。絶対に、絶対に手を離さないでよね!?」
「う、うん。分かったよ緑ちゃん」
「勇子ちゃんは泳げるんですか?」
「それなりだけどね」
俺はビート板を三つ持ってきて、俺とラン。マホと勇子。咲黄と緑のペアで泳ぎを教えることになったが……うん、一つ言わせてくれ。不安しか無い。
特に不安の種である緑はビート板、もしくは人から手を離すと突然身体が沈むらしくて、ガタガタと身体を震わせながらビート板と咲黄の身体を両方掴んでいる。脚に重りでも付けてるのかよ。
「ビート板を持ってまずは前に進む練習だ。勇子、咲黄、2人がバランス崩しそうになったら支えてくれ」
「力男先生、質問があるわ」
「誰が先生だよ。で、なんだ?」
「教えてもらう立場の私が言うのもおかしな話だけれど、先に溺れない方法は教えてくれないのかしら」
「今はビート板で水に浮く感覚を覚えろ。そうすれば、多少は良くなるはずだ」
「分かったわ」
もしそれでも一向に上達しない場合は、サイコキネシスでバレない程度に浮かして泳ぎの感覚を覚えられる。だからまずは最低限、溺れないようになるのが目標だ。
「力男先生質問です!」
「だから先生じゃないって。それで質問ってなんだ?」
「ここのプールは魚が泳いでないです!」
「プールを水族館や海と勘違いしてる? ここは人工的に作られた泳ぐ場所だから、魚なんて居ないぞ」
「そんな!?」
泳ぎ関係ない質問じゃねぇかよ。
しかもその質問、天然通り越して単にこの世界に対して知識不足なだけじゃねぇか。魔法世界にはプールが無い、もしくは行ったことが無いのかもしれないから勘違いは仕方無いとして、ここまで来て違和感持たなかったのかよ。
「ティチャー力男先生ティチャー!」
「何回先生って言うつもりだよ」
「バタ足すると身体が起き上がるのをどうにかしたいですティチャー!」
「それは人類じゃどうにも出来ない。諦めろストゥーデントラン」
「す、ストゥーデント……? それってなんですかティチャー!」
「生徒って意味だよ。ラン、お前には後で英語の授業をしてやるよ」
大丈夫かコイツら。
身体が沈む緑、水泳初心者のマホ、規格外のラン。この中だと初心者が一番マシってどうなってんだよ。
俺はちゃんと教えられるか不安を抱えつつ、問題児2名+初心者1名の生徒に泳ぎ方を教えるのであった。
【サイコキネシス】
触れたモノを自由自在に操れる超能力。ただし浮かせられるモノは一つのみであり、人を指定した場合は身に付けてる服や荷物も1つとしてカウントしてくれる親切設計。メタ的な話をすると、それを除外すると場合によっては裸になる事故が起こるため。
なお、物の場合は例外。例えばコップは操れても、中に入っている液体までは操れていないので、逆さまにすると普通に落ちる。若干使いにくい能力だったりする。
モーゼの海割りをしたかったが為に、ランに泳げない設定を追加しました。普通に泳げるのに、突然水を割ったら不自然ですからね。




