第68話 ペンヨウの自称付き添いが遊びに来たな件
「お、お邪魔します」
「邪魔するセイ!」
今日も今日とて暑い日が続く中、俺の家にペンヨウとマホが遊びに来ていた。
マホも一緒に居る理由は、前まで───マホ達にアクロコを匿っている事だったり、秘密を知っている件を共有するまで───はペンヨウ1匹で遊びに来ていたのだが、1匹だけでは危険だと言う至極真っ当な意見がマホから出たからである。
人によっては心配性と捉えるかもしれないが、俺としてはその意見には同意である。
これまでペンヨウはアポ無しで俺の家に来ていた。それまでは俺が家に居たから助かったが、もし俺が家に居なかったらどうなっていたか。
珍しい動物認定されて誘拐される、もしくは暑さにやられて熱中症となり倒れていただろう。
そういった可能性や、他にも万が一誰かに危険が迫った時に備えて、いつでも連絡出来るようにしようとの事で、連絡先を交換していた。
そうして今日、マホからペンヨウの付き添いで一緒に行くと言う連絡があり、今に至るのだ。
なお、電話中に「ペンヨウとゲーム……い、いえ。付き添いで行きます!」と本音が見え隠れしていたのは秘密である。
「外暑かっただろ? ほれ、アイス食っとけ」
「力男、いつもありがとうセイ!」
「ありがとうございま……待ってくださいペンヨウ、今いつもって言いました?」
俺はいつものようにペンヨウ、そしてマホにアイスを渡すと、マホは何かが引っ掛かったのか、突然ペンヨウを問い詰め始めた。
「言ったセイけど、それがどうしたセイ?」
「アイスは1日1個と決めてますよね」
「あっ……そ、そうセイね」
「夜に毎日アイスを1個食べてますよね。で、力男さんの家でもいつもアイスを食べているんですよね?」
「マホ、なんだか顔が怖いセイよ?」
「勝手にアイスを2つも食べるからですよ!」
あぁなるほど、だいたい理解した。ペンヨウの奴、アイスは1日1個ってルールがあるのに、俺の家と勇子の家で1つずつ、つまりは合計2個も黙って食べてたのか。
「力男~、助けてセイ!」
「どう見ても自業自得なんだが?」
ペンヨウはマホから逃げるように、俺の背中に隠れるが……何をどう助けろと? てか然り気無く俺を共犯にしようとしてないよね? 俺、お前の1日アイス1個ルールとか初めて聞いたんだけど。
別にペンヨウを見捨ててマホに突き出しても良いんだが、ここでマホがペンヨウに怒ったら後が気まずいだろうな。そんな気まずい空気を過ごすのは、マホやペンヨウは嫌だろう。はぁ、適当に言いくるめるか。
「まぁ落ち着けってマホ。それよりアイス溶けるから早く食べろ」
「あぁそうでした!」
マホは俺の言葉にハッとして、渡した棒アイスを一口齧る。汗をかくほど身体に熱が籠っていたのだろう。アイスが口から喉へ通って、身体全体の熱が引いて冷えていくのを感じたのか、マホは幸せそうな笑顔をこぼした。
「はい、これでマホもアイスを食べたから共犯になったな」
「あっ!? ひ、卑怯ですよ!」
「卑怯と言われても困るんだが。それに無理してルールを守る必要は無いだろ? 我慢した結果、熱中症で倒れられても嫌だしな」
「ぐぬぬ……そ、そこまで言うのなら」
去年に比べると何度か低くなっているようだが、それでも暑いものは暑い。水分補給も大切だが、身体を冷やすのも大切だからなぁ。家の中でクーラーを我慢した結果、熱中症で倒れた事例なんかもあるし。
それにしてもやっぱり暑いな。あー、このまま段々と気温下がらねぇかなぁ……。ガク先輩に頼めばどうにかしてくれるか? 対価として何を要求してくるか分からないから出来る限り頼みたくないが。
「あふぁふほ、ほれほーふはなんへふか?」
「アイスを食べるか喋るか選んでほしいワニ」
「モグモグモグモグモグ」
「そっちを選ぶワニ!?」
お、思ったより仲良さそうだな。
ペンヨウとの仲は多少良くなったが、元々は敵対していた身。アクロコとマホの間に溝が出来ていても不思議じゃないから、今日はゲームを通して交流を深められれば。そう考えていたが、どうやら杞憂だったらしい。
「ジュースと菓子用意したぞ。さてマホでも楽しめそうなゲームとなると……よし、これだな」
「これはなんですか?」
「レースゲームだな。一番早くゴールした奴が勝ちのゲームだ」
俺はソフトを起動させて、全員にコントローラーを配る。マホはコントローラーを受け取ると、両手でガッシリと持ち、正座をしながら背筋を伸ばした。
そんなマホの姿を微笑ましく見守りながら、軽くカートの説明をして早速レースを開始した。だが、俺達やCPUが前へと進む中、マホだけは何故か一切動かないでいた。
「うわわ!? 皆さん走り出しました……ってあれ、力男さん。私の車だけ進まないです、応援すれば進んでくれますかね?」
「ん? そりゃあAボタンを押せば進めるぞ」
「Aボタン? あ、これですね」
マホはコントローラーを一度確認し、Aボタンを押して俺達やCPUにすら遅れをとる形で前に進んでいく。そうして真っ直ぐ進む内に、カーブのコースへと入った。
マホは上半身をコントローラーごと右、左へと動かしながらカーブを曲がりきる。その姿はまるでゲームどころか、コントローラーを握るのですら初めての初心者と錯覚させる。いや、錯覚じゃなねぇなこれ。
「あー、マホ。一応確認するけど、テレビゲームしたことある?」
「一度も無いですね!」
「何故自信満々!? じゃあ操作教えるわ。Aボタンを押せば進めて、コントローラーの後ろにあるこのボタンを押せばアイテムを使える」
「アイテム? あ、この端っこに写ってるこれですか?」
「そうそう。このアイテムは使うと加速出来るんだ」
「うわわ、スピードが上がりました……ああ! 落ちちゃいました!」
「勝手に復活するから問題ないぞ」
マホの操作するキャラが奈落に落ちてしまったが、このゲームには落下したらGAME OVER、なんて概念は存在しない。すぐに復活して、落下した場所から再開出来る親切仕様なのだ。
「力男さん、このレース場にバナナの皮落ちています! 誰がポイ捨てしたんですか? 許せないです!」
「いや、これそういうゲームだから」
「力男さん力男さん! 車が、車が空を飛んでいます!」
「凄いだろ? まぁアイテムで墜落させるけど」
「ええ!?」
それから俺達はひたすらにレースゲームで遊んだ。初心者用として対人用のパズルゲームもあったが、もう夕日が出ており今日は時間的に遊べなさそうだ。まぁ今度来た時で良いか。
「もうこんな時間ですね」
「今日も負けたセイ」
「真っ直ぐ走れるようになった分、成長はしているワニが、まだまだワニャアの敵じゃないワニ!」
いつものようにペンヨウはへこみ、アクロコが煽る光景が繰り広げられているが、以前のように頻繁にコースアウトはしないようなったのは進歩と言えるだろう。それでも実力はアクロコに及ばないが。
ふぅ、どうやら過去を引き摺っている様子は無さそうだな。アクロコが過去を知ってから、ペンヨウに対する態度が余所余所しいモノになるんじゃないかと心配していたが、問題無かったようだ。
「また遊びに来いよ」
「ええ! また遊びに来ます!」
「あれ? マホが一緒に来るのはペンヨウの付き添いって話セイよね?」
「へ!? あ、ええと。そ、それは……実は遊びと言う名目で、本当はアクロコの監視で来たんですよ!」
「一緒にゲームした中なのに、ワニャアは信頼されてないワニ? 確かにそうワニよね。ワニャアはワルインダーの幹部だったワニだから……」
マホよ、それは監視相手が目の前に居る状態で言ったら意味が無いだろ。
そしてアクロコよ。マホの言葉で傷付いた風を装って、下を向いて落ち込んでいる雰囲気を出しているが、演技だと分かってるから。マホとペンヨウは騙せたとしても、長い間一緒に居る俺は騙せないから。
「え!? ごめんなさい、これは違うんです! ああえっと、その……ええと」
「マホ。恥ずかしいのは分かるが、ここで下手な嘘付くと余計拗れるぞ」
俺とアクロコはマホが虚勢を張っているのに気付いてるが、ペンヨウはマホの事一切疑ってない。良い信頼が築けてると言えば聞こえは良いが、正直に言わないと、ペンヨウはマホが付き添いで嫌々一緒に来てると一生勘違いするぞ。
「…………ゲーム、楽しかったです。なので今度は付き添いとか監視とかではなく、普通に遊びに来て良いですか?」
「おう!」
「また来いワニ~」
「また来るセイ!」
恥ずかしそうに顔を隠すマホに、ニヤニヤとした表情を向けながら、俺達はまた一緒に遊ぶ約束をするのであった。
━オマケ━
『もしもし力男くん?』
「勇子か。どうした?」
『実は最近マホちゃんが、車を見る度にアイテムを取って加速したり、空を飛ばないか期待の眼差しを向けてるんだけど』
「今からマホにゲームと現実の違い教えに行くわ」




