第67話 規格外人類陸上部員のランがパフェを食べるな件
「待たせたわね、ブラックコーヒーとチャレンジパフェよ」
チャレンジパフェを作るのに時間が掛かったのだろう。それなりの時間、ランと一緒に本を読んで待っていると、注文した商品が届き、俺はランの頼んだチャレンジパフェに目を奪われていた。
「…………デカくね?」
「大食い用だからよ」
「パフェが天井に届きそうなんだけど」
「大食い用だからよ」
「支え無しでソフトクリームが星形作ってたりと、明らかに物理法則無視してる形なんだけど」
「大食い用だからよ」
「何もかもそれで済ませられねぇからな!?」
なんでチャレンジパフェだけギャグ仕様なんだよ、某逆写真詐欺の店ですら驚くわこんなの!? つーか全長何メートルあるんだよこのパフェ。上までスプーン届かないじゃんか。なにこれ、溶けるの待ってから食えと?
「緑ちゃん、緑ちゃん! 溶ける前にタイマーを頼む!」
「そうもそうね。それじゃあ……開始よ!」
急かされるように緑がタイマーをスタートさせると同時に、ランはランは一心不乱にパフェへと食らい付き始めた。
ギャグの領域だから突っ込んでも意味は無いんだろうが、どうして下の方から食ってるのにパフェは一切バランスを崩さないんだろ。
「さて、少し隣失礼するわよ」
「別に構わんが……仕事は良いのか?」
「他に誰も居ないから良いじゃない」
俺がバランスを崩さないパフェに驚いていると、緑が俺の隣に座ってきた。
ちなみに席順としてはラン、俺、緑となっている。今の俺は緑の方を向いているが、視界の端に写るパフェがものすごい勢いで減っていくのが見える。
「バググバググ、バグバーグ」
「凄く旨い、ずっと通いたいか。良かったな緑、褒められてるぞ」
「なんで今ので通じるのよ!?」
「え、分かんないのか?」
「分からないわよ!」
何故か緑にはランの喋っている内容が伝わらなかったようだ。食べながら喋ってるから多少の聞き取りにくさはあるけど、この程度ならテレパシーを使わなくても分かる。
まぁランと関わりの薄い緑にはまだ難しい話だったか。これが同じクラスで関わりの深いマホや勇子、幼馴染みの咲黄なら理解出来ただろうな。
なお、後日3人に聞いてみたが分かるのは咲黄だけだったのは余談である。
「バググーン、バググッグ」
「そうか。なら俺のコーヒー飲んどけ」
「……なんて言ったのかしら?」
「冷たいもの食ったから寒い、これは予想してなかった。だそうだ」
「それでコーヒーってわけね」
ランは俺のカップの取っ手を右手で持ち、コーヒーを飲む。すると身体が温まったお陰か、先程よりもスプーンの進む速度が早くなり残像が見え始めてきた。
「そういうこった。あ、コーヒー美味しい」
「ね、ねぇ……いや、やっぱり良いわ。同じ答えが返ってきそうだし」
俺はランからカップを回収して、右手で取っ手を持ちコーヒーを飲む。緑が何かを言い淀んでいたが、言い方から考えるにランと恋人か否かの話だろう。俺とランはただのクラスメイトだと言うのにな。
ふぅ、落ち着く味だな。ブラックだから当然苦みはある、だがそれは決して飲みにくいと言いたい訳ではない。一口飲めばその苦みが口に広がり、熱いのではなく温かいと表現するのが的確なほど飲みやすい熱さが喉を潤す。俺はコーヒーの事はよく分からないが、前世含めて今まで飲んだコーヒーの中で上位に入るのは確実だ。
「そうだ緑。一つ気になったんだが、このチャレンジパフェっていつからやってるんだ? 勇子と来た時は無かったと思うんだが」
「つい最近よ。実はクラヨウが食堂で働いていたみたいでね、色々とアドバイスをもらっているのよ」
へぇ、クラヨウって食堂で働いてたんだな。いつ働いてた、とは聞くまでもなく妖精国時代だろう。俺の中のクラヨウって、ライヨウを爺さん呼ばわりして制裁受けたイメージしか無いから意外だ。
それじゃあこのチャレンジパフェも妖精国時代によく作ってたのか? どうやって作ったのか気になるが……多分うやむやにされるだろうなぁ。これ、どう見てもギャグの領域だし。
「あと半分!」
「お、もうそこまで食ったのか。早いな~」
「まだ10分も経ってないわよ!?」
「緑、知らなかったのか? 陸上部ってのは、走るために沢山食べる時期が多いんだ」
「意味が分からないわ……」
安心しろ、俺も意味が分からない。
ランが前に話してたのをそのまま緑に説明してみたが、相変わらず言葉の意味が理解不能だ。兎に角、沢山食べれるって言う凄い自信は伝わってくるんだけどな。
「バグリリン、バグッド」
「それは自分の水飲めよ、これ以上俺のコーヒーを取るな」
「また寒いって言ったのかしら?」
「いや、パフェに入ってるコーンフレーク食べて、喉が渇いたらしい。コーヒー欲しいって言ってきたけど、それなら自分の水飲んどけって断った」
これ以上俺のコーヒーを取ろうとするな、俺まだ2杯しか飲んでないから。この美味しさはもう少し自分で堪能したいから。喉渇いたなら追加でコーヒー頼むか、サービスの水で我慢しとけ。
「あー、確かに最後の方は喉が渇くわよね。やっぱり少し改良が必要かしら」
「やっぱりって事は、悩んでたのか?」
「そうなのよね。コスト面の問題もあるけど、最後の方がアイス系やゼリー系だと、途中で溶けたり温くなって味が半減しちゃうじゃない?」
「言われてみればそうだな」
「それに味に飽きがこないように工夫も大切なのよね」
「喫茶店も大変なんだな」
このチャレンジパフェに溶けるって概念があるのか疑問ではあるが、味の飽きは確かに納得だ。味をリセットする意味も込めると、甘いや苦いと言った、特徴的な味が無いコーンフレークが最適なんだろうな。けど口の中の水分が奪われて喉が渇く、難しい問題だな。完食間近のランには関係ない話だけど。
「祝、完食ッ!」
「お、食い終わったか。緑、時間はどうだ?」
「もう!? え、えっと……13分24秒で完食よ!」
制限時間が1時間だったから、4分の1も経たずに完食したのか。ランが大食いなのは中間テストの後にファーストフードで一緒に飯食った時から知っていたが、こんな早く完食するのは予想外だったな。
「いやぁ、食べた食べた。おかわりある?」
「お前大食いチャレンジを食べ放題と勘違いしてる?」
「悪いけど、チャレンジに成功したらもう頼めないのよね」
納得の制限である。
ランのように完食出来る人物が居るのは例外中の例外なんだろうが、もしそんな例外がチャレンジパフェを大量に注文して完食を続けたら、店は赤字になってしまうだろう。
「そっかぁ……」
「その代わり景品があるわ」
「あぁ、そうえば景品あるって書いてあったな。で、景品って何が貰えるんだ。ラン知ってる?」
「知らん!」
「よくそれでチャレンジパフェを食べようと思ったわよね。景品欲しさに頑張ったんじゃないのかしら?」
「沢山食べれるから来た!」
ルールに景品うんぬんと書いてあったが、興味無かったから軽く流して別の項目読んでたな。俺達の目的はあくまでランの腹を満たすこと。景品が欲しいとかの欲は無いのだ。いや、貰えるなら貰うけどさ。
「まぁ良いわ。それで、景品はこれよ」
「なにこれ? 食べられる紙か?」
「ヤギじゃねぇんだからさ。てか半額チケットって書いてあるだろ」
「期間は無制限。一度だけ、この喫茶店での支払いを半額に出来るわ」
「また一緒に来た時、半額になるのは嬉しいな」
「オレが沢山食べるからな!」
「一緒なのはもう確定してるのね」
そら前世の親友しかり、アクロコしかり、ランしかり、気心知れた奴と一緒の方が楽しいからな。1人で居るのは暇だと最近知ったし、ちょっと寂しいからな。
「緑ちゃん緑ちゃん、追加で何か頼んで良い!?」
「まだ食べるの!?」
「俺も注文頼んで良いか? テイクアウトで」
俺はランの追加注文乗るように、アクロコ用のテイクアウトを緑に頼むのであった。おいラン、今頼んだテイクアウトはお前のじゃないからな。そんな欲しいなら俺が今飲んでるコーヒーで我慢しとけ。
Q.作中で緑が「ね、ねぇ……いや、やっぱり良いわ。同じ答えが返ってきそうだし」と言い淀んだのは何故
A.ランが「右手で」コーヒーを飲みました。力男も「右手で」コーヒーを飲みました。取っ手を同じ方向で持つとなると、口を付ける場所も同じになります。そしてラン→力男の順で飲んでるので、間接キスとなります。最後のシーンも同じカップでコーヒー飲んでます。なお、二人とも間接キスを一切気にしてないし、なんなら気付いてすらない。
恋愛感情の設定を没にした結果、より一層距離感がバグり始めてる。なんだコイツら……。




