第66話 俺の友達が大食いにチャレンジな件
「はいもしもし」
『お掛けになった番号は現在使われておりません』
「掛けた側がそれ言うの?」
『冗談だよ冗談!』
アクロコの過去を知ってから数日。話を聞いた当初は胸くそ悪い話に苛つきが抑えられなかったが、アクロコ本人が立ち直っているのを見て、部外者の俺がずっと引き摺るのも……と思い、多少時間は掛かったが吹っ切れてた。
過去の出来事に縛られるのではなく、今を進む。その言葉の受けて俺はいつまでも前世の思い出に浸るのではなく、今世を楽しもうと考えるようになった。
その影響か、暇だと思っていた夏休みも少しは楽しいと感じるようになり、今日は何をしようか考えていたら、ランから電話が掛かってきた。
「で、何のようだ?」
『チャレンジパフェ食べに行こうぜ!』
「なにそれ?」
『大食いチャレンジだな。一緒に行こうぜ!』
「はいはい。行くだけな、行くだけ。食べるのはランだけにしてくれ」
俺は精々並盛が限界だ。大食いなんてチャレンジしたら、トイレでリバースマウンテンを築くことになっちまう。
「それで、何処に行けば良い?」
『ラブリーロードって喫茶店だな』
「緑の喫茶店か」
『あそこ、緑ちゃんの店だったのか!』
勇子に勉強を教える時の場所として使った以降、行ってなかったな。あそこの料理美味しいし、ついでにアクロコ用に何か持ち帰るか。
「現地集合で良いか?」
『分かった!』
そうして俺は電話を切り、ラブリーロードへと向かうのであった。
アクロコ、ちょっと出掛けてくる。お土産期待してろよ? え、ファ〇チキが欲しいって? いや、この前10個も食べただろ。最近腹の周りが弛んできてるから、無しだ無し。
「いらっしゃいませ~ってあら、力男とランじゃない」
「邪魔するぞ」
「迷惑をかけるのは駄目だぞ力男!」
「そういう意味じゃねぇよ」
ランよ、俺の言う「邪魔をする」は失礼しますって意味だから。営業妨害する訳じゃないからな。いや、俺の伝え方が悪かったのもあるけどさ。
ラブリーロード前で集合し、早速中へ入った俺達。開店してからそこまで時間が経っていないのもあってか、客は俺達以外に居ないようだ。
「男女2人で喫茶店……つまりデートね!」
「ちげぇよ」
言うと思ってたけどさ、ランと一緒に入店した時点で緑なら言うと思ったけどさ! 夏休み入ってから色々あって疲れてたけど、緑といつも通りのやりとりしてるとその疲れも何処かに吹っ飛んでいく。これが安心感か。
「ランがここであるチャレンジしたいって言うから、その付き添いで来たんだ」
「付き添い……かなり仲が良いのね」
「腐れ縁みたいなモノだからな。会ったの中学からだけど」
「腐るほど時間経って無いじゃないの」
それもそうだな。
だってまだ8月だし。中学生になってから4ヶ月しか経ってないし。でもランとの繋がりをなんて表現するって言われたら、腐れ縁がしっくり来るんだよなぁ。
「まぁ良いわ。適当に空いてる席に座りなさい」
「サンキュー。ラン、どこ座る?」
「カウンター」
「まさかの!? てっきりテーブル席から選ぶと思ったんだが」
「そっちの方が緑ちゃんと話が出来るからな!」
思ったよりちゃんと考えてた。ランの事だから「カウンター席って大人っぽくね!?」って理由で選んだのかと思ってた。
言われてもみれば、カウンター席なら緑と簡単に会話出来そうだ。テーブル席でも話す事自体は可能だろうが、緑には店員としての仕事がある。仕事を放棄して俺達の座っているテーブル席付近でずっと立って喋る、なんて事は従業員として難しいだろうな。
「ランはもう決めてるからなぁ。俺はそうだな、ブラックコーヒーでも飲むか」
「カッコつけてもオレしか見てないぞ?」
「いや、カッコつけてるんじゃないから」
ランがチャレンジパフェって言う、甘くて大食い用のを食べてるのを想像するだけで、胃もたれするだけだからな。
胃もたれしてる状態だと飯なんて食えないけど、なんか注文しないと居心地が悪いから、甘さを帳消しするために苦いの選んだだけだから。
「すまん緑、注文良いか?」
「分かったわ」
「俺はブラックコーヒー。ランはチャレンジパフェで頼む」
「なら注文を確認の前に見えるものがあるわ。少し待ってなさい」
そう言って緑が持ってきたのは、1枚の紙だった。その紙には幾つか文が記載されており、防水対策からかプラスチック製の板に挟まれていた。
「なにこれ?」
「チャレンジパフェを頼むお客さん用のルールよ」
よく文章を読んでみると、大食いにチャレンジする際の制限時間や完食出来なかった時の罰金。更には完食した時の景品までもが載っていた。
「安心しろ。オレはルールを守る主義だ!」
「おうそうか。で、宿題の提出期限は守ってるか?」
「力男、これから何があろうとも……これだけは覚えておいてくれ。この世に完璧なモノなんて無いんだ」
「守ってないんだな」
名言風に言っても誤魔化せないからな。
ルールを守る主義って良いながら、提出期限と言う名のルールを破ってる時点で信頼が落ちてるから。俺はランが大食いなの知ってるから、完食出来るって信頼がある。だけど何も知らない緑からしたら不安になるだけだぞ。
「1時間以内に食べれなかったら1万円を払う。完食したら無料か。ラン」
「ちゃんと1万円持ってきてるぜ!」
「良し。じゃあ注文しよう」
「注文の確認をするわね。力男がブラックコーヒー一つ、ランが『超絶大盛特盛の盛り合わせパフェ! 山のように巨大で数多の挑戦者を沈めた幻のチャレンジパフェ』一つね」
「なんだその名前!?」
店の名前知った時から思ってたんだけど、ネーミングセンスどうなってるの? 母親の体内に置いてきたの? それともワルインダーに元気パワーと一緒に持ってかれた?
「私が考えたのよ。良いでしょう?」
「ダセェ」
「ダサくないわよ! はぁ……やっぱり私の美的センスを理解出来る人はそうそう現れないわね」
「周りを疑うより先に自分を疑え」
どうして俺の周りにはガク先輩しかり、緑しかり変人が集まるんだ……てかよく考えたら俺の周り変人しか居ないんだけど。例外と呼べる存在、マホと勇子とリュウぐらいなんだけど。
マホは天然混ざってるだけだし、勇子は素直で騙されやすいだけだし、リュウは単にワルインダーの幹部ってだけど。悪の幹部って肩書きすら薄く見える俺の周りの連中はいったいなんなんだ……。
「今から用意するから少し待ってなさい」
「ガタッ!」
「座れ。誰も舞えとは言ってない」
緑の「待ってなさい」を、何故か「舞ってなさい」と曲解してその場で立ったランを俺は座らせる。何をどう勘違いしたらそうなる?
「どうして今ので伝わるのかしら……」
「ランと一緒に居たら自然と分かる」
突拍子も無い状態で動かれると流石に意味不明だが、今回の場合はランが立った辺りで何をしようとしてるか予想が付いた。
緑も俺達と同じクラスになるか? 1ヶ月一緒になるだけで、ランの行動の八割は読めるようになるぞ。残り2割は俺でも一生読めない自信がある。
「ねぇ。確認したいのだけれど、付き合ってる訳じゃないのよね?」
「もう一度言うがただの腐れ縁だ」
まったく、何をどう見たら俺とランが付き合ってるように見えるんだろうな……ん、どうしたラン。俺の読んでる本が気になるのか? これは最近発売した漫画でな、どうせだから一緒に読むか?
ちょっと待ってろ、今席をくっ付けてっと。これで見やすいな。読むペースに関しては、たまにランが教科書忘れた時に見せてるだろ? だからまぁ、適当に合わせられるだろ。
え、なに。どうした緑。あぁ水のサービスか、悪いな……なんで胸なんて抑えてるんだ? 突然胸焼けした? 最近暑いからな、体調管理はした方が良いぞ。
超能力の説明を忘れてたのでここで。
【テレポート】
指定した場所に一瞬で移動出来る超能力。力男が使える超能力にしては、そこまで癖が無くて汎用性も高い。
移動出来る範囲は視界内、もしくは現在地から半径5km+自分の知っている場所のみ。と言う制限がある。
また、本編では省略したが一度に移動出来る物質にも制限があったりする……が、それはまた本編で登場する機会があれば。




