第57話 俺の夏休みが暇な件
一方その頃の力男視点です。
「あ~…………暇だ」
ペンヨウとランがばったり会ってから数日。自室でゴロゴロしていた俺は、暇で暇で死にそうであった。
ま、一度死んでるだけどねハッハッハッ……つまんね。ブラックジョークにも程があるわ。
何しようかな~。夏休みが終わるまであと1ヶ月はあるとは言え、宿題はある程度終わらせた。
新しくゲームを買ったは良いけど、誰かと一緒じゃないと面白く無い。昔は1人でも平気で遊んでたって言うのに。
うーん。取り敢えず暇を潰すために、アクロコ誘って一緒にゲームでもするか。どうせリビングでいつものようにゲームしてるだろうし。
「おーいアクロコ」
「a、i、u、e、o、a、i、u、e……」
「何してんだ?」
俺が自室からリビングへと移動すると、何故かアクロコは俺の英語の教科書を開きながら、アルファベットを何度もメモ帳に書いて練習していた。
身体のサイズ、ぬいぐるみ程度の大きさしか無い関係上、ペンを全身で持つ必要があるから書きにくそうだな。
あと何故か横書きじゃなくて、縦書きしてるし。
アクロコ、英語は横書きだから。最後まで書いたのに、最初に戻るのを見るとなんかこう、違和感があってムズムズしてくる。
つーか突然英語の勉強でもしてどうした。海外にでも行きたいのか? だがすまんなアクロコ、お前を海外には連れていけない。理由は単純に目立つから。
「これは英語の勉強ワニ」
「いやまぁ、それは見たら分かるが。なんで英語を勉強しているんだ?」
「ゲームで読めない文字が出てきたから勉強ワニ」
「ゲームが理由かよ!?」
予想外の返事に驚いたが、同時にそれに納得する。
ワルインダーから匿ってる都合上、見られたら危険が及ぶからと、アクロコは俺の家に居候し始めてから1度も外に出ていない。
だからずっと家の中で暮らしてもらっている。家の中では本を読んだり、閉まってるカーテンの隙間から漏れ出してくる日光で日向ぼっこしたりなどしているが、何をするのが1番多いかと言うと、やはりゲームだろう。
そんなアクロコが英語を勉強するってなったら、ゲーム関連の可能性が高いか。
この前もオプションやスタートが英語表記のゲームさせたら、何が書いてあるのか分からなかったようで、首を傾げてたし。
そういや、マホは迷い込むような形で突然この世界に来たから仕方無いにしても、アクロコもリュウも当然のように日本語をマスターしてるのは、この世界の征服するためにわざわざ覚えたのだろう。
アクロコもリュウも、この国の言語を覚えるのに頑張ったんだろう。
頑張ったんだろうが、悪役が机に座って真面目に勉強してる図を想像すると、シュールな気持ちになってくる。
「ワニャアは今、見ての通り勉強してるワニ。悪いワニが、ゲームは1人で頼むワニ」
「そうか……」
無理に誘うのはアクロコに悪いから、今日は一緒にゲームするの諦めるか。
なら1人でゲームするか? でも1人だと面白くないんだよなぁ。
今の俺は誰かと一緒に遊びたい気分なのだ。
家の中だとやれることないし、ちょっと外に出て気分転換するか。何か面白い事が見つかるかもしれない。
俺の望む非日常があるとは思えないが、暇潰しにはちょうど良いか。
「ちょっと散歩してくる」
「いってらっしゃいワニ」
俺はアクロコに一言断りを入れ、外へ出て特にこれと言った目的も無く歩き始める。
何しようかなぁ……ガク先輩から「マホくん達の古郷、魔法世界へ旅行に行くから、3日ほど君とは会えない」ってこの前連絡が来た。
ナチュラルに別世界に行っているのはまぁ、嫌な説得力だがガク先輩なら有り得るだろう。
そして今日はガク先輩が魔法世界へ行ってから2日目。
明日には帰ってくるようだが、それまではあの人の実験に付き合わされるような事は無い。
マホ達もガク先輩付いていくような形で、魔法世界に行っているようだから、ガク先輩同様会うことが出来ない。
従ってペンヨウが遊びに来る事も、マホがゲームが気になるって理由で俺の家に来たりもない。
もっと言えば、勇子に宿題を手伝ってほしいと泣きつかれたり、図書館行って咲黄とバッタリ遭遇したり、喫茶店に行って緑と話したりも出来ない。
「どうすっかなぁ」
リュウは敵だから1人で会うのは避けたい。
ランは部活の合宿があると言って何処かに行ってるし、殆ど関わりは無いが、ランと同じ部活に所属してる部長も合宿へ行っているだろう。
「なんか、夏休み入ってから暇な事が多いなぁ」
今まではうっかり秘密を喋りかけるマホに聞こえなかったフリをしたり、テストの度に終わったと絶望する勇子にやれやれと勉強教えたり、勉強出来ない奴ら向けに咲黄と一緒に対策ノート作ったり、恋愛脳のあまり明後日の方向へと思考を進める緑に突っ込んだり、何か起こる度にリュウを内心疑っては潔白が証明されて謝ったり、ランの言動に振り回されまわされたり、ガク先輩の実験に巻き込まれていた。
けれど学校が休みの今、そんな日常は無い。何故だろうか、俺は魔法少女や超常現象などがある非日常が欲しいと思っていたはずなのに、思い出すのは魔法少女も一般人も敵も関係無い、ギャーギャーと叫びながらも、何処と無く悪い気はしなかった日常ばかりなのは。
「つまらない」
マホが転校してきてから、そう思った事は一度も無かったのに。
これじゃあ非日常を欲していたあの頃に戻ったようだ。
前世での最期のような思いをしないように、邪神を名乗る相手に何も出来なかった最期のようにならないように、親友が戦っている裏で何も知らずに過ごしていたあの時のようにならないように、目の前で親友を失ったような二の舞を起こさないように。
俺はもう一度やり直したいと。
親友のように来世では非日常を過ごしている奴の手助けだけでもしたい思い、俺はこの世界で非日常を求めていた。
そんな俺が、何の変哲も無い。マホやラン達と一緒に、平凡な学校生活を過ごしたいと思うのは間違っているのだろうか。
「はぁ……夏休み、早く終わらねぇかなぁ」
俺は誰に言うわけでもなく、ポロッと溢れてしまった思いは、雲一つ無い空に消えていくのであった。




