第53話 私の友達が私の故郷へ旅行な件です
「お邪魔します」
「よく来たね。さぁ、早く上がりたまえ」
ガク先輩が私達の故郷、魔法世界へと行くと言う衝撃の事を喋ってから数日。私達4人と4匹はガク先輩のお家へとお邪魔していました。
理由としては魔法世界へと行くためです。わざわざガク先輩のお邪魔する必要は無く、先日の時点で条件は整っていたようでしたが、唐突にこの世界から姿を消したら勇子ちゃん達や、その家族を心配させるだろうからと言う気遣いだそうです。
そして今日。お泊まり会と言う建前があれば姿を隠しても誤魔化せるだろうと言う考えの元、私達はガク先輩のお家に集合するのでした。
それにしても、ガク先輩のお家って大きいですね……自分の家が都合が良いからと、教えられた住所の場所に来ましたが、学校へ行く時にいつも見るこのお家ってガク先輩のだったんですね。
窓の配置からして少なくとも3階まではありますし、庭もバーベキューやキャッチボールをする余裕がある広さですね。あ、池がありますね。何か飼っているんでしょうか?
「ガク先輩、お母さんやお父さんはお仕事かな?」
「あぁ。私の両親は科学者でね、研究第一で家にはあまり戻らないんだ。とは言っても、休日が出来れば家族の時間を大切にしようと、不器用ながらも私に構ってくる人達でね。1人でも特段気にしていないさ」
咲黄さんの質問に、ガク先輩は両親に対してフォローを入れながらこのお家に1人だけしか居ない理由を説明してくれます。
この大きいお家に1人だけかと思ったら、お仕事に行っていたんですね。ガク先輩がこのお家に私達を呼んだのはきっと、ここが1番姿を隠せて他の誰にも見られないからでしょうか。
勇子ちゃんのお家ですと勇子ちゃんの両親が、咲黄ちゃんのお家ですと部長さんが、緑ちゃんのお家ですと利両親とお客さんが。私達の誰かのお家に泊まるとなりますと、魔法世界に行っている間、家にも外にも姿が見えないのは不審がられるでしょうしからね。
「1人ってことは、ガク先輩がこの家の掃除とか全てしてるってことかしら?」
「いや、家政婦を何人か雇っていてね。その人達に頼んでいるのさ」
「家政婦!? 何処何処、何処に居るの!?」
「今日は休みだから居ないさ」
「え~」
家政婦と言う言葉に勇子ちゃんは大きく反応しますが、休みだと聞いて私は勇子ちゃんに生えて筈の尻尾と耳が垂れる姿を幻視します。
「私達は数日ほどこの世界から離れる、つまりはこの家からも居なくなるのさ。家政婦達が私達の姿が何処にも見当たらなくて警察に捜索願いを出して騒ぎになる、なんて自体は避けたいだろう?」
「うっ。それは、そうだけど」
「確かにそうですが……見てみたかったですね」
「まぁ居ないのはあくまで私達が魔法世界へ行く数日だけさ。そこまで家政婦を見たいのであれば、また遊びに来たまえ」
え、また来て良いんですか……!
私はガク先輩の誘いに眼を輝かせますが、ここに来た目的を思い出してハッとします。
い、いけないですね。今日ここに来たのはガク先輩が魔法世界へ行く方法があると言った為です。決してみんなでパジャマパーティーしたり、ちょっといつもより夜更かししてみんなと話したり、家政婦さんを見に来た訳では無いですから。えぇ、遊びに来たのでは無いのです!
「さて、余談はこの辺りまでにしようではないか」
「ガク先輩。確認したいのだけれど、本当に魔法世界なんて所に行けるのかしら」
「私の予想が正しければね」
ペンヨウの容体を診てもらった日、ガク先輩は魔法世界に旅行すると言っていました。詳しく聞くと、一時的とは言え元気パワーが有り余っているペンヨウと、魔法少女である私が一緒に「魔法世界へ行きたい」と願えば行ける、かもしれないとの事でした。
あまりにもあやふやな方法でしたが、これが今唯一判明していて成功率の高いとの事でした。条件としては、私とペンヨウの想いが重要で有り余る元気パワーはあくまで補助程度と語っていましたが……ちょっと私には理解が追い付かなかったです。
「上手く行くでしょうか」
「どうだろうね。あくまで君達がこの世界に来た状況から逆算した仮説に過ぎないからね。もし失敗したとしても気にすることはないさ。代わりとして実験に付き合ってもらうだけだからね」
実験と聞いて私はうっすらと顔を青くします。
ガク先輩の実験と言えば、この前力男さんとの電話で話していた、人を妖精に変える実験とかでしょうか。それとももっと別の……い、いえ。これ考えるのは止めましょう。成功、成功すれば良いんです! 成功すれば実験について考える必要は無くなるんです!
「ペンヨウ、頑張りますよ!」
「任せるセイ!」
私は魔法少女に変身してからペンヨウの胴体を軽く掴むように持ち、ゆっくりと眼を閉じてこの世界に来た時の事を思い出します。
あの時私とペンヨウは「助けて」と願っていました。誰に、どうやってと言う事を考える余裕は無く、ただアクロコから逃げられるように。その結果、この世界へやってきて勇子ちゃんと出会いました。今にして思えば、魔法少女と言う仲間が出来るまでがその願いの範疇だったのでしょう。
ならばあの時と同じように、必死に魔法世界へと行きたいと願えば叶う筈です。お願いします、私を……私達を魔法世界へと連れていってください!
「…………」
数分、或いはそれ以上でしょうか。何処と無く疲れたような感覚を覚えながらうっすらと眼を開けると、私の目の前にペンキの入ったバケツを思いっきり掛けたような、白い空間が広がっていました。
先ほどまでは無かった空間を不思議に思いながら、その空間の裏を確認してみましたが、壁にペンキが掛かった訳ではなく、空中にそのまま留まっていました。
私は突然謎の空間が現れた事に驚き声が出ず、他のみなさんも驚いて呆然としていました。そんな状態が続くかに思われましたが、ガク先輩だけはすぐに意識を取り戻しました。
「ふむ。実物を見たことが無いから「恐らく」を付ける事にはなるが、成功したと言っても良いだろうね」
「本当!? じゃあこれでマホちゃん達の故郷に行けるんだ!」
「おっと、少し待ちたまえ」
成功したと分かった途端、やったと喜んで勇子ちゃんが空間の中に飛び込もうとしましたが、ガク先輩が肩を掴んでそれを止めます。
「どうしたのガク先輩? あっ、もしかして1番にこの中に入りたいの? ならじゃん拳で」
「これが何処に繋がっているか分からない以上、無闇に入るのは危険だ。少し安全を確認をしようではないか」
「え? でもこの中って魔法世界に繋がっているんじゃ」
「その魔法世界の何処に繋がっているのかを確かめるのさ。街の中なのか、森の中なのか、地中なのか、それとも……地面を目視出来ないほどに高い空の上なのか」
ガク先輩の言葉に勇子ちゃんはハッとします。
魔法世界は基本的には平和な場所ではありますが、それでも森の中で彷徨ったら。この空間に入った途端空の上に投げ出されでもしたら。いくら平和と言っても、何も考えずに見知らぬ場所に出ては、命を落とす危険性があるでしょう。
「ガク先輩の言う通り、このまま入ると危なそうだよ勇子ちゃん」
「た、確かに……! でもどうするのガク先輩、このままだと入れないよ?」
「少し待ちたまえ。この中にカメラを入れて空間の先を調べようではないか」
ガク先輩はそういってビデオカメラを取り出します。
いつ頃かのボイスレコーダーだの、今回のビデオカメラと言い色々と持っていますね。私達の事を調べていた頃に準備したのでしょうか。
ガク先輩は空間の中に腕ごとビデオカメラを入れて幾つかの方向に動かした後、腕を此方側に引っ込ませて録画を止めました。
「ふむ……ここはどうやら森の中のようだね。特徴のある景色では無いから特定は難しいかもしれないが、心当たりはあるかね?」
ペンヨウと一緒にガク先輩が録画した画面を見ます。
森の中ですと何処か当てるのは難しいですね。どこも似たような景色ですし、せめて目印があれば分かるかもしれないんですが。
眉を潜めながら、画面を見ているとカメラの端に見覚えのあるモノが見えました。これってもしかして!
思わずペンヨウの方を振り向くと、ペンヨウも同じことを思っていたようで、互いに興奮しながら画面に指をさします。
「マホ、ここってもしかしてあそこセイよね!」
「えぇ。私とペンヨウがこの世界に来る時に居た場所です!」
「そうか。ではマホくん、2つほど確認させてほしい。1つはこの森は安全なのか、もう1つはこの近くに人里はあるのかだ」
「ここは妖精国の外れの森なので安全です。そしてこの近くには私の村があります!」
私とペンヨウがこの世界へ来たのは、元々ペンヨウがアクロコから逃げている場面にバッタリ遭遇したからです。
状況が理解出来ないままペンヨウを連れ、息も絶え絶えになりながら逃げていく内に、私達は小さな遺跡後へと出ました。丁度アクロコが私達の真後ろまで来ていて、その時に助けてと願って今に至ります。
「ガク先輩、行きますか?」
「勿論だとも」
ガク先輩はニヤリと笑い、様々な荷物を持って空間へと入っていきます。自分が1番が良かったと文句を言いながら続くようにして飛び込む勇子ちゃん。空間にビクビクしながら咲黄ちゃんを、引っ張るような形で一緒に空間に入る緑ちゃん。自分達の国は今どうなっているかと話しながら空間へと入るライヨウ、フクヨウ、クラヨウ。
続々と空間へと入っていき、あれだけの人数が居たガク先輩の家も残るは私とペンヨウだけになりました。
ここを潜れば、私達の故郷へと帰れるんですね。
「マホ……ペンヨウ達の故郷に帰ろうセイ」
「はい!」
お父さん、お母さん、マジュくん。ペンヨウと遊ぶと言ってから姿を消して4ヶ月。かなり遅くなってしまいましたが、今そちらに帰りますね。
次回からは魔法世界編が始まります。
なお、章が変わることは無いし、所詮二泊三日程度の話なのでそんなに長くならないです。




