第51話 ランの手土産が見覚えあるな件
「おかしいワニ、このゲーム絶対おかしいワニ!」
「主人公の耐久が薄いだけだろ」
マホ達にペンヨウと出会った経緯やアクロコの事を話してから数日。暇で暇で仕方無い俺は、アクロコがゲームしている様子をボッーと眺めていた。
アクロコが今しているのは1人用の洞窟探索型のゲームだ。主人公はちょっと段差でも簡単に死ぬし、少しでも足元に隙間が空いていたらその間に落ちて死ぬから飛び越えないといけない、跨ぐなんて概念はこのゲームには無い。
あまりの貧弱さから、最弱の主人公と名高いゲームだ。具体的に言うとスペ〇ンカー。繰り返しゲームを続ければ感覚を掴んでクリア出来るようになるだろうが、アクロコの様子を見るにクリアまでに何日もかかりそうだ。
「力男、手本見せてほしいワニ」
「手本っても、俺の実力お前とそんな変わらねぇぞ」
俺はアクロコからコントローラーを受け取る。難しすぎて放置してたゲームだからなぁ……あ、足元の隙間ジャンプするタイミング間違えて死んだ。やっぱこれ難しい、ちょっとした隙間に挟まって死ぬ主人公ってなんだよ!?
「下手ワニね」
「よしその喧嘩買った。サッカーゲームで勝負だ!」
「望むところワニ!」
売られた喧嘩は買うと言わんばかりに、俺はゲームソフトを変える。実際は喧嘩を売られた事は気にしてないけどな。一緒にゲームをする口実のようなモノだ。
「やっほー!」
いざゲームを始めようとした時、外からランの声が聞こえてきた。俺は時計を確認すると、丁度ランと遊ぶ約束をしていた時間となっていた。
突拍子も無い行動をするランだけど、ちゃんと遊ぶアポは取るんだよなぁ。だがランよ、何故「やっほー!」と叫んでる。ここ住宅街だから、山奥とかじゃないから。
「悪いアクロコ、サッカーはまた今度な」
「分かったワニ」
「ほれラン。暑いから早く中にはい、れ……?」
俺は立ち上がり、リビングから玄関へ移動して扉を開ける。いくら夏でも部活で動いてるとは言えど、暑いものは暑いだろうと早く家の中へ入れようとしたが、俺はランが両手で抱えているモノを見て困惑した。
「ラン、その手に持ってるのはなんだ」
「空飛んでたから捕まえた手土産。実はこのペンギン、喋れるんだぜ!」
「空飛んでる方にも疑問を持てよ」
つい最近マホ達と秘密を共有する事になった元凶ことマホのパートナーである妖精のペンヨウを見て、俺は溜め息をつくのであった。
「はぁ~……ビックリしたセイ」
「一騒動あったばかりなのに、また見つかったワニか」
ペンヨウをずっと外に出していたら誰かに見られるだろうと、俺はランとペンヨウを家へとあげた。アクロコはランが遊びに来たのかと思いきや、ペンヨウも一緒に居るのを見て何があったのか察したのだろう。呆れた表情をペンヨウをと向けていた。
「しょ、しょうがないセイよ! 空を飛んで力男の所に向かってたら、突然『空中散歩とは奇遇だな!』って言いながら、隣に居たセイなんだから!」
「あー、なんか想像つく」
ランが空中に居るのはもはや突っ込むポイントでは無いし、いつ頃かに本人が「脚を高速で動かして空飛べる」って言ってたからな。実際に飛ぶ所を見たことは無いが……まぁランだから出来ても不思議ではない。
「ところでラン。どうやってペンヨウ見つけたんだ?」
「偶然だ! 偶然空中を走ってたら見つけてな、何処行くのは聞いたら力男の家って言ったから、手土産として連れてきた!」
ってことは、空を飛んで俺の家に向かってたペンヨウは、空中で自由に動くランに捕まって、手土産と言う名の誘拐で一緒に来たのか……新手のホラーかな?
「人間って空飛べるワニか。初めて知ったワニ」
「そんな訳ねぇだろ」
人類は何時から鳥類に進化を遂げたんだよ。
ランが特別な……いや待て。よく考えると部長もラン以上の規格外だったな。ってことは部長も空飛べるのか? やっぱあの二人だけギャグ漫画の住民だろ。
「すまないセイ。秘密にしようと思ったセイけど、驚いて口が滑ったセイ」
「今回に関しては仕方無いから気にするな」
逆に生身で空中を自由に動く人間に表情1つ変えずに接する事で出来る生物なんて居ないだろ。この前マホ達に俺の家に遊びに来てるのが見つかったばかりなのに、反省せずに「きっと大丈夫」と慢心しているなら文句の1つも言っただろうが、今回は仕方無い話だ。
「ところで力男。最近の動物って喋るんだな!」
「お前は1度常識を学べ」
俺の周りでは唯一───部長がどの程度把握しているか知らないが───と言って良いほど、何も事情を知らないランに「そういう生物が居る」の一言で説明が済むのは有り難いが、ちょっとは疑問を持てよ。
マホ達が居ない状況で勝手に、魔法少女や妖精の事を説明する訳にはいかないと悩んでたから助かるが、お前の中ではペンヨウやワニが喋るのが常識なのか?
「もし喋れるのが広まったら、コイツらはどっかの研究所行きだろうから、この事は秘密な」
「やはり破壊工作か……いつ出発する? オレも同行しよう」
「誰が連れ去られる前提の話しろって言ったよ」
俺は今喋るなって警告したんだよ。なんで秘密が漏れて研究所に連れ去られる話になってるんだよ、あと救助方法が脳筋すぎるだろ。裏から侵入したりする方法は考えないのかよ。
「ところで力男、この人って知り合いセイか?」
「あぁ、そういや紹介してなかったな。コイツの名前はラン、俺のクラスメイトだ」
そういやマホ達が世間話の中にランの名前が断片的に出てきた事があるかもしれないが、面識が無いペンヨウは目の前の人物=ランとは分からないのか。
「よろしくな! お前も陸上部に入らないか?」
「ペンヨウはペンヨウセイ。あと陸上部には入らないセイ」
久しぶりにランの勧誘を聞いた気がする。夏休み中でも部活勧誘するほど部活に対する熱意があるのは良い事だとは思うが、ペンヨウあくまで学校関係無い部外者だから。それ以前に周りに存在が知れ渡る事自体がアウトだから。
「力男、そろそろゲームしたいワニ」
「あぁ、悪い悪い。じゃあどのゲームするか……」
俺ら2人と1匹のやり取りを見ていたアクロコだが、ゲームをしたい欲が溜まってきたのか、俺にゲームをしたいと促してきた。
さっきのゲームは完全な一人用だからなぁ。4人───正確には2人と2匹だが───でやるとしたら、1人だけがプレイして他3人が後ろでわーわー盛り上がりながら、交代で遊ぶ事になる。それはそれで楽しそうではあるが、どうせだから全員で一緒に遊びたいものだ。
元々は両親が海外に行っていて1人暮らしだったのもあって、俺の家には1人用ゲームが多かった。それが居候のアクロコ、クラスメイトのラン、相談と言う名目で遊びに来るペンヨウと、家で一緒に遊ぶメンツが出来たのもあって、複数人で遊べるゲームが家に増えてきた。しかしそれでも数は少ないものだ。今度アクロコと一緒に通販見て新しく買うか。
「レースやろうぜレース!」
「賛成セイ! 今日こそはアクロコに勝つセイ!」
「だからまずはコースアウトしないようにしろワニ」
「ぐぬぬセイ……」
「安心しろペンヨウ。オレのハンドパワーを分けてお前を強くする!」
「ハンドパワーってなんだよ」
「知らん!」
「知らねぇのかよ!?」
元気パワーの亜種かと思ったら何も関係無いのかよ。これきっとアレだな、小学生がボール蹴る時に「ハイパーシュート!」とか叫ぶ、あたかも不思議な力があるような行動をする時のヤツだ。
「受け取れ! これがオレの……えっと、やべ。名前何にしたっけな。まぁいいやハイパーパワーだ!」
「ハンドパワーどこ行った」
ランはペンヨウの全身を両手で包み込み、無駄に気合いを入れた声を出す。見た目自体は変わった様子は無く、明らかにただの遊びそのものであった。そんなのに騙されるヤツなんて居ないだろ。
「力が、力が溢れだして来るセイ……!」
訂正しよう、ここに1匹居た。
ペンヨウ、それプラシーボ効果だから。ハンドパワーって言う存在しない力を貰って強くなったと勘違いしているだけだから。つーか簡単に騙されすぎだろ、そんな状態だといつか詐欺に引っ掛かるぞ。
「勝てる、これなら勝てるセイ!」
プラシーボ効果で強くなったと思い込むペンヨウであったが、やはりと言うべきだろうか。思い込み程度では元から開いている実力差が埋まらず、順位としては真ん中ぐらいに収まった。
アイテムで逆転しそうだったり、偶然的にもショートカット決めたりと惜しい場面はあったんだけどなぁ。未だプラシーボ効果で元気が有り余っているペンヨウをそのままに、俺達は夕日が昇るまでゲームを続けるのであった。
夏休み入ったのに、シーンが全部力男の家で固定されている謎。
次回はちゃんと別のシーンになりますけどね。




