第42話 咲黄ちゃんのお兄さんが私達の正体を……な件です
この作品の主人公は力男、魔法少女側の主人公はマホのつもりで作品を書いてます。
力男は主人公だから兎も角として、魔法少女に関する話だとマホ視点が多いのはそれが理由です。
「君は確か、同じクラスで陸上部の部長だったね。名前は確か」
「気軽に部長と呼んでくれガクっち!」
「ガクっちか……君とこうやって話すのは初めてなのだが。最初から渾名で呼ぶなんて、君は中々に愉快な性格をしているようだ」
唐突に部室へと入ってきた部長さんのペースに振り回されながらも、丁寧に対応するガク先輩。肉体派の部長さんと、頭脳派のガク先輩って意外にも接点無かったんですね。正反対だからこそ、仲が良いと勇子ちゃんから借りた漫画に描いてありましたが、まだ仲が深まる前なのでしょうか。
「で、何か用かね。見ての通りここは科学部だ。決して大きな音を出して昼休みに訪れるような場所では無いさ」
「大きな音を出したのは謝る、この通りだ!」
「反省の色があるようならこれ以上言うつもりは無いさ。で、何か用かね?」
「ワイは咲黄を探しに来たんだ!」
部長さんは深く下げていた頭を上げて、科学部へと来た目的を話しました。まさか、あの写真の人物が咲黄ちゃんだとバレてしまったのでしょうか。
いやまさか、例え部長さんと言えど有り得ないでしょう。写真を撮られたのは変身後、髪型や服装が変わった後となります。それにあの写真はボヤけていて、顔や体格どころか、性別すらも判断が出来ないものとなっています。
そんな写真から咲黄ちゃん本人だと見分けられるか聞かれたら、正直言って厳しいでしょう。実際、私が写真の人物が咲黄ちゃんだと分かったのは、変身後の姿を知っているからです。
「この写真に写っているのは咲黄だろ? ワイの目は誤魔化せないぞ!」
「あっ。そ、それは」
「咲黄、お前まさか……」
まだ気付かれていない。そんな淡い期待を打ち砕くように、部長さんは写真の人物が咲黄ちゃんであると断言しました。
写真の人物が咲黄ちゃんだと見破られただけで、まだ魔法少女として戦っているとバレていないのは不幸中の幸いでしょうが、この写真について誤魔化さなければ全てがバレるのも時間の問題でしょう。
バレる前に全て正直に伝える事も、今なら秘密にしてほしいとお願いすれば出来るでしょう。部長さんが、咲黄ちゃんと同じように、困っている人を助けようとする性格であることを除けば。
もし部長さんが魔法少女について知れば「ワイに任せてくれ!」と言って、快く力を貸してくれるでしょう。部長さんは素の身体能力が変身した私達より高いですし、少々癖の強い性格ではありますが、周りを引っ張ってくれる力もあるので心強いでしょう。
ですが、ある問題があります。それは、普通の人がワルインダーによって元気パワーを吸い取られたら、その場から動けなくなってしまうことです。これでは戦う所の話ではないですし、あまり言いたくは無いですが……私達の脚を引っ張るような形になってしまいます。
部長さんにどう説明しようか。私の頭がそれでいっぱいになっていました。
「街中でコスプレしてるのか!?」
『…………え?』
しかし私の心配は、部長さんのコスプレ発言と共に何処かへと吹き飛んでいきました。
部長さんには魔法少女に関する事情を一切説明していないとは言え、新聞には咲黄ちゃんの写真と魔法使いと言う文があるので、てっきり「魔法使い、いや魔法少女をしているのか!」と言われるものだと思っていました。
「あの引っ込み思案の咲黄にコスプレ趣味があったのは意外だが、こんな魔法使いみたいな格好で街中歩いてたら凄い目立つぞ! その性格を直したいのかもしれないが、無理はするなよ!」
「あ、あのねお兄ちゃん。そうじゃなくて」
私が困惑と混乱の感情で言葉を失い、勇子ちゃんと緑ちゃんも怒涛な展開が話に付いていけない中、咲黄ちゃんが真実を口にしようとしますが、部長さんの大声にかき消されます。
「最近咲黄がフクロウみたいな生き物に食べ物与えたり、コソコソと家を抜け出したり、誰も居ないリビングでステッキ振り回してるから少し気になってたんだ」
「話を聞いてお兄ちゃん。実は」
「ワイはてっきり、変な生き物から貰ったステッキで変身して、何か事件を解決してると思ったんだが……ただの思い違いだったんだな!」
「…………うん、そうだよ。思い違いだよ」
諦めた!?
咲黄ちゃんは何度か真実を伝えようとしましたが、聞く耳持たないどころか、自力で辿り着いた真実を思い違いだと決めつけた部長さんを見て、遠い目をして魔法少女についての説明を諦めました。
「そうかそうか、思い違いか! だが安心しろ、ワイは咲黄が隠し事をしていようとも、咲黄の考えている事は全てを分かっている。そしてそれを受け止めて黙っておくこともな! 魔法少女も何もかも俺にはお見通しだ。これが胃痛伝心ってやつだな!」
「それを言うなら以心伝心です」
ごめんなさい部長さん、咲黄ちゃんと何一つ意志疎通出来ていないです。写真の人物が咲黄ちゃんであると黙ってもらえるのは有り難いですが、全てを分かっていると言うなら、もう少し咲黄ちゃんの話を聞いてあげてください。
「ふむ。真実とは案外伝わないものだな、例えそれが兄妹であろうともね」
「ちゃんと伝わってるぞ!」
「一方的な理解は伝わっているとは言わないさ。それにしても、どうするべきか……」
「どうしたガクっち、ワイで良ければ力を貸すぞ!」
「実は以前、咲黄くんから引っ込み思案の性格をどうにかしたいと相談を持ちかけられてね。私が裁縫した服を着せて街を歩いてもらったら、偶然にも写真を撮られてしまったようでね」
「そうだったのか!?」
ガク先輩、もしかして部長さんを言いくるめようとしてますね!? 咲黄ちゃんの性格を引き合いに出して、写真が撮られた経緯に嘘をついて辻褄を合わせるようです。
「何かしらの偶然が重なってか、学校内の新聞にその写真がなってしまった。あぁ、このままでは咲黄くんはより引っ込み思案になってしまうだろうな。あぁ困った、実に困ったな~」
「あまりにも演技臭いわね。こんなので引っ掛かるわけ」
「ナニィ!? それは困ったな! ガクっち、ワイに何か出来ることは無いか!」
「引っ掛かった!?」
ガク先輩の棒読み混じりの演技を、部長さんはあっさりと信じてしまいました。
助かりはしましたが、部長さんの「咲黄ちゃんの事が心配」と言う純粋な気持ちを弄んだような形になってしまって、どうにも罪悪感がありますね……。
「おぉ、協力してくれるのか。君がいれば百人力だ。今日の放課後、咲黄くんと一緒にここにまた来てくれたまえ」
「う、うん」
「ワイに任せろ咲黄ィ!」
ガク先輩、咲黄ちゃんと部長さんと一緒に何かするようですが、いったい何をするつもりなのでしょうか。何処か不安を覚えながらも、私達は翌日を迎えるのでした。
「なぁラン。これって何?」
「陸上部の宣伝だ!」
「いや嘘つけ! どう考えてもあの部長がとち狂ったようにしか見えねぇよ!?」
翌日、私達が学校へ来ると昨日まで話題だった魔法使いの話題は何処へ行ったのやら。まるで昨日の出来事が無かったかのように、学校中が陸上部の部長さんの話題で持ち切りでした。
そしてそれは私達のクラスでも例外ではなく、力男さんとランちゃんが新聞片手に何やら騒いでいます。その内容とは、
【まさかの陸上部!? 魔法使いの正体見破ったり】
部長さんが私達が変身した姿のような───フリフリとした格好をして───で街中を走った写真が載っているモノでした。しかも走りながら、陸上部の宣伝をしていてたようです。
新聞の内容を詳しく読んでいくと、部長さんは自ら新聞部に赴いて魔法使いの正体は自分だと話したようで、そんな格好をしていたのは陸上部の宣伝活動だったと語っています。
そして部長さんのフリフリ衣装はなんと言いますか、こう……目に毒のような形でして、見た人みんな気絶して一部の記憶が飛んでしまったようです。
それらの事から、今までの記憶喪失事件の犯人や写真に写った謎の魔法使いの正体は、全て部長さんが原因であったと片付いたようです。
「なんとか、解決しましたね」
「解決したけど……本当にこれで良かったのかしら」
「ま、まぁ魔法少女の正体を誤魔化せたんだから良いんじゃん!」
しかし私達の正体を隠すための嘘とは言え、咲黄ちゃんのお兄さんには迷惑をかけてしまいました。そして、咲黄ちゃん自身にも。お兄さんの奇行を見て、落ち込んでいたり、辛い思いをしているかもしれません。
「お兄ちゃん…………」
咲黄ちゃんは新聞を見て、俯いたまま動こうとしません。ごめんなさい咲黄ちゃん、私が力不足なばっかりに。
「咲黄。お兄さんのこういう姿を見るのは辛いかもしれないわ。でも」
「カッコいい!」
「「「え?」」」
ですが私達三人の心配とは裏腹に、咲黄ちゃんは顔を上げると共に、キラキラとした目で此方を見てきました。
「やっぱお兄ちゃんはどんな格好していてもカッコいいね。ね、みんなもそう思うでしょ?」
「う、うん。そうだよね緑ちゃん」
「私!? え、えぇ。咲黄がそう思うならそうなんでしょうね」
「今日もお兄ちゃんはカッコいいなぁ……」
咲黄ちゃんが気にしていないのなら、私達からとやかく言う事は無いですね。諦めのような感情を抱きながら、私は新聞を読み進めるのでした。
シリアスだと思った? 残念、ただのギャグ回でした!
メタ的な話をすると、ワルインダーと戦ってるのに唐突に「VS正体を探ろうとする野次馬との対決!」なんて話をしたら、正体を探る汚い大人とかが絡むに路線が変わって、魔法少女も何も関係無くなるので。部長を使って問題を全てを解決してもらいました。
この話でのガク先輩と部長のやり取りがしっくり来なかったので、何十回も書き直しました。頭を使う描写は難しいですね。こんなに書き直すとは思わなかった。




