第16話 俺のクラスメイトが元気なさそうな件
「…………」
アクロコを拾った翌日、学校に来た俺は教室から活気溢れた声が聞こえないことに違和感を持った。いつもなら勇子が元気に挨拶をしてくるのだが、今日はそれが無いのだ。
なんとかは風邪を引かないと言うが、あれは迷信だったのかと思ったが、勇子は学校にちゃんと来ていた。来ていたが何故か虚無を見ていた。え、なに。そんなに昨日のテストの点数引きずってるの?
❴(私もマホちゃんも、全然歯が立たなかった。コマツール、アクロコを簡単に倒せる強い人が2番目なんて。それ以上に強い総帥って人に、私たちは勝てるの?)❵
あぁうん、全然違ったわ。てかあまりにもシリアスすぎて、虚無見てた理由を冗談感覚で考えていた此方が恥ずかしいわ。
てか俺らが飯食って、アクロコ拾って、街中爆走してる間にそんなことあったのか。此方がギャグやっている間にシリアスしてたなんて、ちょっと温度差ひでぇな。
茶化すのはこの辺りにして真面目に考えると、マホ達が下校した時間と、俺たちがアクロコを拾った時間を考えると、俺たちが飯食っている間に戦っていたのだろう。
そしてアクロコはコマツールとやらに倒されて、河川敷に流れていったと……いやアブね!? 俺あの時河川敷行こうとしたぞ、もし行ってたらコマツールにその場を目撃したからって消されてたかも。
❴(マホちゃんは昨日から部屋から出てこないし、私どうしたら良いんだろ……)❵
「よ、よぉ。勇子おはよう」
「…………」
く、空気が重てぇ……! クラスメイトから「話しかけに行ってくれ」って言う無言の圧力に負けて、勇子に挨拶したけど無視された。え、ただただ純粋に悲しい。
「オレ参☆上」
俺が悲しみにくれていると、陸上部の朝練を終わらせたランが窓から入ってきた。ここ4階なんだけど、窓の外は校庭だから登る場所なんて無いんだけど。あと教室行くのが面倒だからって、外からショートカットすんな。
でも良いところに来たな。常時奇想天外超自由人のランなら、この重い教室の空気をどうにかしてくるかもしれない。
「なぁラン。実は」
「まぁ待て皆まで言うな。この教室を見れば大体の事情は理解したさ」
俺はランに事情を説明しようとしたが、ランはそれを静止して自身の椅子に座った。おお、いつもと違ってランが頼もしく思える。
「だから勉強教えて!」
「何を理解した? お前は何を理解したの?」
思えただけだった。俺はランに勉強を教えつつ、今の状況を説明すると「やはりオレの勘は正しかったか。だが今はその時ではない!」と、要領を得ない返しをされた。
うん、うん。色々言いたいことはあるが1つだけ。お前の勘、本当になんでもありだな。あと理解した上で勉強教えては意味分からねぇよ。
「…………」
そのままズルズルとお昼となったが、教室の空気は変わらないままである。先生もその様子に気付いたようで、授業もなんだかやりにくそうであった。
はぁ、ランは役者を呼ぶと言って何処かに言ったし、マホは学校休んでるし、肝心の勇子は朝から全然変わってないし。時間が解決すると思ったが、そういう訳では無いようだ。
これはあれか、精神的にパワーアップするイベントか。辛いけど頑張って戦うぞ~的な。勇子は元々明るい性格なのもあって、どうせ何か切っ掛けさえあれば復活するだろう。マホもそんな勇子に触発されて元気になるだろう。ただ、
❴(私、魔法少女続けられるかな)❵
イベントだからって理由で放っておけるかはまた別の話だ。俺は超能力こそ持っているが、それ以外は普通の人間だ。どうせ切っ掛けがあれば元に戻ると、落ち込んでる人間を見捨てられるほど冷たい性格でも無いし、自分の命を投げ捨ててまで誰かを助けたいと思うような熱い性格でも無い。
それでも一緒に勉強をしたり、襲ってくるアクロコから助けたりと、多少なりとも関われば情も沸く。だからこそ、安全圏からにはなるが助けたいと思うのは、日常を謳歌したい気持ちと、非凡な生活を見てたいと思う2つの気持ちを中途半端に持っている俺らしいと言えるだろう。
「あー、なぁ勇子」
「…………」
「えっとな」
なんて声を掛けようか悩んで、俺は勇子の事をよく知らないことに気が付いた。俺はクラスメイトとしての勇子しか知らない。クラスでも一、二を争うほど明るいことしか知らない。
テレパシーで内面を多少知っているが、それは性格面ではなくて心の声である。年中人の心を読んでいる訳ではないし、何もかも知っているかはまた別の話だ。
そもそも勇子と関わり始めたのは、マホが転入してきてからだ。それでもあまり話したことがない。どう相談に乗れば良いのか、なんて言えば良いのか分からず、
「一緒に飯、食わねぇか?」
「ご飯?」
俺は飯に誘った。考えてみれば実に簡単な話だった。分かれば分かれば良い、知らなければ知れば良い。俺は勇子を知るために自分から交流を深めることにした。魔法少女に関する事情は話せないだろうが、世間話でもすれば多少は気は紛れるだろうと思って。
「あぁ。勉強会で仲良くなったけど、一緒に飯食ったり遊んだりした事はないと思ってな」
「確かに、そうだね」
勇子は一緒に飯を食う事に関しては、肯定も否定も言わなかったが、カバンから弁当を出そうとしているので、肯定と捉えて良いのだろう。
「力男力男、咲黄ちゃん連れてきたぜ!」
「え、えっと。ランちゃんに一緒にご飯食べようって誘われたんだけど」
ギクシャクしながらも勇子と話していると、何処かに行っていたランが長神を連れて戻ってきた。うん、色々と言いたいことあるけど一つだけな。俺、長神連れてこいって一言も言ってないんだが? いや、一緒に食うことに文句は無いけどさ。
「お昼なら朝と違って時間が沢山あるだろ? みんなで交流を深めようと思ってな!」
「おま、もしかして朝の「その時じゃない」って」
「ん? 勿論、朝は時間があまり無いって意味だぞ。オレは朝練だったし、咲黄ちゃん誘って話すにしても時間が足りない。それに勇子ちゃんも常に無反応だったから、時間が必要だと思ってな」
「…………取りあえず、屋上で食べようぜ」
恐らく「役者」とは長神の事を指していたのだろう。そして朝は時間が無いし、ほかのみんなも諸事情で勇子を励ます様子が無かったから、余裕のあるお昼まで待っていたと。
そこまで頭が回るなら、その思考力を少しは勉強に回し てくれ。その言葉が喉まで出掛けたが、口を閉じることにした。頭良いのか悪いのか分からんなホント。
今回はアクロコは一旦置いといて勇子回でした。
ストーリー的な意味ではアクロコが居れば事情(背景)がある程度判明しますが、そんなポンポンと新しい情報を出しても混乱するだけですからね。




