第100話 俺達の二人三脚が無双な件
記念すべき100話です。
諸説ある話ですが、恋人との身長差は12cmや15cmがベストなんだとか。
部長と咲黄、マホとマジュの身長差をそれに合わせようかな? でも部長の身長2m越えだから、それに合わせると咲黄の身長185cm前後になるんだよなぁ。個人的なイメージだと140cmぐらい。
「はぁ、はぁ……疲れたぁ」
「良い走りだったぜ咲黄ちゃん!」
200m走、パン食い競走、お昼を挟んで全員リレーや綱引きなど殆どの競技が終わり、つい先ほど100m走を走り終わった咲黄は息切れしながら観客席へと戻ってきた。
結果だけ見れば咲黄はビリ、もっと言うと大差が付いた最下位であった。
だがそれは決して全力をだしていない訳ではなく、全力を出して最下位だったのだ。
それを俺は褒める事はあっても、貶すつもりは一切無い。
そもそもとして、咲黄は運動が苦手だからな。むしろ諦めず良く頑張ったと拍手を送りたい。
「1位おめでとうリュウ」
「僕にかかれば1位ぐらい楽勝ですヨ!」
「お、そうか。ならランと部長にそう伝えておく」
「ごめんなさい許してくださイ、あの2人は例外なんでス」
「冗談だよ冗談」
一方で、同じく100m走を走っていたリュウは見事1位を取っていた。
忘れられがちだがリュウは運動神経高いからな、それこそ学校で上から数えた方が早いほどに。
だから「1位ぐらい楽勝」って言葉も虚勢じゃなくて、事実なんだが……その自信も部長とランの名前を出したら一瞬で引っ込むようだ。
まぁあの2人は例外だからな。仕方ない。
「アムアムアムアム」
「まだ食ってんのか……」
そして午前中にパン食い競走を終わられた勇子だったが、お昼を挟んだ筈なのに何処からか取り出したパンを食べていた。いや、本当にそれ何処から出したの。もしかしてパン食い競走の余り貰ってきた?
「いやぁ。パン食い競走に向けて最近よく食べようになったら、お腹空いちゃって」
「さっき昼食べただろ?」
「うん! だからこれはオヤツだよ!」
「お、おう。そうか」
それ絶対後で「体重が増えちゃった! どうしよ~!」と騒ぐヤツだと俺は察したが、口にチャックをして何も言わない事にした。
女性に体重の話をするのはタブーってのもあるが、今の勇子はガク先輩から貰った痩せる薬が効いてるからと、何を言っても聞かないだろうからな。
今の俺が出来るのは、早くその薬が偽物だって気付くよう祈る事だけだ。
『最後の種目は二人三脚です。選手の方は入場門に集まってください。あと私は放送部の副部長です』
「力男ー!」
「分かった分かった。ほら、早く行くぞ」
どうやら俺達の番が来たらしい。
俺は二人三脚の時に使う脚に結ぶ紐を持って、入場門へとランと一緒に向かう。緊張なんてしないが、こう普通に入場するだけだとつまらないよなぁ……。
「力男力男、入場する時派手に行こうぜ!」
「奇遇だな、俺もちょうど同じ事思ってた。肩車で行くか?」
「オレの力を見せつけてやる!」
「あーそこ、変な入場方法は禁止だぜ」
「「アッハイ」」
ランも派手に入場する事を希望していたが、近くに居た担任に注意されて俺達はしょぼくれた顔をして諦める。
ランに背負われた状態で、周りに手を振ってアピールしようと思ったんだけどなぁ。
「入場まで暇だなぁ……そうだ、力男。紐と両手を出せ!」
「はいはい。で、何するの?」
「これをこうして……よし出来た!」
ランは俺のグーの形にして両手をくっつけ、二人三脚用の紐を使って両手首を軽く縛った。
それはまるで、ドラマでよくある強盗に捕まった一般人のように。あぁなるほど、完全に理解した。
「くっ! 金目のモノだと俺は持って無いぞ!」
「ククク、そんなのに興味はないさ。なせオレは力男を人質にするのが目的だからな!」
「な、なんだってー!」
『選手が入場します。拍手で出迎えてください。あと私は放送部の副部長です』
「あっやべ。ランこれ外して、入場始まる」
「急かされると中々ほどけないから少し待ってくれ!」
紐を使って強盗ごっこをしていた俺達だったが、入場が始まるや否や、この状態だと脚に結べなくて、二人三脚に参加出来ないと焦って急いで紐をほどく。
「はぁ、危なかった」
「ギリギリだったな」
「またふざけて時間無くなりました~ってなる前に、脚結んでおくか。ラン、強く結んでくれ」
「合点承知!」
あわや強盗ごっこのまま入場しそうになったが、寸での所で紐がほどけて何事も無かったかのように入場をする。
そしてまたふざけて慌てるような事が無いようにと、今度は俺達の番が来る前に俺とランの脚を結び、いつでも走れるようにする。
『次の選手、スタートに移動してください。あと私は放送部の副部長です』
「行くぞラン!」
「任セロリ!」
俺とランは互いに拳を合わせてスタートへと向かう。
既に脚を結んでいるが、足元を見る必要も進む時に掛け声をかける必要も無い。感覚だけで前に進める。
『見合って見合って~……』
「ラン、一応確認だ。周りがどれだけ速かろうとも、俺達のペースで進んでいくぞ」
「力男、合図の必要は?」
「無い」
「紐がほどける心配は?」
「問題ない」
「1位を取り逃すかもって不安は?」
「一欠片も存在しない」
俺とランの間には何も要らない。
むしろ二人三脚をするとなれば、互いに相手を気遣おうと逆にタイミングがズレてしまう。
ならどうするか、答えは簡単である。
「俺達のする事は何も考えずに……」
『はけっよい』
「「全速前進だ!」」
『スタート!』
何も気にせず俺の全力で走る、これに尽きる。
本来なら相手を気にせず走るとなると、相手のスピードに付いていけなかったり、歩幅の違いで着地や脚を出すタイミングが狂って転ぶ、もしくは互いに正反対の行動をして紐が緩んだ結果外れてしまうだろう。
だが、俺とランにその心配は無い。
ランは人類かよって言いたくなる程度に速い。それこそ魔法少女と互角、もしくはそれ以上である。
そんなランがただの中学生程度の速度しか出せない俺に付いてこれない訳が無い。
そして紐に関しては、ランに固く結んでもらったから緩む心配もほどける心配も無い。
それに歩幅が違う件も、俺とランは部活無い日はよく一緒に帰ってるからな。互いの歩幅はなんとなくだが理解しているし、無意識に合わせられる。
「カーブだ!」
スタートから周りを置き去りにするような速さ走っていき、俺達はカーブへと差し掛かった。
カーブは内側へと身体を傾ける必要があるため、身体と一緒に重心も傾いて、歩幅や走るスピードが変わってタイミングがズレて転んでしまう危険性がある。
しかしそれは身体を傾ける場合の話だ。
「ラン!」
「了解!」
俺はコースの内側を走るランと腕を組み、身体ごと全体重を預ける。普通ならよろけるどころか俺もろとも倒れるだろうが、ランなら何一つ問題は無い。
ランは俺1人程度の体重は気にならないと言う態度で、コース内側へと体重を掛けてラン自身の最高スピードでカーブを走り抜ける。
脚だけくっついてるなら振り飛ばされるかもしれないが、腕もガッチリ組んでいるのでその心配は無い。
唯一の問題としては、ジェットコースター並に視界が揺れるので俺が酔いやすい事だけだ。
「え、いや……アレってありなのかしら」
「一応ルールには反してませんが」
「ランさんだから出来ることですネ……」
「おー! ランちゃん凄い!」
「ランちゃん、力男くんがんばれー!」
紐はほどけてない。コースアウトした訳でもない。なんならルールに「人1人持ち上げて走るの禁止」って無いからセーフだ!
「ラン!」
「分かった!」
カーブが終わると共にランは俺を離す。
コース全部でこれが出来れば一番楽なのかもしれないが、身長差の問題で直線だとこれは不可能だった。
俺とランの身長差は12cm、もし身体が片寄るカーブではなく直線で俺を持ち上げても、脚を結んである為、自身の右足も俺ごと持ち上げるような形になってしまって、走るどころの話では無くなってしまう。
だからこそ、これはカーブのみで使用出来る切り札だ。
そして後ろからの足音は聞こえない、前にも人影は見えない。ゴールは目の前となると……
『ゴール! まさかまさかの大差で見事にゴールインしました! 息ピッタリ、まるで阿吽の呼吸です! あと私は放送部の副部長です』
「よしっ!」
「オレ達にかかれば1位なんて余裕だな!」
「「イエーイ!」」
当然、俺達の1位である。
俺とランはハイタッチして、1位の旗がある場所へ……おいラン。此方、俺達の行く場所此方だからな。まだ席に戻れないから、選手全員走るまでマホ達の所に行けないからな。だから嬉しいの分かったからちょっと止まガガガガガ!
俺は脚を結んでいる事も忘れて観客席へと向かうランに引き摺られて、怪我こそは無かったものの全身土まみれになるのであった。
…………うん。今度から、ルールの穴を突くような行動は止めよう。
※力男とランは特殊な訓練を受けています。実際に作中と同じ行動を行うと大怪我、もしくは反則になる可能性があります。絶対にマネしないようにしましょう。
今回は書いてる途中で「普通にランと力男が走っても1位取れるよなぁ、あ、そうだ。ふざけよ」と思い付きでおかしな事になりました。具体的に言うと強盗ごっことか、ランに全体重掛けて走ってもらうシーンとかですね。
なお、最後のシーンがズルい作戦を考えた、そして実行しようと提案した力男に対する天罰です。
こういうのは、なぁなぁで済ますよりも、ヘイト管理って意味でちゃんと作中で痛い目を見てもらう&登場人物に「おい待てそれおかしい」と突っ込んでもらう必要がありますので。




