32、どうしようもなく、会いたい(sideノクス)
本来なら処刑されるはずだったコゼットを、俺は「処刑済み」と偽装し、密かに幽閉している。
王族としてあってはならない行為だ。
本来なら、どれほど愛した相手でも切り捨てるべきだ。
それでも俺は――曲げることができなかった。
王太子である以上、本来であれば新たな婚約者を立てなければならない。
周囲からの圧は強いが、父が生きていること、そしてコゼットを失った俺への同情から、強制はされていなかった。
――だが理解している。
コゼットと結ばれる未来は、もう存在しない。
俺は、この国の王になる者だ。
伴侶を選び、この国を背負わねばならない。
頭では分かっている。
それでも、心だけが取り残されたままだ。
(……いっそ、全てを捨てて逃げられたら)
一度だけそんな願いが胸をかすめた。
だがその幻想は、すぐに溶けて消えた。
コゼットも大切だ。
だが同じだけ、この国も大切だ。
それでも、心は追いつかなかった。
前へ進めと言われても、足だけが泥に沈んで動かない。
今日も国のために公務をこなしていた。
他国との交渉もあり、息をつく暇もない日々だ。
そんな時、突然、目の前に光の粒が舞った。
淡い光が弾け、精霊たちが姿を現す。
代表して、水をまとった少女がふわりと浮かび、言った。
「直接話すのは初めてね! 私はウンディーネ。ノクス殿下、よろしくね」
四大精霊……。
俺の目の前で漂う姿は、まるで夢のようだった。
「こちらはサラマンダー、ノーム、シルフ……私たちは、セレナからお願いされて来たの」
「夫人から?」
「精霊と精霊使いに大変なことが起きているの。つまりそれは......この国の危機にもなり得るわ。誰にも気づかれずに、セレナの元へ向かってもらえるかしら」
「......内密に、ということか。精霊はこの国にとって宝だ。調整しよう」
「ええ。頼んだわよ、王子様」
用件が済んだのか、精霊たちはその場でふわりと回転し、光の粒となって姿を消した。
あっという間の出来事だった。
精霊たちの光は、この俺の世界はまだ救われると告げているようだった。
(大変なことが起きている......か)
まさかこれが、運命を揺るがす一歩になるとは、この時の俺は知らなかった。
***
精霊たちから伝言を受け、内密にアストリッド公爵家に向かった。
そこで、夫人から聞かされた話は衝撃的なものだった。
ルシアンが、黒魔法を......?
とてもじゃないが信じられなかった。弟は優秀で、王宮での評判も良く、将来は俺を支えてくれると確信していたほどだ。
日々の発言からも、国のことを想っていることが伝わってくるのだ。
それなのに......?
夫人が嘘をつくような人物ではないのは理解している。
だが、王族を告発する以上、慎重な判断が必要だ。
その時――夫人のもう一つの言葉が脳裏に蘇った。
「コゼットの黒魔法の件……あれにも、ルシアン殿下が関わっているかもしれません」
その瞬間、心臓が一度止まった気がした。
息が戻るまでに、ひどく時間がかかった。
もし――
もしも、コゼットが黒魔法を使ったのが本人の意思ではなかったとしたら。
もしも、黒魔法が、本人の過失でないものだとしたら......?
俺たちは、まだ……
(……いや)
自嘲の笑いが漏れた。
「――はっ」
弟の罪より、まず彼女との未来を想像するなんて。
王太子として、なんという浅ましさだろう。
胸が裂けるほど苦しいのに、救いを求めてしまう自分が一番醜い。
それでも――
今夜、俺はどうしようもなく、コゼットに会いたくなった。
ノクス殿下に救いが欲しい……




