15、もしかして、あなたは......
ドアを砕いた衝撃の余韻が、まだ手のひらに残っている。
木片を踏み越え、私は一直線にノエルの寝室へ向かった。
扉を開けた瞬間――息を呑む。
部屋は荒れ果て、床には倒れた椅子や破れたカーテンが散らばっている。
その中央で、ノエルが床に這いつくばるようにうつ伏せていた。肩が荒く上下し、背中が小刻みに震えている。
「……ゔっ、あ……」
低い呻き声が、胸を刺す。
私はためらわず駆け寄った。
「ノエル!」
私の声に、ノエルは顔を上げる。
虚ろな瞳が、ぼんやりと私を映す。
「あれ……セレナ……?」
「よかった……無事、だったんだね……」
(……無事?)
何を言っているの――そう思う間もなく、ノエルは再び顔を歪めた。
「……っ、う……まって……行かないで……」
「……っ、ゔあ……」
その掠れた声は、切実にすがるようで。
胸の奥が、きゅうっと痛くなる。
「ノエル! しっかりして! 私よ、セレナよ!」
汗が額からこめかみに流れ落ち、肌は恐ろしく冷たい。
――どうしよう。このままじゃ……!
(お願い……助けたい。ノエルを……ノエルを……!)
必死にそう願った瞬間。
(……え?)
私の手が熱を帯びる。
淡く透き通るような光が、掌から零れる。
そしてその光は、柔らかくノエルを包み込んでいく。
それは温かく、澄んでいて――まるで彼の苦しみを溶かしていくようだった。
荒かった呼吸が、次第に穏やかに変わる。
こわばっていた表情が緩み、静かな吐息だけが部屋に残った。
(……これ、浄化? さっきのドアも……もしかして、精霊の力……?)
確信はない。けど、彼が楽になった――それだけでいい。
安堵が胸に広がり、張り詰めた糸がふっと解けた。
そして、静かに眠るノエルを見下ろしながら、胸の奥で何かがざわめく。
「ねぇ……ノエル……」
そっと頬にかかる髪を払い、唇をかすかに震わせる。
「あなた……もしかして――」
一瞬、言葉が喉でつかえる。
「記憶が……あるの……?」