14、覚醒の夜
再び夜が訪れた。
暗闇の中、静まり返ったはずの屋敷に、かすかな物音が混ざる。
――ガタッ……ギシ……。
それに続くように、低く押し殺した呻き声が聞こえてきた。
「……っ、う……ゔあ……」
(……! やっぱり……また!)
間違えようのない、ノエルの声。
苦しそうなその響きに、胸の奥がざわめく。
私は慌ててベッドから降り、ドアへ駆け寄った。
ノブに手をかけ、力いっぱい回す。
――ガチリ。
外側から鍵がかかっている。
偶然じゃない。明らかに、故意だ。
「ノエル! 大丈夫!? 返事をして!」
私は、ドアを激しく叩く。
返事の代わりに、壁を叩きつけるような鈍い音が響く。
心臓が嫌な音を立てた。
(……今は、理由なんてどうでもいい)
ノエルは何かを隠している。
それはきっと、私にとっても危ういことなのかもしれない。
でも――あの時、抱きしめられた温もりは、嘘じゃなかった。
「……っ、セレナ……っ!!」
「よかった、本当によかった……!」
震えた声。必死な抱擁。
思い出すだけで胸が熱くなる。
全部、本物だった。
……それなのに。
(私は......何も、返せていない)
心臓が、どくんと重く響く。
守られるだけじゃ、いやだ。
(あんなに、苦しそう......!)
無力なまま、彼を見ているなんて――もう嫌だ。
私は......助けたい。
たとえ何を隠していても、どんな理由があっても――
その手を、離したくはないの......!
その瞬間、胸の奥がじん、と熱を帯びた。
脈打つたびに光がにじみ、視界の端から零れ落ちる。
「……ノエル……!」
名前を呼ぶと同時に、眩い光が弾ける。
その瞬間。
――ドンッ!!!!
轟音とともに、私の手から放たれた力がドアを打ち砕いた。
木片が舞い、床に散らばる。
「……え……」
ドアが壊れた?
そんな実感も追いつかない。
――「……っ、は……」
微かに漏れる、苦しげな息。
(ノエル......!)
待っていて。今、行くわ。
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