表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/56

プロローグ

 人々は言った。

 私を、悪女だと。



 目の前で、義妹が泣いている。


 「ごめんなさい、お姉さま……許して……私が悪かったの……」


 地べたに膝をつき、しゃくりあげるその姿を、私はただ見下ろしていた。


 

 銀色に輝く長い髪と紫紺の瞳を持つ私は、セレナ・グランディール公爵令嬢。


  ――けれど、そう名乗るようになったのは、つい十年前のこと。


 もともと私は、母とともに静かな町で暮らす、どこにでもいる平民の娘だった。

 そんな母が、義父である公爵に見初められ、後妻としてこの屋敷に迎えられた。

 そして私は「母の娘」としてではなく、「公爵の養女」として、貴族の籍に入れられたのだ。


 目の前にいるのは、義父とその先妻のあいだに生まれた娘。

 ミルクティーのように淡く柔らかな髪に、透き通る水色の瞳をした少女--コゼット・グランディール。

 私とは血の繋がりはない。

 



 そう。

 私は義妹をいじめていた。




 

 気に入らないものは貶めて。

 侍女にも、無礼な者には容赦なく。

 ……たしか、そうだった、はず。

 記憶は断片的で、ぼんやりとしているけれど、それが“私のしてきたこと”なのだと、理解している。





 私は、みんなから嫌われている悪女ーーだったらしい。


 


 ……だったらしい、なんて、他人事みたいだけれど。

 それが、私の“認識”だった。


 


 だから。


 こんなにも私の最後は、あっけないのだろうか。




 いつものティータイム。

 今日は婚約者のノエル・アストリッド公爵と一緒だった。



 輝くような金髪。その瞳は深紅で、燃えるように熱を帯びている。


 


 穏やかな時間のはずだったのに。

 急に、喉の奥が焼け付くように熱くなる。




 「……ごほっ」



 口から溢れた血が、ティーカップを汚す。

 だんだんと目の前が、暗くなっていった。


 


 「……セレナ!!」




 ノエルの叫び声が、遠くで響く。



 どうして、こんなに焦った顔をしているのだろう。


 ……どうして、ノエルはそんなに悲しそうな顔をしているの?




 私は、悪女だったはずなのに。

 誰からも憎まれて当然の人間だったはずなのに。


 


 だんだんと目の前が暗くなっていく。

 その最後に見たのは、ノエルの焦燥に満ちた瞳だった。


 


 ーー意識が、闇に沈む。







 その陰でーー

 


 「ふふっ......」



 冷たい風のような笑い声が、誰にも気づかれずに空気を震わせた。



 「可哀想なお姉様。

 なーんにも、知らないまま、死んじゃった」



 その声は、空に溶けて消えていった。

新連載開始!

完結済作品も二作ございます。

興味あればぜひ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ