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8.夜のティータイムは内緒です

 旧校舎の庭を蘇らせた一件以来、生徒会メンバーからのエレノアへの信頼は揺るぎないものとなっていた。


 フェリックスは、エレノアの能力を称賛し、何かと彼女に声をかけるようになった。

 しかし、多忙な生徒会長である彼に、ゆっくりと話す時間はない。


 ある日の夜。


 エレノアは、放課後の畑仕事で採れたばかりの‘ハニー・リーフ’を摘んでいた。


 これは、甘い香りがするハーブで、お茶にすると疲労回復に効果がある。

 家族と飲むための、ささやかな贅沢だった。


 その時、温室の扉が静かに開く音がした。

 振り返ると、そこに立っていたのは、生徒会長のフェリックスだった。


 彼は、いつもの完璧な礼服ではなく、少し着崩した姿で、どこか疲れたような表情を浮かべていた。


「……フェリックス会長。こんな時間にどうかされましたか?」


 エレノアが戸惑うように問いかけると、フェリックスは苦笑いを浮かべた。


「少し、息抜きを……」


 生徒会長としての責務や王族としての重圧が、彼を疲れさせているのかもしれない。

 エレノアは、彼のために何かしたいという衝動に駆られた。


「あの……もしよろしければ、お茶を一杯いかがですか?」


 エレノアは、摘みたての‘ハニー・リーフ’と、温室に備え付けられていた簡素なティーポットを手に、手際よくお茶を淹れた。


「私が育てたハーブです。疲れが取れますよ」


 差し出されたカップから立ち上る甘く優しい香りに、フェリックスの表情がふっと和らいだ。

 彼はカップを手に取ると、ゆっくりと一口飲む。


「……美味しいな」

 彼の口から出たのは、心からの言葉だった。


 二人は、温室に差し込む月の光と、植物の優しい香りに包まれながら、静かな時間を過ごした。


 フェリックスは、王族としての悩みを、初めてエレノアに打ち明けた。


「皆は僕を王子として見る。だが、ここでは……君は、僕をただの一人の人間として見てくれるんだね」


 エレノアは、ただ黙って彼の話を聞いていた。


 彼女の持つ温かさと素朴さは、王宮の華やかな社交界とは全く異なる、安らぎをフェリックスに与えていた。


「……君といると、心が安らぐ。まるで、この土に触れている時みたいだ」


 フェリックスは、エレノアの手をそっと取って微笑んだ。


 泥や土に慣れた、小さな手。しかし、その手から伝わる温もりは、彼の心を優しく満たしてくれる。


 その瞬間、エレノアの心臓は、これまでにないほど強く鼓動した。

 自分ではわからなかったがきっと顔も真っ赤になってただろう。


 この夜の温室での秘密の時間は、二人の関係を、生徒会長と一生徒という立場から、一人の男性と女性へと変える、決定的な出来事となった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


少しでもエレノアたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回は、クロードとの絆が深まる場面が描かれる予定です。お楽しみに!


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