5.夜の見回りに見つかっちゃった!
生徒会での活動が始まって数週間たった。
エレノアは、放課後の畑仕事と生徒会活動を両立させるために、慌ただしい毎日を送っていた。
生徒会室での業務が終わると、すぐに作業着に着替え、学園の片隅にある使用人用の畑へと急ぐ。
それが彼女の日常となっていた。
そんなある日の夜、エレノアは温室で夜遅くまで‘メロウ・キャベツ’の世話をしていた。
収穫期が近く、頻繁に加護を注いでやらねばならなかったからだ。
彼女が作業に夢中になっていると、温室の扉が静かに開いた。
「夜間に学園敷地内にいるのは、規律違反だ」
冷たい声とともに、そこに立っていたのは、夜間の見回り中のライエル・フォン・アイゼンだった。
彼の顔は、普段の厳格な表情よりもさらに固く、エレノアを睨みつけていた。
「アースフィールド嬢。貴女は生徒会メンバーとして、規律の模範となるべき立場だ。
規律違反をした理由を述べなさい」
エレノアは、なすすべなく心臓が凍りつきそうになるのを感じた。
言い訳はできない。規則を破ったのは事実だ。
そして、家計の事情を彼に話すわけにもいかない。
彼は完璧な血筋の裕福な貴族で、エレノアの貧乏ぶりなど想像もつかないだろう。
「……その……ごめんなさい」
エレノアがただ謝罪の言葉を口にすると、ライエルの眉間のシワがさらに深まる。
「謝罪で済む問題ではない。何をしているのか、はっきり言え!」
その時、エレノアの視界の隅で、ふと‘メロウ・キャベツ’の葉が、わずかに萎れていくのが見えた。
土の精霊が、もっと加護を求めているのだ。
エレノアは迷った末、ライエルに全てを打ち明けることにした。
「ライエル様、このキャベツ……今、世話をせずに放っておくと、明日には枯れてダメになってしまうんです。
私は、この子たちを……家族に届けたくて……」
彼女は震える声で、畑仕事が家計を助けるためのものであること、家族のためにこの作業が欠かせないことを、ぽつりぽつりと話した。
ライエルは、驚きで目を見開いた。
彼が知る貴族令嬢は、自らの手で土を触るなどあり得ない。
ましてや、家計のために毎日泥だらけになるなど、想像もつかなかった。
「……貴女は、そのような理由で規律を破ったというのか?」
ライエルの声は、怒りから戸惑いに変わっていた。
「……貴女の行動は、確かに規律に反している。だが……」
彼は、エレノアが規律を破ったのは、誰かのためにひたむきに努力しているからだと理解した。
彼の厳格な規律は、常に「正義」とともにある。
エレノアの行為は、彼にとっての「正義」に反していなかった。
ライエルは、一つ息を吐き、エレノアに背を向けた。
「……今夜のことは、見なかったことにする。次はないと思え」
そう言い残して去っていくライエルの背中は、どこか、いつもより小さく見えた。
去っていく背中にエレノアは感謝の思いで頭を深く下げた。
ライエルは、エレノアを規律を乱す存在として厳しく接していたが、彼女のひたむきな努力と誠実さを知ってしまった。
彼の自らの正義の下、彼女を個人的に見守るようになるのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
少しでもエレノアたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は、ノアとの絆が深まる場面が描かれる予定です。お楽しみに!
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