4.魔法薬作るので予算は必要なんです!
王家の庭園修復後、エレノアは正式に生徒会メンバーとして活動を始めていた。
しかし、彼女の「放課後は畑仕事」という条件は、生徒会内で波紋を呼んでいた。
特に副会長のクロードは、エレノアの存在を「非効率」だと断じていた。
「この予算案は無駄が多い」
生徒会室で開かれた定例予算会議。
クロードの鋭い視線が、エレノアが提出した「畑の生産物予算」に突き刺さった。
「これは学園の備品として計上するものだろうか? 規格外の野菜や、品質の保証がない花など、貴族の遊びに予算は割けない」
クロードは、エレノアが育てた作物を「遊び」と決めつけ、冷静な声で一刀両断する。
エレノアの胸に、彼の言葉が突き刺さる。
家計を助けるための大切な畑仕事が、彼には単なる「遊び」に見えるのだ。
「クロード副会長、それは違います!」
エレノアは、意を決して反論した。
「確かに規格はバラバラです。
でも、ここにある‘メロウ・キャベツ’からは、市販品よりも遥かに強力な治癒薬が作れます。
それに、この‘シャイニー・ハーブ’は、疲労回復に効果があるのに、市場には出回っていません」
エレノアは、懐から小さな小瓶を二つ取り出した。
一つは彼女の畑で育てたハーブから作った回復薬、もう一つは市販の回復薬だ。
「市販のものは、これ一本で銀貨10枚ですが、私が作ったものは、たった銅貨1枚の材料で同等以上の効果を発揮します。
しかも、このハーブはこの温室でも育ちます」
その言葉に、会議室が静まり返る。
クロードは眉一つ動かさず、無言で二つの小瓶を見比べた。
彼の完璧な計算が、エレノアの言葉の合理性と実用性を瞬時に弾き出していた。
「……無駄な出費ではない、といいたいのか?」
クロードの声には、明らかに動揺の色が混じっていた。
エレノアは、力強く頷いた。
「はい。むしろ、学園の予算を大幅に節約できます!」
完璧主義で合理性を重んじるクロードにとって、エレノアの提案は、彼の常識を覆すものだった。
規格外の作物に、これほどの価値があるのか?
彼の価値観は、エレノアという存在によって、静かに揺らぎ始める。
会議後、クロードはエレノアに近づき、冷たい視線で尋ねる。
「……どこで、そんな知識を得たんだ?」
エレノアは、会議中の威勢の良さは鳴りを潜め、鋭い視線から逃げるように小さな声で答えた。
「えっと……家で、ずっとやっていたことなので……」
「なるほど。そうか――」
その瞬間、クロードは、エレノアの持つ「力」が、ただの魔法ではなく、彼女の日常に根ざした、生きるための知恵であることを理解した。
彼女の地味な力が、彼が求める「完璧な合理性」と結びつく可能性に気づき、彼はエレノアへの興味を深めていくのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
少しでもエレノアたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は、ライエルとの絆が深まる場面が描かれる予定です。お楽しみに!
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