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3.王家の庭園、修復してみます!

 ユニティ魔法学園の生徒会室に、王家からの緊急連絡が届いた。


「第二離宮の『光輪の庭園』の植物が、一夜にしてすべて枯れてしまった……?」


 報告を受けたフェリックスの顔には、珍しく焦りの色が浮かんでいた。


 その庭園は、何代にもわたって王族の魔力が注がれてきた聖域であり、特別な魔法植物が育てられていた場所だという。


 魔法管理局の調査でも原因は不明で、ただ「土から魔力が失われている」という結論しか出なかったらしい。


「……頼む。エレノア、君の力を貸してほしい」


 エレノアはフェリックスに連れられて庭園に足を踏み入れた。

 

 眼の前に広がる惨状に息を飲んだ。

 かつては眩い光を放っていたという植物たちは、今はただ、色を失った(むくろ)のように立っている。


「この土は……悲しんでいます」


 エレノアがそっと土に触れると、土の精霊の弱々しい声が聞こえてきた。


 土の魔力は完全に失われ、精霊たちも消えかけている。

 普通の魔法では、これほど大規模に魔力を回復させることはできない。


 フェリックスは、エレノアが何か特別な魔法を使うのだろうと思っていた。

 だが、彼女が始めたのは、魔法とは程遠い、「畑仕事」だった。


「まずは、この土を元気にしないと!」


 エレノアは、愛用の鍬を学園の庭園まで取りに戻った。

 いつもの作業着に着替え、愛用の麦わら帽を被り、長靴に履き替えて『光輪の庭園』に帰ってきた。


 ぽかんとするフェリックスの眼の前で庭園の土を丁寧に耕し始める。

 泥だらけになるのも構わず、腐葉土や養分を混ぜ込んで、丁寧に庭園を耕していく。


「早く元気になろうね」


 優しい言葉とともに土に触れた彼女の手から生まれた土の精霊の柔らかな光がじわじわと大地に染み込み始めた。

 それは、派手な魔法とは全く違う、地道で泥臭い作業だった。


「……なぜ、そんなことを?」


 フェリックスは戸惑いながらも、その様子から目が離せなかった。

 自分の知っている魔法とは似ても似つかない方法だったのだ。


 エレノアはその言葉ににっこりと微笑む。


「土も生き物ですから! 元気がなければ、魔法も植物も育ちません」


 その言葉に、フェリックスは雷に打たれたような衝撃を受けた。


 彼はこれまでの人生で、魔法は常に華々しく、力強いものだと教えられてきた。

 だが、エレノアの魔法は、まるで命を育むかのような、温かく優しいものだった。


「私も手伝おう」


 フェリックスは、迷いなく王族の礼服を脱ぎ、エレノアの隣で土を耕し始めた。

 泥で汚れることも気にせず、ただひたすらに土と向き合うエレノアの姿に、彼は真の「魔法」の力を見た気がしたのだ。


 数日後、庭園の土は魔力を取り戻し、枯れていた植物の根元から、鮮やかな新芽が芽吹き始める。


 その様子を庭園を覆う柔らかな光に包まれながら、泥だらけのエレノアとフェリックスは微笑み合った。


 この出来事をきっかけに、フェリックスはエレノアの純粋な才能とひたむきさに心を奪われていく。

 そして、エレノアもまた、高貴な王子であるフェリックスが、泥だらけの自分を受け入れてくれたことに、特別な感情を抱き始めるのだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


少しでもエレノアたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回は、クロードとの絆が深まる場面が描かれる予定です。お楽しみに!


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― 新着の感想 ―
この世界の上流階級(貴族や魔法使い)が魔法万能論とでも言うべき堕落したロジックで動いているの相当危険ですね。誰かがわざと愚民化教育でもしているのではないかと勘繰ってしまいます。 堕落したSACに支配さ…
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