15.クロードと「完璧な調和」
フェリックスの魔力によって、聖なる大樹は微かな光を放ち始めていた。
しかし、その光は不安定で、まるでろうそくの炎のように揺らめいている。
このままでは、大樹を完全に癒やすことはできない。
「会長の魔力は強力だが、出力が安定しない……」
クロードは、魔力の流れを示す魔法のグラフを睨みつけていた。
彼の頭の中では、完璧な数式が何度も弾き出されるが、エレノアの加護が加わった魔力は、常に予測不能な変動を起こす。
「エレノア、もっと……優しく……いや、力強く、魔力を送ってくれないか?」
クロードは、苛立ちを隠せない様子でエレノアに指示を出した。
彼の指示は、常に完璧な論理に基づいていたが、エレノアの加護は、彼の求める「データ」を無視するように振る舞う。
「でも……精霊さんが、苦しいって言ってます……」
エレノアは、大樹に触れ、精霊の「声」を必死に聞き取ろうとしていた。
その声は、クロードの求める数値とはかけ離れた小さなものだった。
「非論理的だ! 精霊の声など、このグラフには反映されていない!」
クロードは、苛立ちの限界に達し、思わず叫んだ。
彼の完璧な世界には、感覚や感情といった曖昧な要素は存在しない。
しかし、彼の目の前で、エレノアは感情に訴えかけるように、精霊と対話を続けていた。
その時、エレノアはクロードの手を掴み、大樹に触れさせた。
「クロード様、この温かさ……感じますか? これが、精霊さんの『心地いい』って気持ちなんです」
クロードは、エレノアの手から伝わる温かい感覚に、戸惑いを隠せない。
彼の論理で、この現象を説明できないのだ。
しかし、彼の心が、エレノアの言葉を信じろと囁いていた。
「……分かった。君の『感覚』を、僕のデータとして扱う」
クロードは、潔く自分の完璧な理論を捨て去った。
彼は、エレノアの指示に耳を傾け、彼女の「温かい」「冷たい」「心地いい」といった曖昧な言葉を、彼の精密な魔力制御に反映させていった。
「今、魔力を……『家族を想う温かさ』で」
エレノアの言葉に、クロードは眉をひそめた。
だが、彼はその言葉に込められた感情を信じ、魔力を制御した。
その瞬間、大樹を包む光は、これまでにないほど安定し、力強い輝きを放ち始めた。
それは、クロードの完璧な論理と、エレノアの温かい感覚が、完璧な調和を遂げた証だった。
クロードは、エレノアの顔を見つめた。
「……君の力は、僕の理論を凌駕する。
君の存在は……僕の完璧な世界を完成させるために、不可欠だ」
彼の言葉は、もはや「道具」への評価ではなかった。
彼の心は、エレノアという予測不能な存在に、抗いがたいほど惹かれていたのだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
少しでもエレノアたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は、ライエルとの絆が深まる場面が描かれる予定です。お楽しみに!
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