14.フェリックス王子と「希望の光」
「大地の病」によって、王国全体が絶望に沈む中、生徒会は聖なる大樹の前に集まっていた。
大樹は魔力を失い、その枝は枯れ果て、エレノアの加護も弱々しくしか機能しない。
「……ダメだ。私の声が、大樹に届かない……」
エレノアは、震える手で大樹の根元に触れていた。
精霊の微かな嘆きは聞こえるものの、その声は砂のように指の間からこぼれ落ちていく。
王国の未来が、自分の非力さにかかっているという重圧に、彼女の心は押しつぶされそうだった。
その様子を、生徒会長のフェリックスは苦しそうに見つめていた。
「エレノア、君は……自分を責めているのか?」
フェリックスは、王族に代々伝わる「祈りの魔法」を試していたが、大樹は一切反応しなかった。
王族の魔力も、大樹の傷を癒すには至らないのだ。
「すまない。僕の力では……この大樹を救えない。王族としての僕の役目なのに……」
彼は、完璧な王子としての仮面を脱ぎ捨て、エレノアにだけ、その弱さを見せた。
その姿は、一人の人間としての苦悩に満ちていた。
エレノアは、フェリックスの手を握った。
「フェリックス様。王族の力ではなく……フェリックス様自身の心で、大樹に話しかけてください」
エレノアは、王族としての責務からではなく、ただ純粋に、民と大樹を想う彼の心を感じたのだ。
フェリックスは、エレノアの言葉に導かれ、目を閉じた。
(お願いだ……どうか、この王国と、僕の大切な人たちを守ってください……!)
彼の魔力は、王族としての威厳を捨て、一人の人間としての温かい願いを乗せて、大樹へと流れ込んでいく。
それは、彼自身の「希望」そのものだった。
その瞬間、フェリックスの魔力がエレノアの加護と共鳴し、二人の手からまばゆい光が溢れ出した。
光は大樹を包み込み、まるで王子の祈りに応えるかのように、大樹の幹が温かい光を放ち始めた。
「……エレノア……」
フェリックスは、驚きと安堵の表情でエレノアを見つめた。
エレノアもまた、泥だらけの自分を「一人の人間」として受け入れてくれたフェリックスの優しさに、特別な感情を抱かずにはいられなかった。
大樹に灯された「希望の光」は、二人の間に確かな絆を築いた。
しかし、光は不安定で、大樹の治癒には至らない。
次の段階へ進むためには、この不安定な光を安定させる、完璧な制御が必要だった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
少しでもエレノアたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は、クロードとの絆が深まる場面が描かれる予定です。お楽しみに!
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