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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ガンマの新居探し

作者: そえじろう
掲載日:2025/06/03

 サイレンが鳴り響く。


 息を切らせながら若い男が路地裏に逃げ込んだ。


「くそッ! こんな所で捕まってたまるかよ!」


 ふとカバンの中身を確認する。


 その中にはびっしりと腕時計が入っている。


 つい先程のことだ。


 真昼間の繫華街に構える高級時計店に強盗が押し入った。


 店員を容赦なくバアルで殴打し殺害。


 商品を奪って逃走。


 そこに一切の迷いはない。


 しかし計画性も皆無だ。


 そうでなければこんな袋小路に逃げ込んだりはしないからだ。


「いたぞ!!」


 警察官に発見された。


 でも男はまだ諦めてはいない。


 都合よく近くに子供がいたからだ。


「来るな! このガキを殺すぞ!!」


 ナイフを子供に突き付ける。


「…………ている?」


 子供が何かを呟いた。


「ああ?」


「お前は一体何のために生きているんだ?」


「うるせえなぶっ殺すぞこのガキが!」


「なら質問を変えよう。お前にとっての死とはなんだ?」


「だからうるせえって言って――」


 !?


「うぎゃああああ!!」


 男は突然苦しみ出すと……。


 その場に倒れ伏して動かなくなった。


 警察官が男に駆け寄るが既に男は事切れている。



 いつの間にか子供の姿はそこに無い。


 その子供……


 ガンマという男の子を突き動かすのはたった一つの探求心である。


 既にこの世にはいない父が告げた死ね(・・)という言葉の意味を探し続けているのだ。



 ◇ ◇ ◇



 ガンマは海岸線沿いの空き家(・・・)に住んでいる。


 まだ5歳だというのに両親を殺害し自ら身寄りを捨てた。


 落ち着いて研究に没頭できる場所を求めてこの地へとやって来た。


「…………」


 行き詰った時には窓の外に広がる水平線に目をやる。


 自然と頭が整理させれていく。


 きっと心が洗われるとはこういう事をいうのだろう。


「ここは住処(すみか)として申し分ないな……」


 思わず呟く。


 すると背後から。


「ねーねーガンマくん。せっかくいいお天気なんだからどっか遊びに行こーよー。ねーねー」


 10歳くらいの女の子が退屈そうに肩を揺する。


「うるせえ! こっちは集中して――」


「さっきから何やってんの? なんか英語? とか数字ばっかり? つまんないの」


 研究資料を摘まんでは放って散らかす。


「あ、てめえ! 何しやがる!」


 女の子の手首を掴もうとするがスカッとすり抜けるようにまるで手応えを感じさせない。


「くそ! どうなってんだてめえの身体は!」


「だって幽霊だもん。あたりまえでしょう」


「だったらなんでてめえはオレに触れるんだよ!」


「そんなこと言われたって分かんないよー。そんな事より遊びに行こうよーガンマくんー」


 ここは住処としては申し分ない。


 うるさい幽霊が住み着いているという事を除いては……。



 ◇ ◇ ◇



 初めてガンマがこの家にやって来た時。


「あっ」


「え?」


 目と目が合ってしまった。


「キャー! のび太さんのエッチ!!」


「んな!?」


 ドゴッ!!


 鉄アレイを浴びたガンマはその場で気を失った。


 ……。


 …………。


 ………………。


 !?


 目が覚めたらすぐそこに顔面があった。


 しかも透けている。


「うわあああ!!」


 思わず叫ぶ。


 それでもすぐに反撃するのがガンマの(したた)かさだ。


 その眼球をくり抜くが如く容赦なく指を突っ込む。


「――ッ!?」


 なんとすり抜けた。


「目が! 目があああ! ……ってわたし幽霊だからノーダメージだった。てへ☆彡」


「な、なんだこいつは!?」


 これが幽霊との出会いだ。



 ◇ ◇ ◇



 そもそもガンマは幽霊など信じてはいない。


 あるのは生か死か。


 その二択でしかないのだ。


「ねーねーぼく? 名前なんていうの?」


「…………」


 これはきっと何かの間違いだ。


「あ、じゃあお姉さんが当ててあげるね?」


「…………」


 プラズマ現象か……?


 あるいはガスの塊がなんらかの影響で擬人化を……。


「分かった! 光宙(ぴかちゅう)だ!」


「…………」


「えー違うの? じゃあ黄熊(ぷう)だ」


「…………」


「あたり? やったー! よろしくね無職(ぷう)


「おい、てめえ! そのぷうだけはやめろ!」


黄熊(ぷう)が本当の名前?」


「違う。ガンマだ。これがオレの名だ」


「そっかー。ガンマくんっていうんだ。変な名前」


「あーそうかよ。で? そういうお前は?」


「わたし今鹿(なうしか)っていうの。よろしくね!」


「てめえも十分変じゃねえか!」



 ◇ ◇ ◇



 数日間、今鹿という存在と過ごしてさらに分かった事がある。


 まずそれは鏡に姿が映らない。


 しかし写真には薄っすらと写る。


 常に足が宙に浮いている。


 壁をすり抜ける。


 以上を踏まえ……


 それは間違いなく生とも死とも言えない理解を超えた存在だという事は間違いない。


 認めたく無いが人に近い何かと判断するしかないのは確かなのだ。


 認めたくは無いが……。



 現在。


「ねーねー遊びに行こうよー。ねーねー」


「行きたきゃ一人で行って来いよ! オレは絶対に行かねえ!」


「一人で行ったってつまんないじゃん。つまんないお化けが出ちゃうよ。ヌーンつまんないお化けだぞー」


 今鹿の首がぐりんと一回転した。


「わかった行こう」


 つまんないお化けはあまりにもつまんな過ぎた。


 ガンマは根負けした。


 外に出る。


 ふと振り返ると。


 !?


「ノオオオオオ!! ノオオオオオ!!」


 なんと今鹿の身体がドロドロに溶けている。


 比喩表現などではない。


 まるで蠟人形が火であぶられたようなとんでもない状況になっているのだ。


「おい! なんだ、どうなってんだその身体!?」


「モドシテ。ハヤクワタシヲオウチノナカへ……」


「家の中に戻せば良いのか!? って、すり抜けるじゃねーか!」


 ガンマは必死に考える。


 !!


「そうだ! 一か八か!」


 掃除機を持ちだす。


 ブオオオオン!!


 今鹿は吸引力で何とか家の中へ引き寄せられる。


 ピキーン!!


 一瞬で身体は元通り。


「ふう。死ぬかと思っちゃったよ。わたしこの家から出られないのすっかり忘れてたよ。ガンマくん……。わたしの事は気にせず遊びに行ってきて良いのよ。あ、でもお土産は買って来てね」


「はあ……」


 ガンマはため息をつきながら部屋に引っ込んだ。



 ◇ ◇ ◇



 次の日。


 やはりガンマは研究が手に着かない。


「ガンマくんガンマくん! トランプしようよー!」


「一体こいつに何が起こっているんだ……?」


「じゃあUNOやろう?」


「なぜ家から出たら身体が溶けるんだ? なんなんだこいつの発作は?」


「花札でもいいよ」


「お前花札の遊び方知ってんのか?」


「ううん。わかんない」


「外に出るぞ」


「へ……?」


「オレの仮説が正しければ今日は外に出ても問題はずだ」


 ガンマが注目したのは天候である。


 昨日は晴天だった。


 そして今日はどんよりと空一面が雲で覆われている。


 つまり今鹿は日光に弱い!


 それがガンマの立てた仮説だ。



「うう~。恐いよ~」


 今鹿は怯えながらもゆっくりと外へ出てみる。


「ノオオオオオ!! ノオオオオオ!!」


「あ、違ったか……」


 実験に失敗はつきものである。



 ◇ ◇ ◇



 ハンカチを噛みしめながら泣きべそをかく今鹿。


「ふえ~ん。わたしでもてあそぶなんてひどいよガンマくん~。もうお嫁に行けないしくしく……」


「なあ。お前もそういうのに憧れてたりすんのか?」


「そういうのってどういうの?」


「てめえで言ったんだろうが。その……あれだよ。お嫁さんっていうやつ?」


「あ、ガンマくん顔を赤くしてかわいいー」


「うるせえな! いいから答えろ!」


「う~ん。わかんない」


「そうかよ。ところでお前、記憶はあんのか?」


「あるよ。昨日はガンマくんとおままごとをした。ガンマくんの赤ちゃん役は板についてたよ」


「捏造してんじゃねーよ!」


「正直わかんない」


「あ?」


 今鹿は唐突に真面目な顔つきになると。


「わたしね。気づいたらここにいたんだ。でもきっと幽霊になる前のわたしは有名人だったんだよ。たぶん子役のスーパーアイドル的な?」


「どういう意味だ?」


「ときどきテレビに出てるから」


「誰が?」


 ガンマの問いに今鹿はドヤ顔を向けるとテレビのリモコンを手に取りONにした。


「丁度今頃なんだよ。あ、ほらほら! あれわたしだよ!」


 なんとテレビ画面には確かに今鹿が映っていたのだ。


 さらにそれだけではない。


 ナレーションの音声が流れる。


 佐々木今鹿さんが失踪したのは今から23年前の事だ……。


 当時10才だった。


 両親は今でも娘がどこかで生きていると願ってビラを配り続け、情報提供を呼び掛けている……。


「んな!?」


 それはあまりにも衝撃的だった。


 こんな事まったく予想していなかった。


 ガンマはただただ呆然とするしかなかったのだ。


 だがしばらくして、ガンマは急に何かを思い立ったかのように家中を物色し始めた。


「ガンマくんどうしたの急に?」


「悔しいがオレも研究者の端くれだ。どうしても気になっちまった。お前の死因が……」


 今鹿はこの家に囚われている。


 だとしたらこの家のどこかにきっと手掛かりがあるはず。


 ガンマはそう考えている。



 ◇ ◇ ◇



 この空き家は2階建ての庭付き一軒家だ。


 文字通り三日三晩で部屋という部屋を全て調べつくした。


 今まで最低限の部屋でしか生活していなかった……。


 だが改めて調べてみると興味深いことがいくつか分かった。


「おかしい……」


 ガンマが呟く。


「何が?」


「空き家にしては何もなさすぎる。家具だってオレが持ち込んだものしかない……」


「空き家だからじゃないの?」


「だが何者かが生活していた痕跡はある」


 自分達ではない何者かの毛髪が所々に落ちていたのだ。


 もちろんガンマが一度も使用していない部屋にもそれはあった。


「この毛髪の人物が今鹿を殺害したのか……?」


 それから土足で床を踏み荒らしたような足跡がある。


「例えば今鹿を殺害した犯人はここに潜伏していたが、なんらかの事情で慌てて逃げた……?」


 …………。


 その時。


「ノオオオオオ!! ノオオオオオ!!」


 今鹿が例の発作を起こしたのだ。


 家の中にいるというのに。


「おい! どういう事だ!?」


 急いで掃除機の吸引で安全圏まで引っ張り込む。


「ふう。死ぬかと思ったよー」


 安堵の表情を見せる今鹿。


「…………」


 ガンマは静かに考える。



 この部屋は道路に面した側の窓際だ。


 そういえば玄関も道路側に面していた……。


 関係しているのは方角……?


 だとしたら――。


「おい今鹿。向こうの部屋の窓から外へ出てみろ」


「うんいいよ」


 ひょいっと海岸へ着地する。


「…………」


「…………」


 発作が起きない。


「え? うそ、やったー!」


 今鹿は喜びのあまり何度も万歳をする。


「わーい!!」


 海岸を走り回る。


「ノオオオオオ!! ノオオオオオ!!」


 発作が出た。



 ◇ ◇ ◇



 なんとか今鹿を安全圏へ引き戻す。


 もうガンマには真相がほぼ分かっている。


 なぜ今鹿が命を落としたのか……。


 それは生前の彼女がどこに住んでいたかでハッキリする。


 先程テレビで見た映像。


 今鹿の両親がビラ配りをしていた場所の風景を思い出す。


 それを頼りにインターネットで様々な検索をかける。


 すると。


「やはりそうだ!」


 ガンマは全てを理解した。


 間も無くガンマは身分を隠して警察へ通報した。


 しばらくして海岸には多くの警察が集まった。


 砂という砂を掘り起こす。


 そこには今鹿の両親も来ていた。


 皆が見守る中……。


「いたぞ!」


 砂の中から子供らしき白骨体が見つかった。


 この時両親はまだ冷静さを保っていたが、すぐにそれは施設へと送られDNA鑑定が行われた。


 その結果は……。


 佐々木今鹿、本人で間違いないとのことだった。



 両親は泣き崩れた。


 泣いて泣いてそれでも泣いていた。


 でも両親はこう言ったのだ。


「お帰り今鹿……」



 ◇ ◇ ◇



 これは仮説でしかない。


 だがほぼ間違いないと言えるだろう。


 ガンマが暮らしていた空き家はおそらく今鹿の死因とは関係ない。


 元の家主は借金を踏み倒す為に夜逃げしたと考えれる。


 重要なのは今鹿が生前どこに住んでいたかということだ。


 彼女が住んでいた自宅は川にとても近かった。


 その川は海と繋がっている。


 言動からして分かる通り、生前の彼女もきっと好奇心旺盛だったに違いない。


 そう……


 今鹿は川に誤って転落し間もなく溺死した。


 その遺体は下流へと流されて行きこの海岸を終着としたのだ。


 つまり彼女の死因は事故死である。



「…………」



 ようやく気分が晴れたガンマ。


 しかし今の空き家は捨てる事にした。


 警察が捜査で踏み込むことは予想できるからだ。


 しばらくしてガンマは次の空き家を見つけた。


 今度は山奥の廃れた廃墟だ。


 扉を開ける。


「あっ」


「え?」


 目と目が合ってしまった。


「キャー! のび太さんのエッチ!!」


「んな!?」


 ドゴッ!!


 鉄アレイを浴びたガンマはその場で気を失った。


 ……。


 …………。


 ………………。


 !?


 目が覚めたらすぐそこに顔面があった。


 今鹿だった。


「お前なんでここに!?」


「だってー。なんか心がモヤモヤってするっていうか? ガンマくんが構ってくれなくてさびしくてぇ。そ、だから来ちゃった♡」


「来ちゃったじゃねーよ! ああ~! ようやく静かになると思ったのによ~!」


ガンマが研究に没頭できる日はまだまだ遠いようだ。

この物語は

「無駄に長い廊下があるお屋敷には大抵有能なメイドがいるものです」

のスピンオフです。

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