1 婚約
「ティナリア、お前の婚約が決まった」
久々に呼ばれた夕食で父が言った一言目は、これでした。
「お姉様かわいそ〜。だってお姉様の相手って、未知の病を患っているって噂のランチェスター公爵令息なんでしょ〜」
「ようやく、お前がいなくなるのね」
カティアナも継母もティナリアが黙っているのを良いことに言いたい放題だ。
「ねぇ、お姉様今どんな気持ち?黙ってないで何か言ったら?」
ティナリアは、俯いていて表情はわからない。それを悲しんでいる、あるいは絶望していると受け取ったカティアナは、嬉しそうに声をかけた。
だが、実際のティナリアはというと、
(結婚すれば、こいつらと離れられる……ヒャッホー)
ニヤついている顔を見られないよう、必死に隠していた。
(いや、こいつが勝手に決めた相手だ。何か病気だけなら良いが、他にも難ありだった場合めんどいなぁ。)
「ちょっと、聞いているの」
カティアナは、何も言わないティナリアに怒鳴った。
その様子に継母も
「これだから、賢いカティアナとは大違い」
と、馬鹿にするように言った。
しかし、ティナリアは
(それに、難ありじゃなくてもまだ結婚するとは決まったわけじゃない。小説とかだと婚約破棄とかもあるし、慎重に婚約破棄だけは、回避できるようにしないと)
考えるのに夢中であまり聞いていなかった。
そうして、カティアナや継母は他にも何か言っていたが、考えたままのティナリアはすぐに自室に戻ってしまった。




