4 苦手な食べ物
響子はなんでも食べられて苦手なものはほぼ皆無だったが、敢えていうなら辛いものがやや苦手ではあった。でもそれは七味唐辛子を入れるとかしなければいいだけだし、カレーを食べるときは辛口にしなければいいというだけのことで、大した問題では無かった。
英介はというと、好物は月並みで天ぷら、寿司、うなぎが好きだというのだが、なんと足のある動物の肉は食べないということだった。ビーガンというわけではなく、魚(足が無い)、卵、乳製品は食べるし野菜はパクチーとアボガドを除いて何でも食べるということだった。
響子の周りに肉が嫌いという人はいないので、やや意外だった。どうしてあんなに美味しいものが苦手なのかと聞くと、宗教でもなく、最近世界的に広がっている、動物の虐待を無くすという運動に関わっているのでもないということだった。
幼少時はお肉大好きな坊ちゃんだったのが、ある晩夢で「俺たちの仲間を食いやがってこのヤロー」と追いかけてくる豚の大群から逃げ回る夢を見てから不思議なことに食べられなくなったということだった。実は英介は響子も含めて誰にも言わないことにしていたが、以前から動物の扱いについて疑問に思っていることがあったのだ。
大学時代だったか、ニュースでイルカが漁師に殺されたという報道があって、その時近くにいた女子が「ひどい、どうしてあんなかわいいのに!」と呟いた。じゃ豚や牛はどうなるのだ。
彼らだって子供の時は可愛いし、同じ哺乳類だ。なのに毎日大量の豚や牛が殺されてスーパーに並び、みんなで美味しい美味しいって食べまくってるではないか。
鹿はどうだ。あんなに可愛いのに農作物とかを食べ荒らして増えすぎたとか言ってジビエにされてしまっている。毛皮はどうだ。温かいかもしれないが、それを作っている現場はかなり恐ろしいらしい。皮を剥がれてしまうなんてかわいそうすぎる。
一方で可愛いということで人気のあるパンダはどうだ。人間以上にお金をかけて育てられているではないか。最近は犬を追い抜いて猫が空前のブームだという。子猫を中心に大量に殺処分されてるのを改善して猫たちを助けようという声をよく聞くようになったが、そう叫んでいる人たちも牛や豚は食べる。
同じ哺乳類なのに。別に肉を食べるなと言っているのではない。大切にする動物と殺して食したり利用する動物の違いは何なのかということだ。どうも大きさではないようだ。
いや、ひょっとして小さい方が大切にされているのではないか。犬、猫、うさぎ、リス、ハムスターなど。食すのに向かないから大切にするのか。犬やウサギは国によっては食すらしいが。