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同窓会

「同窓会、なんで来なかったの?」


 久しぶりに、アラームとゲーム以外で触った携帯に、SNSのDMが届いていた。


誰だよ、こいつ?、と眉根を寄せて思い返すが、それらしい答えは思いつかない。なにしろ、相手の名前欄にはイニシャルだけが記載されている上に、アカウント自体にもこれといって僕に繋がるものはないのだ。


ただ、アイコンに映る後ろ姿の女性と美しい山を見て、女だろうとは思った。でも、同窓会があったなんて初耳だ。それに、僕にわざわざDMしてくる女子なんて、だいたいスパムしかいない。


そう決めつけてスルーしようとした瞬間、また通知が鳴った。「私だよ。中学の時に同じクラスだった伊藤未来だよ。」


 その名前にハッとした。中学時代、住谷総一郎を筆頭とした、男子グループにいじめられて居場所がなかった僕。受験前の放課後、伊藤さんのグループと一緒に勉強したことを思い出す。彼女はいつも優しくて、僕がからかわれている時もそっと席を譲ってくれた。たまに交わす雑談が、息苦しい日々の唯一の救いだった。


「今知った」と短く返すと、「あの時、君浮いてたからね」と返ってきた。そんなこと言われても困るよ。「今、あのグループで飲んでるんだけど、一緒に飲まない?」


 全く魅力的じゃない誘いだった。アルバイトを22社連続で落ちている僕には、そんな集まりに顔を出す気力もない。「奢るからさ。」「行きます。」反射的に打ち込んでいた。


大学を病気で中退し、アルバイトすらできない僕にとって、タダで酒が飲めるのは正直魅力的だった。急いで身支度を済ませ、指定されたバーに向かった。


 「ここか?」SNSに示されたバーに着いた。入口に立つガタイのいい男に一瞬目が合ったが、気にせず中に入る。あのグループが騒ぐような雰囲気はない。そう思っていると、中から名前を呼ばれた。


伊藤さんだった。10年ぶりなのに、彼女の顔にはあの頃の柔らかい笑顔が残っている。


「伊藤さん一人?」


 彼女は少し目を伏せて、バツが悪そうに言った。


「実は全部嘘なの。同窓会があったのも、みんなで飲んでるっていうのも。」


「じゃあ、なんで呼んだの?」




 その瞬間、彼女の笑顔が消えた。


「なんで?よくそんなこと言えるよね。」


「い、伊藤さん?」


「あんたこの前、痴漢してたよね。それ、私の妹なんだけど。」


 確かに憂さ晴らしで痴漢をした。でもこの辺りじゃないし、知り合いではないはずだ。


「あの子ね。されるがままだったけど、あんたが降りる時にあんたの写真を頑張って撮ったのよ。確認した時驚いたわ。」


 頭が真っ白になった。心臓がバクバクして、冷や汗が背中を伝う。逃げなきゃ。出口へ走る。だが、さっきのガタイのいい男に阻まれた。


「お前、なんで逃げようとしてんの?」


 腕をつかまれ、振りほどこうともがく。「申し訳ございません。許してください。」何度も何度も繰り返した。


「じゃあ、あんたは痴漢したって認めるんだね?」


 土下座して、床に額を擦りつける。「申し訳ございません。」


「認めるの?どうなの?」


「認めます。申し訳ございませんでした。」


 彼女が男に鋭く言った。


「総一郎君。撮れたよ。今から警察呼んで。」


「分かった。」


 その先は覚えていない。親が示談をしてくれたおかげで不起訴になった。でも、あの時の彼女の目が頭から離れない。鏡に映る自分が、誰だか分からない。これから、どうやって生きればいいんだろう。



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