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 ガタンガタンと電車は進んでいく、美咲を日常に戻すかのように。

 (あ…連絡返してなかったな…)

 帰りの電車はまだ明るい時間帯な事もあり、座ることができた美咲はスマホを見て母と友人の真希に連絡を返していない事に気がつき返信内容を考えた。

 (真希には…まあ…何かあったわけじゃないいから大丈夫だよっと…)

 友人に対しては詳しく書いても困らせるだろうと思い、ふわっとした返信をした。

 (お母さんには…怒られるよね…)

 母からの連絡には学校に行っていない事を問いただすものに加え、昼の時には無かった美咲の心配をする連絡も届いていた。

 (心配させているし…とりあえず…今から帰りますっと…)

 美咲が返事を返すと、すぐに母から返信が返ってきた。

 (まっすぐ帰ってきなさいか…)

 美咲は母に心配させたことに罪悪感を覚えつつ目を閉じ、電車が駅に辿り着くのを待った。

 

 プシューと電車のドアが開く

 (もう着いたのか…)

 美咲は電車から降りる。

 構内は帰宅ラッシュ前の人がまばらで、観光地の海瀬とは違う、美咲にとっての日常の風景が広がっていた。

 (いつも見る、駅の構内…帰ってきたんだな…)

 美咲はホームの階段を上がり、改札に向かう。

 (朝はあんなに慌ただしかったのに…もう…前のことみたい…)

 美咲は朝の事を思い出す。海瀬に行くのかを迷い、急いで階段を上がったことを、ズル休みすることに不安やドキドキが混ざった複雑な気持ちになっていたことを懐かしむように思い出す。

 (あれだけ不安もあったのに…お母さんと真希に心配をかけたのは悪かったけど…学校を休んで海瀬に行ったことには…後悔はなかったな…)

 海瀬で得た体験は、美咲にとって自分の気持ちを知ることになった、かけがえのない体験になったのだ。

 美咲は下校する時のように、普段通り改札口を出た。

 (水族館のポスターか…)

 美咲は今日のすべての始まりになった水族館のポスターをちらりと見て、通り過ぎる。

 いつも通りの日常に美咲は戻っていくのだ。


 「ただいま…」

 美咲は恐る恐る玄関のドアを開けると、心配そうにソワソワした母親が玄関で待っていた。

 「おかえり、美咲…学校行かなかったの?何かあったの?」

 母親は自分の事を予想以上に心配している。そう感じた美咲は少し戸惑いながら、今回の事は誤魔化さず話すと決めた。

 「大丈夫だよ、学校で何かあった訳じゃないから、いろいろ話したいんだけど…いい?」

 美咲と母親はリビングのテーブルにつき、美咲は今日の話を始めた。


 「ええと…今日は学校を休んで海瀬水族館に行っていました…」

 「学校を休んでまで…?本当に?」

 「本当です…電車に乗り遅れて…遅刻確定だなと思ったから…出来心で海瀬まで行ってしまいました…ごめんなさい…」

 心配している母親に美咲は申し訳なさそうに謝ると、母親は一息吐いて、美咲の目をまっすぐ見て話し始めた。

 「美咲…学校を無断で休むことは悪いことだと思っているから、私に連絡をしなかったんだよね?」

 「はい…」

 「そう思っているなら、学校で先生に怒られてきなさい!」

 「はい…」

 「じゃあ、私からは1つ…」

 母は少し瞳に涙を浮かべながら、うつむいてしまっていた美咲に伝えた。

 「子供が急にいなくなったら、親は心配するんだから連絡はしなさい!」

 「はい…でも、もう高校生だし…心配しすぎなくても…」

 「親は子供が大きくなっても心配するものなの!いい?これからは絶対に連絡して!」

 美咲は心配する母親の言葉に、水族館でみた親子づれや過去の自分のことを思い出していた。

 (ああ…私も成長して変わったことが多いと思っていたけど…お母さんの私に対する気持ちは変わっていないんだな…)

 美咲も少し涙ぐみながら母親に言った。

 「うん…お母さん…次からは、何かがあったら連絡するね…ありがとう…」

 それから夕食の時間まで美咲は母親に海瀬での出来事を話した


 「それでさ~小さい頃に水族館の大きな水槽にはしゃいで、お母さんに怒られたじゃん?」

 「凄い騒ぐんだもの…そりゃ怒るわよ…」

 時刻は18時手前、もうそろそろ夕食にしても良い時間だ。

 「もうそろそろ夕食にしましょうか、カレーでもいい?」

 「いいけど…ちょっと早くない?お父さんも帰ってきてないし…」

 「お父さんは仕事で遅くなるって…お父さんはちゃんと連絡してくれたわよ?」

 意地悪な顔をした母に美咲は顔を背ける。

 「ごめんて…もうさ!カレー食べよ!」

 「はいはい…」

 美咲は話を誤魔化すように夕食を求め、母親は仕方なさそうに、しかし少し楽しそうに夕食の準備をした。

 「それじゃ、いただきます。」

 「いただきます!」

 二人はテレビを見ながらカレーを食べる。

 「あっ海瀬だ…」

 テレビに映る番組は海瀬周辺をピックアップした観光地特集だった。

 「この駅前通り、今日も混んでたよ~」

 「懐かしいわね~美咲が早く水族館に行きたいって騒いじゃって…」

 「そうだっけ…?そこそこ覚えている店があったから、ゆっくり観光したと思ってた…」

 「そりゃ…私とお父さんが串買ったりしていたもの。」

 「ええ…水族館先に連れて行ってあげてよ~」

 「美咲だって美味しそうに食べていたんだし良いじゃない!」

 二人はテレビ番組に思い出を重ねながら、楽しく夕食を楽しんだ。

 「ごちそうさまでした。」

 「お粗末さまでした。それじゃ、お風呂いれておくから、お湯がたまったら入っちゃって。」

 「はーい!」


 美咲はお風呂にお湯がたまるまでの間、ソファに寝ころびながらスマホを見ていたら、真希から連絡が届いた。

 『大丈夫なら良いけどさ、明日は来なよ~後藤先生も心配してたよ!』

 (後藤先生…いつもは怒っているイメージがあるけど…意外だな…)

 美咲は自分が思っていた反応と違う、後藤先生の反応に驚きつつ、真希への返信の内容を考えた。

 (もうすぐお風呂に入るし、簡単なのでいいかな…)

 「明日は行くから大丈夫だよっと」

 美咲は真希への連絡を返すと呆れた顔をした母親に声をかけられた。

 「美咲…ご飯を食べた後は横にならないの!牛になるわよ~」

 「横になるくらいいいじゃん!それに人は牛にはなりません~」

 「はあ…もういいわ…お風呂入れるから入っちゃいなさい!」

 「は~い!」

 美咲は母親と軽い言い合いをした後お風呂場に向かった。


 湯気が漂うお風呂場で体を洗った美咲は湯船に浸かった。

 「今日は疲れたな~水族館って意外と歩くんだな~」

 美咲は体をいたわるかのように、顔以外を湯船に沈め、目を瞑った。

 (今日は本当にいろいろあったな…懐かしい場所に行って…感情がごちゃごちゃになって…皆口さんに相談に乗ってもらって…)

 今日の出来事が美咲の頭の中でぐるぐる巡る。

 (いろいろあったけど…でも…大水槽が凄かったな…)

 美咲は思い出していた。

 大水槽に広がっていた、様々な魚が泳ぐ海の中を思い起こさせる景色を。

 (本当に海の中は大水槽みたいなのかな…)

 美咲は大水槽の思い出を通して海に広がる世界を想像した。

 自分を受け入れてくれると思った海に広がっているであろう世界を。

 「はあ…のぼせそうだし…お風呂出よ…」

 美咲は湯船を出て、軽くシャワーを浴びてからお風呂場を後にした。


 お風呂を出て、歯を磨き、パジャマに着替えた美咲はベッドの上で寝ころびながら、スマホを見ていた。

 「海の動画…このカメの動画とかよさそう…」

 美咲は海を優雅に泳ぐウミガメの動画を見ていた。

 (こんなに広い世界をスイスイと…いいな…)

 ウミガメの姿に、美咲は憧憬のようなものを抱いた。

 (私も行動を起こせば、いろんな景色を見れるのかな…)

 「色んな景色を見れば…自分の変化も…受け止められるのかな…」

 思わず気持ちが、美咲の口から出た。

 「怖いはずなのに…変わりたいか…」

 美咲は海瀬での変化に怖さを感じていたはずだ、でも、同時に新しい気持ちも知って楽しんでいた。

 「過去の積み重ねが今なんだ…どこに行ったって変わらない事はあったんだ…」

 もし行動しても自分の中に変わらない事はあるはずだと、美咲は信じ目を閉じた。

 

 翌朝、美咲は目を開きスマホを見た。

 「今日は…遅刻じゃないね…」

 目を擦りながら眠そうに美咲は台所に向かう。

 「お母さん…おはよ~」

 「おはよう、今日は遅刻しなかったわね、顔を洗ってきなさい!」

 「は~い」

 美咲は顔を洗って、目を覚まし、朝食を食べた。

 「今日はご飯にソーセージに目玉焼きに味噌汁…昨日より多くない?」

 「昨日は美咲が寝坊したからでしょ!」

 美咲は母親と軽い言い合いをしながら朝食を食べ終え、歯を磨き、制服に着替えた。

 「さて、今日はもう学校に行こうかな!」

 「今日は、ちゃんと学校に行ってよ!」

 「休まないって!じゃあ行ってきます!」

 「ふふ、行ってらっしゃい!」

 微かにほほ笑む母に見送られながら美咲は学校に向かった。


 今日は走らず、美咲は駅に向かう。

 (いつもは気にしてなかったけど…きっとこの街も変わっていたりするんだろうな…)

 いつもより街を見渡しながら歩いていた美咲は駅に着く。

 (今日は時間も大丈夫…)

 駅では美咲と同じ制服を着ている人達が改札に向かっていた、そんな人達と同じように美咲も改札に向かい、駅に向かう電車が来るホームに向かった。

 (昨日は反対のホームにいたんだよね…)

 美咲は反対のホームに昨日の自分を思い出していた。

 (昨日は不安にドキドキに凄かったな…)

 非日常ともいえる特別な昨日を思い出していると電車が到着した。

 美咲は電車に乗り、電車内を見渡した。

 (同じ制服の人が多いな…)

 美咲は電車内の様子を見て、日常に戻ったのだと感じた。


 電車が学校の最寄り駅に着き、美咲は電車を降りる。

 同じ制服を着ている人達と同じように改札を出て、学校に向かった。

 「学校に着いちゃったな…」

 小さく呟いた美咲は先生にバレないよう、職員室に近づかないようにしながら教室に向かった。

 「おっ!美咲おはよ~!」

 「真希…おはよ。」

 教室に着くなり、美咲は真希から話しかけられた。

 美咲が席に着くと、真希が興味津々な表情で休んだ時のことを話題に出した

 「ねえ、美咲~昨日はどうしたの?」

 「ちょっと…海瀬の水族館まで行ってきちゃった…」

 「うそ!ホントに!?学校を休んで観光地なんて…もしかして彼氏?」

 「違うから!」

 真希が美咲に彼氏と遊びに行ったのかと、からかうように聞いた。

 すると彼氏がいない美咲は驚いて、大きな声で否定した。

 「本当に…違うから…彼氏とかいないし…」

 「ごめんごめん!で、実際はなんで行ったの?」

 「出来心というか…遅刻確定だったから休んじゃた…みたいな?」

 理由を聞いた真希は驚いた。

 普段は問題を起こさない美咲が、出来心という理由で休むと思っていなかったのだ。

 「おお…美咲も悪だね~じゃあバッグにつけてるキーホルダーは昨日の?前までつけてなかったでしょ?」

 そう真希に言われ、美咲はバッグにつけたカメのキーホルダーを見て思い出す。

 (カメの水槽で思ったんじゃん…自分で行動しなきゃ変わらないんだって…)

 「うん…昨日買ったやつなんだ…ねえ…真希ってバイトやっていたよね?」

 「やってるけど…なんかあった?」

 美咲は一息つき、覚悟を決めて、真希に聞いた。

 「バイト始めようかと思ってさ…相談に乗ってくれない?」

 「いいよ!なんか欲しい物でもできた?」

 「欲しい物…じゃなくて行きたい場所…見たいものがある…みたいな?」

 そう美咲が言うとキンコンカンと学校のチャイムが鳴り、担任の後藤先生が教室に入ってきた。

 「チャイムが鳴ったから座れ~」

 後藤先生の言葉に美咲と真希を始めとした、クラス内の生徒は席に着く。

 朝のホームルームが始まり、後藤先生が連絡事項を話している間、真面目に聞く生徒、退屈そうに話を聞き流している生徒がいる中、美咲は何を言われるかドキドキしながら話を聞いていた。

 (昨日のこと何か言われるかな…このまま何事もなかったかのように流されないかな…)

 今日の連絡事項が終わり、ホームルームが何事もなく終わりそうで、美咲がホッとした時に後藤先生が最後に言った。

 「今日の連絡は以上だが…田中は授業が始まる前に職員室に来なさい!」

 後藤先生はそう美咲に言うと教室から出て行った。

 「はあ…こうなるよね…」

 「まあ、なんも連絡してないもんね~心配させたんだから怒られてきな~」

 落ち込む美咲に真希が事実を突きつける。

 「うう…じゃあ行ってくるよ…さっきのバイトの話だけど…」

 「わかってるって!後で相談に乗るよ!」

 「ありがとう!」

 美咲は教室を出て職員室に向かう、そして叱られたら、いつもの日常に戻るのだろう。

 だが、美咲は少しずつだが行動し変わり始めた、これからも様々な世界を見て、退屈だと思っていた日常を変えていくのであろう。



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