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 美咲は少し憂鬱な気持ちを抱えながら次のエリアに向けて歩いていた。

 (サメから逃げて…ここは変わってなかったか…いやトラフザメみたいに可愛いサメもいるって気づくくらいは見れたんだし、成長しているはず…!)

 サメから逃げてしまった自分にちょっとした情けなさを感じつつ自問自答しつつ歩いた美咲は飲食ブースに辿り着いた。

 (そうだ…サメの後は飲食ブース…そこを抜けたらイルカショーの場所だっけ…あっ時間…!)

 美咲は急いで時間を確認するためにスマホを見ると、そこには11時50分を表示した時計と母と友人からの通知が表示されていた。

 (お母さんと真希からだ…どうしよ)

 美咲の頭の中は11時30分から開始だったイルカショーの事は頭から抜け、どう連絡を返そうかという事で頭が一杯になっていた。

 (いや…一旦お昼を食べよう、そうしよう)

 美咲は現実逃避に近い形で飲食ブース内の飲食物を見渡す。

 (カメの形のメロンパン、魚のフライを挟んだパン、イルカ型のクッキー、カップに入った青いゼリー、ソフトクリーム…他にも色々あるけど、イルカショーを見ながら食べるための商品が多いのかな?)

 飲食コーナーには食事をとるためのテーブル席があるが、現在はイルカショーを見に行っているお客さんが多く、席に空きがあった。

 (席取りしなくても今は大丈夫そうだな…とりあえず売店に行こう…)

 美咲は売店に向かい、難しい顔をして考える。

 (せっかくだから…いろいろ食べたいけどお金がな~でも水族館!みたいな食べ物食べたいし…そうだ、値段も安めで可愛いし…よし、カメのメロンパンを買おう。)

 「すみません、カメのメロンパン1つお願いします。」

 「はい!海瀬のカメロンパンを、1つですね!」

 (あ…一応商品名言ったほうが、よかったかな…)

 美咲は、もやっとしながら頼んだカメ型のメロンパンの代金を用意しつつ、店員を待つ。

 「お待たせいたしました!400円になります!」

 店員のその言葉に、美咲はトレーに100円玉4枚を置き、透明な袋に入ったカメ型のメロンパンを受け取る。

 「ありがとうございます。」

 「ありがとうございました!」

 店員にお礼を言い、美咲はテーブル席に向かうが買い忘れた物に気づいた。

 (飲み物買ってない…自動販売機で買うか…)

 憂鬱気に美咲は自動販売機に向かい、飲み物を見る。

 (うっ…観光地価格…ちょっと安い水を買うか…それとも高い値段を払うんだしジュース買っちゃうか…)

 美咲は自動販売機の前で、どれを買うか悩んでいた。

 すると、ある女性から美咲は話しかけられた。

 「あれ?今朝悩んでいた高校生じゃん!」

 「あなたは…ええと…」

 美咲は見知らぬ女性から突然声を掛けられ困ってしまう。

 「ああ、わからないよね!ほら!今朝チケット窓口であなたのチケットの対応をした…」

 「あ!窓口のお姉さん!あの時はありがとうございました!」

 窓口のお姉さんと気がついた美咲は、平日の昼間に学生服を着た自分にチケットを売ってくれたことへの感謝を伝えた。

 「いいって!それに、ここまで来ているってことは注意されたりしなかったんでしょ?私が気にしすぎてたね…」

 「確かに…何か言われたりとかは無かったですけど…でも!私の為に止めずにチケット売ってくれたじゃないですか!私はそれが嬉しかったので!」

 「そっか…それじゃあ、どういたしまして!いい気分だし~学生さん!飲み物おごってあげる!どれがいい?」

 「えっ!悪いですよ…」

 「いいって!いいって!コーラ?紅茶?」

 「ええっと…」

 美咲は窓口のお姉さんにお礼を伝えると、飲み物をご馳走してもらうことになった。

 しかし、今日あったばかりの人にご馳走になるのは悪いと思った美咲は困ってしまっていた。

 「う~ん、じゃあ先に私が買っちゃうね。」

 そう言うと、お姉さんはペットボトルの温かいお茶を購入した。

 「私も同じお茶でお願いします…」

 「了解、お茶ね!」

 美咲は迷った結果、同じ飲み物を頼めば失礼ではないと考え、窓口のお姉さんと同じお茶をお願いした。

 「はい、それじゃあテーブル席に行こうか!あっ学生さん一緒に食べても良い?」

 「良いですけど…お姉さんは飲食ブースで食べても、大丈夫なんですか…?水族館の職員ですよね…?」

 美咲の疑問に対して、窓口のお姉さんは、テーブル席に向かいながら教えてくれた。

 「大丈夫ではないかもな~でも学生さんとちょっと話たかったし!後、お姉さん呼びのままだと寂しいし、皆口って呼んでいいよ!」

 「じゃあ私は田中で…ってやっぱり危ないんですか!?」

 「田中ちゃんだと同僚にいるしな~下の名前は?」

 「美咲…ですけど…」

 「それじゃ美咲ちゃん!どのテーブルが良い?やっぱり海が見えるのがいいよね!」

 窓口のお姉さん改め、皆口は美咲の心配をよそにテーブル席を選び始め、海沿いの席に座った。

 「そうですね…それで皆口さん、聞きたい事っていったい…なんですか?」

 「美咲ちゃんさ…最初見た時は暗い顔していたから大丈夫かなって…今はだいぶマシになったみたいだけど。」

 美咲は皆口が自分の事を、そこまで心配してくれていたのかと思い、話を続けることにした。

 (皆口さん…窓口の時から心配してくれていたもんね…少し信用しても良いかも…)

 「普段はこんな事しないんですけど…高校ズル休みしちゃって…罪悪感が…」

 「おお…思い切ったね…でも理由はあるんでしょ?」

 「理由ですか…」

 「そう理由!ズル休みに罪悪感を感じるような、真面目な子なら何かしらあるでしょ?」

 皆口が言った、真面目な子という評価に美咲は動揺してしまう。

 「真面目なんかじゃないですよ…ズル休みしちゃいましたし、学校だって先生に怒られない程度に最低限やっているだけで…」

 「先生から怒られていないなら良いと思うけどな~でも、それが嫌だったの?」

 皆口は動揺した美咲の反応を見て、きっと悩みは美咲の性格からくるものじゃないか?と思った。

 「嫌…とは違います…でも、私って何なんだろうって…言われたことは守れても、それだけで…バイトも部活もやらずに…」

 「なるほどね~その悩み…青春だよ!それで、水族館に来て気持ち軽くなった?」

 皆口は美咲の悩みに若さを感じた皆口は、うんうんと頷きながら美咲に今の気持ちを聞いた。

 「え…水族館で…ですか?」

 「そうそう!ズル休みしてまで水族館に来たんだから大切な場所なのかなって!」

 「いえ…駅のポスターを見て、来てしまっただけなので…でも、久々の水族館は色々違って

見えましたね…」

 「久々か~美咲ちゃんくらいの年齢だと見方は変わっているよね~それで、楽しかった?」

 「楽しかったですけど…寂しさも感じましたね…」

 美咲は見方が変わることで楽しめた部分があるが、子供たちを見て懐かしさに近い寂しさを感じたことを皆口に伝えた。

 「寂しい…?」

 「はい…当たり前だとはわかっているんですけど…知っているはずの展示でも、こんなに感じ方が違うのかなって…」

 「そっか、美咲ちゃんはここにきて、自分の成長に気が付いちゃったか~人ってさ、自分じゃ気づかなくても結構変わるものだよ?」

 「そう…ですよね…」

 「でもさ、色んな過去を積み重ねての今なんだし振り返ったっていいんじゃない?」

 「………」

 皆口は、黙ってしまった美咲の落ち込んだ気持ちの正体を察して伝えた。

 「美咲ちゃんはさ…変わることが怖いのかもね?」

 「変わることが…」

 「昔と今の気持ちを比べているからさ…それに成長に気が付いたら落ち込んでたし…」

 美咲は考える、確かに楽しい気持ちを感じた後に、過去の気持ちを思い出すことが多かった。

 (そうかもしれない…私は…変わることが怖いのかな…)

 「まあ、でも楽しいとも思えたんでしょ!なら、そのうち乗り越えられる悩みだよ!」

 そう皆口が言うと飲食ブースの奥ガヤガヤと騒がしくなってきた。

 「あっイルカショーが終わったのかな?それじゃ私は行くから!美咲ちゃん!悩むのも青春だから頑張ってね!」

 「あっありがとうございました!」

 美咲は職場に戻る皆口に立ってお礼を伝え、見送ってから再び椅子に座った。

 (はあ…変わるのが怖いかも…か…)

 「頭が痛くなってきた…お昼ご飯食べよ…」

 美咲は一旦、昼食を摂ろうとカメ型のメロンパンを手に取り、袋を開けた。

 「可愛いパンだし写真撮っておこ…スマホっと…あっ」

 美咲が写真を撮るためにスマホを触ると、画面には友人の真希と母からの連絡通知が表示されていた。

 (どうしよ…正直に遅刻しそうだから水族館に行ったって言うのもな…)

 美咲は言い訳を考えて頭を悩ませる。

 (なんて誤魔化そう…水族館に来て、日常から飛び出して…変化に気づいて…)

 日常を飛び出して、美咲はそう自分で思ったことで気がついた。

 「そっか…私、変化を求めていたんだ…」

 変化は怖い、でも自分は変化を求めていたんだと美咲は自身の気持ちに気がついたのだ。

 (そうだよ…同じ日常に退屈していたじゃん…でも部活もバイトも始められなかったのは…)

 「変化が…怖かったのかな…」

 美咲は小さく呟き、メロンパンを食べた。

 「あっ写真…撮ってない…」


 (パン食べちゃったし、昼時に居座るのは悪いよね…)

 昼食を摂った美咲は迷惑にならないようテーブル席を立った。

 (イルカはショーが終わった所だし…時間がな…ウミガメ見に行こ…)

 美咲は飲食ブースを出て、イルカショーの場所の先にあるウミガメの展示エリアに向かった。

 「おお、ウミガメだ…」

 美咲の目の前の水槽には、優雅に泳ぐウミガメ姿があった。

 (パンも可愛かったけど、本物も可愛いな…)

 美咲は昼食に摂ったメロンパンのことを思い出しつつ、ウミガメに夢中になっていた。

 (このウミガメはなんて種類なんだろ…)

 ウミガメの展示説明を確認すると、美咲はウミガメの成長記録も展示されていることに気がついた。

 (このウミガメたち…ここで育てられた子たちなんだ…)

 「君達…大きくなっちゃって…」

 小さく呟く美咲の言葉に、ウミガメは返事をしてくれない。

 (まあ…言葉は通じないものね…でもこの子達は水族館で大きくなって、ここで泳いでいるんだよね…)

 美咲はウミガメの成長記録を見たことで、自分とウミガメを重ね始めていた。

 (この子たちも…私と同じで…変わらない日々を過ごしているんだよね…)

 「どう?楽しい?」

 返事は無いとわかっていても、美咲はウミガメに話しかけてしまう。

 「はぁ…」

 美咲は小さくため息をつき、ウミガメの泳ぐ姿を見ながら思った。

 (水槽の中で泳ぐのが…この子たちの日常なんだよね…なら、楽しいより当たり前っていう気持ちなのかな…でも、きっと自然の中でも泳いで食事を摂っているだけなら同じことで…)

 「自分で行動しなきゃ…楽しいことは見つからないよね…」

 美咲は自分ですべきことに気がついた気がして、ウミガメの水槽を後にした。


 (イルカショー…見たいけど、13時30分からか…これ見たら帰る頃には下校時刻に被るかな…)

 「帰るか…」

 美咲はイルカショーの場所に行かず、水族館の出口に向かった。

 (出口って、お土産売り場に繋がっていたんだっけ。)

 お土産売り場には、大きなイルカのぬいぐるみや、海洋生物がモチーフになっているキーホルダーなどの小物、来館記念を思わせるパッケージに入ったお菓子をはじめとしたさまざまな商品が並んでいた。

 (お財布の中身的に厳しいけど何か買いたいな…あっカメのキーホルダーとかいいかも…)

 ウミガメを思いだすキーホルダーを見れば今日の気持ちを思い出せるのではないかと思い、美咲はキーホルダーをレジに持って行った。

 「はい!1点ですね!800円になります!」

 「あっ1000円からお願いします。」

 「はい!200円のお返しです!」

 「はい…ありがとうございます。」

 「ありがとうございました!」

 美咲はレジで会計を済ませて商品を受け取り、お土産屋を後にする。

 外はまだ14時前、水族館の周りはお客さんで賑わっていた。

 (午後だし人が増えてきたな…)

 美咲は水族館に向かう人の流れに逆らい、駅に向かうために海沿いに出た。

 (海だ…この海の中には水族館で見た光景みたいな世界が広がっているのかな。)

 美咲は来た時とは違う感情、海に広がる世界に憧憬を抱いていた。

 (いや…きっと水族館でみた以上の景色が広がっているんだ…そんな大きな海なら…どんな私でも受け止めてくれるかな…)

 海なら自分がどんなに変わっても、同じ景色で受け止めてくれる。そんな期待を胸に海を後にした。

 「駅前通り…混んでいるよね…」

 観光客でごった返す駅前通りを通りながら美咲は思う。

 (朝は開いていなかったから気がつかなかったけど…新しいお店が増えているな…でも昔も見た気がするお店も賑わってるな…)

 新しい店舗の中に老店が賑わっている光景を見て美咲は思った。

 (まるで私のサメ水槽みたい…変わっても残るものもあるんだよね。)

 美咲は水族館で気がついた自身の感情の変化に、駅前通りを重ねながら歩き、駅に着いた。

 (駅だって、建物は奇麗になって変わった所だってある。でも、ここは私の思い出の場所なんだよね…)

 美咲は気持ちの整理をしながら電車を待った。


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