九話 ブルーム村へ その一
現在、魔塔にて頭を悩ませている一人の男がいた。そう、僕ことレン・ユーリスだ。何故かというと、あの日チユの髪を染める魔導具を使った数日後、「ドライヤー」なるものを作ってほしいとお願いされたのだ。一度は断ったが、
「だって!ここの人達ってタオルで乾かすじゃん?タオルドライって時間の無駄やって!個人の感想やけど!もう無理だね、ドライヤーってマジで神やったんやね、てことで、お願い、作ってください‼︎」
それに……、と話を続ける。
「髪の毛、チリチリになるんよ!!」
と、もの凄い勢いでお願いされた。
「あ、うん。」
としか言えず、仕方なく作ることにした。といっても実は、そんなものができると楽だなと思ってしまったというのもある。
だが、ここで一つ問題が起こった。チユからどんなものかを聞き、いざ作るぞ!という時、ドライヤーを作る為に必要な魔導石がなかったのだ。そうして冒頭に戻る。僕は頭を悩ませているのだった。
「どうしたものか……。」
結局僕は、意を決してチユに報告をすることにした。作れない、と。いつもの様にチユの部屋に入りその報告をすると、この世の終わりのようなとてもじゃないけど人様に見せられない様な顔をしている。
「そんな……。」
「この魔導石は近場だとブルーメ村にあるんだけど、多分今は取れないんだ。」
「えぇー!なん……。」
なんで、とチユが言いかけた時、コンコンと、ドアのノックの音が聞こえる。メイドだ。
「申し訳ありません。今時間よろしいでしょうか?国王様が急ぎお呼びです。」
この知らせによりこの話は一旦切られてしまったのだった。
こうして、僕とチユが国王様の元へ着くと僕たち以外に騎士、そしてキーラやニコ先輩ことエディー先輩、魔塔の現在トップのハインリヒの三人が集まっている。各自の様子を伺うとどうやら僕とチユ以外は事情を知っている様だ。
「よく来てくれたなレンよ、チユ様は召喚時以来ですね。」
「そう……ですね。」
流石にチユも緊張感している様だ。部屋に入ってから、いや入る前からガチガチだったからな。
「お久しぶりです、国王様。それで、お話というのは?」
そう聞くと国王は先ほどまで和かだったのが、真剣な表情に変わった。
「二日後、急で悪いのだが浄化に行ってほしいと考えている。」
と、国王が言う。なるほど、浄化か。聖女様がここに来て少し経った。そろそろだと思っていたが思ったより急に話が来たな。他の人達は僕たちが来る前に話を聞いていた様だ。まぁ、僕たちが来るのが遅かったというのもあるのだろう。
チユの方をチラッと見るとごくりと唾液を飲み込んで、なんだか決心した様な顔をしていた。
「場所は、どこでしょうか?」
そう僕は質問する。
「ブルーメ村だ。レン、事情は知っているだろう?」
と、国王は僕に話をふる。
「はい、花々が綺麗だと有名な観光名所がある村ですよね。僕も一度行ったことがあります。空が透き通っていて、花々がいろんな色で咲き誇っておりました。ですが、最近は邪気で花々が、枯れてきていると風のうわさで聞いています。」
そう言うと、国王は頷く。
「その噂だが、今ではもう花どころか穀物ももう育たないそうだ。しかも森が近くて魔物の頻発に出現しているそうだ。」
「そんなにひどい状況なんですか……。」
「あぁ、それで、チユ様にとっては初めての浄化の任務なのだが、よろしいかな?」
と、国王はチユに聞く。否定は出来ないだろう。チユも覚悟を決めた様だ。
「私はそのブルーメ村おろか、他の村や街、他国も知りません。ですが、私が聖女として召喚されて困っている人がいるという事実を知ってしまった以上、私は私の出来ることを一生懸命したいと考えております。それが、私が元の世界に帰る方法の一つだと信じて。」
これまでチユは引きこもったり落ち込んだりしていたがきちんと前を向いている。そんなチユを見て僕は最近、チユの希望を叶えたいと思った。例え一時的な護衛魔導士だとしても。
チユは勢い良く話し、一息置いてまた口を開く。
その目は意思をきちんと持ち輝いていた。
「私はブルーメ村に行きます。」
こうして、僕とチユ、魔塔から魔導士三人、その他騎士達の総勢約二十三人で行くことになった。出発は二日後だ。
ブルーム村編スタートです〜!