四十三話 事件の日
「じゃ、レンお休み〜!」
「ああ。また明日な。」
いつものようにチユと別れる。後はメイド兼元王族直々の暗殺部隊に所属していたトトやララ、それから今日担当のドニーに任せる。
僕は薄暗い廊下を歩き自分の部屋へと戻る。それから仕事の資料を少し見てから寝た。
しばらく寝ていると、机の上に置いていたネックレスからチユの声が聞こえ、目が覚める。
「レン!レン!助けて!」
それは、チユからの助けを求める声だった。僕はすぐにチユの元へと向かった。
事件は数分前に遡る。チユは部屋で一人ソファーに腰をかけていた。何をしていたかというと、ネイルである。そろそろ禿げてきたのでそろそろ綺麗にしなきゃということでネイルをしていた。カーテンを開け、月夜の光と、少しのランプのわずかな光を頼りに。髪は月夜のに照らされ、金髪の髪が映えた。
「そろそろビューラーが欲しいな。やっぱりまつ毛は上げたいけんね。」
と、いつもの方言で独り言を喋りながらネイルをするチユ。
一通り塗り終わり、後は乾かすだけ。ネイルを片付けようとした時、窓に黒い人影が見えた。
「……ん?」
チユは不審に思い、ネイルを持ったままその窓に近づく。
「猫?」
今のチユはネイルをし少し眠たくなっている。そう、人影なのに猫と勘違いするくらいには。チユはどんどん窓に近づいていって、少し覗く。
するとそこには二十代後半くらいの男がナイフを持って立っていた。男は、黒い布で顔を覆っており、黒い服そして帽子をかぶっていた。こちらに気づいた男はすぐさまチユに襲いかかった。それと同時にチユはネイルの瓶を落としてしまう。
「うおっ!え?ちょっ、ドニー!だ、誰か!」
と、きゃー!ではなくうおっ!というおっさんのような悲鳴をあげたチユであったが、実のところ怖がっていないわけではなく、その反対で恐怖すぎて冷静になっていた。
「チユ様!」
ドニーが入ってくる。すると、トトと、ララもすたっと軽やかに天井から出てきた。
「うわっ!びびった、天井から?」
恐怖すぎて逆に冷静なチユだが、それでも声と体は震えている。すると、トトとララが口を開く。
「ドニー、この男だけじゃないわ。」
と、ララ。
「他にもいます!その数十数人!今、騎士達が対応しにいってます!ですが取りこぼしたみたいで……。」
と、トト。ドニーも身構える。たった十数人、だが騎士達が取りこぼすという事は相手は相当強い。
すると、窓の外にまた人影が見え、三人がこの部屋に入ってきたのだった。これで合計は四人になる。ドニーとララ、トトが対応する。
チユはつけていたネックレスの存在を思い出す。
「レン!レン!助けて!」
こうして、レンに助けを呼んだのだった。
ちなみに言っておこう、ネイルの色は赤である。そして足の爪も手の爪を乾いていない。
「チユ!」
レンは急いでチユの元へ向かう。着いた頃には一人の男がチユを連れ去ろうとしていたところだった。トトとララは二人の男で苦戦、ドニーも、チユ様を守りながら一人と戦っており、そいつが魔術を使えたため苦戦していた。だが、少し隙があったのだろう。四人目がドニーを不意に攻撃し、チユを連れ去ろうとしていたのだ。
「やめろ!」
レンは氷の魔術で相手と他三人を凍らせたのだった。その声は、アーサーの言っていた、「鉄壁」そのものだった。
「あっさり終わったわね。」
と、ララは汗を拭いながら、チユの元へと向かった。
「チユ様、怪我はありませんか……、って、その血!」
レンはチユの手と足を見る。すると指先が赤い。すると、トトが窓の方へと向かい、
「窓のところ、ガラスが割れた跡があります。赤い血溜まりがっ!もしかしてや指を切りましたか⁉︎」
と、焦った様子で言った。レンもドニーも心配する。レンはチユの手を取り、
「早く手当しないと!」
と、気が動転しているようだ。
「ちょちょ、みんな落ち着いて?これネイル!まだ乾いてなかったの!」
すると、皆シーンと静かになる。
レンはおもむろにチユの手を握る。そして額をつけ、一息吐き、そしてチユの顔の方へ手を伸ばし頬に手を当て、
「良かった……。」
と、一言言った。
チユはどんどん顔が赤くなっていく。
僕は、そんなチユを見てなぜそんなに赤くなっているのかと疑問に思い、そして自分の行動を思い返した。そして僕も顔がどんどん赤くなってきてしまう。僕はなんてことをやってしまったのだろう。チユは好きな人がいるのに、手をとって、頬に手を当てるだなんて。
こうして、事件は起こった。後日、襲った誘拐犯達は、あの日ヒメルが捕まえた男と同じ所属の男達だったそうだ。だが、捕まえられたのだ、レンが凍らせたあの四人だけだった。
「騎士達は何してるんだか。」
「ね、姉様、まぁまぁ。」
と、お怒りなララをトトが和ます。二人の灰色の髪が揺れていた。
「でも、まぁ強かったな。あいつら。」
ドニーがそういうと、ララもトトも頷く。
「でも、レンが来たらすぐでしたよね!」
と、トトがいうと、チユも頷いた。
「すごかった!レン!」
僕はチユに褒められただけで、少しテンションが上がってしまうのだった。
「でもやっぱり流石だな!レンは。」
「ええ、流石、魔導士の中でもトップレベルと言われているだけあるわね。」
と、ララとドニー。すると、チユは驚いた顔をする。
「そうなの?」
すると、三人は頷く。そして、僕自身も初耳なので、
「そうなの?」
と、僕が聞くと、三人はため息をつくばかりだった。




