四話 引きこもる聖女その一
チユ目線になります。
いつも通りの道を歩いているだけだった。高校から帰ってきて、なんとなく古本屋さんに行きたくなったから制服のままだったけどそのまま外へ出た。古本屋さんは最寄駅の近くにあるため踏切を曲がり常夜灯の前を通ろうとした時、私は光に包まれた。
気がつくと私は知らない所にいた。夢……?驚きすぎて言葉が出ない。もしかして最近流行りの転移?なんて疑問がもの凄いスピードで思考が回転する。ふと、黒髪の男の人と目が合った。黒髪の癖のあるマッシュで、目は黒色。なんだか、漫画で出てくる魔導士の様だ。だけど、雰囲気が、私のよく知る……今は会えない彼に似ていた。だからだろうか。それとも夢から覚めてなかったのか、私は叫んだ。
「ねぇねぇ、君‼︎名前は?」
名前も知らない黒髪くんは、キョロキョロとして僕か?と言わんばかりにきょとんとする。
「そうそう君君!あてようか?うーん、レンみたいな名前してそう!」
れん、懐かしい名前だ、久しぶりに言った。私が会いたい人の名前。今この名前を言ったら気持ちが落ち着くのもあるけど、この黒髪くんも同じ名前な気がした。まぁ、ギャルの感?ってやつさ。
「正解、僕の名前はレン・ユーリス。君はこの状況分かってる?」
と言った。まさか本当に当たっているなんて。私は驚いてテンションが上がってしまう。
「マ、マジで⁉︎当たったじゃん‼︎まさか……同じだったとは!」
久しぶりに彼と話ができた気がして涙目になる。すると、レンと名乗った人は困った顔をして、
「…君はいつもこんな感じなのかい?」
と、質問をしてくる。それは、喋り方だろうか?テンションが異様に高いからだろうか?まぁ、でもだって、
「んー?だって私……」
「ギャルだもん‼︎」
そう、叫んだ。自分でもギャルというのはなんだか違う気がしたが……自覚があるのはいいことよね。知らんけど。
ザワザワと周りがうるさい。すると、私から見て正面から声が聞こえる。
「さて、我が名はゼルド・ランネス。ランネス王国の王だ。突然のことでびっくりしているだろう。申し訳ない。事情を説明する前に名前を教えてもらえるかな?」
そうだ、やっとここで今の状況を思い出す。いや、転移なんてしていないと思いたかったのかもしれない。ふと、周りを見る。レンと名乗った人以外にも、銀髪の長髪の人、髭の生えていて顔が怖そうな人、眼鏡をかけた青髪の人、白髪のおじいちゃんが私の周りに立っていた。みんな同じローブの様なものを羽織っている。この人達や、その他の人達が私の名前は何かと言わんばかりの目線でこちらを見る。
「あ、えーと西森千癒です。」
「ニシモリチユ。」
日本の発音が難しいのだろうか?え、でもここの言葉普通に日本語に聞こえるよな。もしかして私の名前が特殊だったりするのかな。でも、王様が名乗った時って海外の名前の名乗り方だったよね。
「あ、……千癒と呼んでください。」
「チユ。」
私はいま混乱している。夢ではなかったのだ。これは、現実だ。
「……えと、つまりは私が聖女でこの国の何か?を浄化する為に私が召喚されたってこと?」
なんとなく働かない頭で要約する。でも、これって……私戻れるの?まだ、会って言いたいことがある人がいるのに。ねぇ、帰れるの?
「か、帰れるの?帰らせて……!」
私は必死に訴える。魔導士やら、国王に。
「すまない、帰れるかどうかは分からない。我が国、いや、この世界のことに巻き込んでしまって申し訳ない。」
そんな……!
「謝られても……。」
謝られたって、もう会えないことは確定しちゃってるやん。私に聖女なんて、絶対無理やし!
ついつい私は泣いてしまった。すると国王も流石にいろいろ話が急過ぎたと感じたのか、私を部屋に案内をさせた。
そこは、昔夢見ていた様な洋館の部屋だった。綺麗な広い部屋。薄緑と白の壁。少し奥に空間がありそこにベッドがあって小さい花柄のカーテンがかかっている。ちなみに窓にも同じカーテンだ。大きな鏡がついている茶色のドレッサー、クローゼット、床は絨毯でふかふかな部分と木の素材。他にも緑の椅子に机、窓を開けると開放的。この空間はとても落ち着く様な空間だった。
窓を開ける。ふと、窓を覗くとでっかい月みたいなものがはっきり見え、星が細々と見える。なんとなくの空気感だが、今は多分朝だろう。でっかい月や星々が見える青空には、空飛ぶ島が見える。あぁ、本当にここは異世界なんだと改めて実感する。開けた窓から爽やかな、パリッとした風が入る。その風が、今の私には億劫になり、思わず閉める。私は帰れないのと、この世界のこと、聖女のこと、色々な感情が押し寄せ、絶望を感じるのだった。
来週、続き投稿します!
少し誤字があったので、書き直しました。「転移したと思いたかったのかもしれない」の部分を「転移なんてしていないと思いたかった」に変えました。