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聖女はギャル!  作者: 如月冬香
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三話 引きこもり聖女

 僕は今、聖女様の部屋の前にいる。一時的な護衛魔導士と任命されて数時間後、今は夕方だ。僕は少しの食べ物を持って聖女様の部屋に訪ねた。少し緊張するな……。僕は深呼吸してからドアをノックする。

「レン•ユーリスと申します。本日より一時的ではありますが、聖女様の護衛に任命されました。」

すると、少し物音が聞こえる。聞こえてはいるのだろう。

「お食事を……とられていないと聞きました。良ければ召し上がってください。」

返事がない。どうすればいいのか、と困惑していると、少しドアが開いた。

「お。」

思わず声が出てしまう。何と声をかけたらいいのか悩んでしまう。すると、バタンっとまたドアを閉められた。

「え。」

またまた声が出てしまう。

「聖女様?」

そう、声をかけるとまた少し開いて、

「ご飯……。」

と手を出してきた。爪が長いな……。それと同時に少し部屋の中が見える。どうやらカーテンが閉まっているようで中が暗い。服も散らばっている。幸い聖女様は服を着ているようだが顔を見せてこない。

「中に、入ってもよろしいですか?」

「え、やだ。」

「ですが、部屋も散らばっているようですし……それに空気の入れ替えをした方がいいかと思いまして。」

すると食べ物が置いてあるトレーをぐいっと聖女様がとってドアを閉めてしまった。

「じ、自分でやるし〜?」

と声が聞こえる。

「ですが、聖女様はまだこの地に来たばかり。片付けなどはしんどいでしょう?」

「め、メイドさんみたいた人たちがやるんじゃない?」

「彼女らを入れなかったのは誰でしょう。」

「ゔっ。」

だとしても、無理に入るのは良くないか。

「僕が嫌だったのなら、他の人に致しましょうか?」

「え、嫌!」

そう、ばんっとドアが開く。金髪に目が黒く大きい瞳をしている。召喚された時より顔の雰囲気が少し違うが、泣いていたと聞いたのでそれのせいなのだろう。目が心なしか赤い。それから、眉毛がない。

 開いたのをいいことに僕は部屋に入る。嫌、と言うくらいなのだから入ってもいいのだろう。と心の中で思いながらカーテンと窓を開け、服を片付け始める。

「え、ちょ。」

と、あたふたしているのでふと聖女様を見ようとすると、ハッとした顔で、

「み、見るなぁぁ!」

と叫び顔を手のひらで覆う。

「メイク、メイクしてない!泣いててぐしゃぐしゃー!あーもう、分かったけん!レン!メイク道具ってどこにあるん⁉︎」

と一気に話し出す。さっきとはえらい違いだな。

「メイク、道具ですか、大体ここら辺にありそうですが……あった。」

「え、え、どれどれ?うん、これだけあったら……。レン!ちょっと向こう向いとって!」

「う、うん?」


 僕は窓を開けて換気をしながら待つ。風急に馴れ馴れしくなったな。あの時の落ち込みっぷりが嘘みたいだ。

「できたー!もう向いていいよ?」

そう言われて振り向くと召喚された時と同じ顔だった。

「まゆげ、ある。」

「あ、当たり前でしょー?書くに決まっとるやんか!にしてもビューラーないからまつ毛全然上がらない……。」

と言われる。書いてたのか……。何だか僕の予想の斜め横に行く人だな。と思っていると、ぐぅぅ〜と音が聞こえる。どうやら聖女様の腹の虫の音のようだ。そういえば持ってきたはいいものの食べてなかったな。

「食べていい?」

と聞かれる。

「いいに決まってるじゃないですか。」

すると、スープを一口食べる。

「!美味しい!」

そう言って笑う。何だか懐かしさを感じる笑顔だな……。


 開けた窓から風が吹く。金髪が風に靡いた。聖女様をふと見ると、聖女様の黒い目がこちらを向いていた。

「レン、って呼んでもいい?てかもう呼んじゃってるけど。」

うん、もう呼んでるね。今更感が凄い。

「いいですよ。聖女様。」

するとむっとした顔になり、

「私のことは千癒って呼んで!聖女様ってなんか息苦しい!」

「ですが……。」

聖女様のことを呼び捨てで呼んでもいいものなのだろうか。

「あとぉー敬語禁止!」

「えぇー……?」

いやいや敬語なしとか無理じゃね?だが、聖女様の期待した目がこちらを見てくる。

「返事は?」

でもいいのですか?と言う言葉は遮られる。

「返事は〜?」

「分かったよ。」

聖女様のお願いを断れるわけがない。

「よし!私、レンとは仲良くなれると思ってるの。」

と笑う。スープにパンをつけながらチユは話す。

「なんでそう思ったんだ?」

「似てるの、同級生に。」

「そう、なんだ。似てることなんてあるんだな。」

「うん。顔とかそっくり!」 

そう、懐かしそうに笑う。

「顔かよ。……あのさ、大丈夫か?急にこの世界に連れてこられても困惑してしまうよな。」

チユは、少し顔を暗くする。やはりしんどいのだろうか。

「最初はさ、どうして自分がって思ってたの。私は地元でもう一度話したい人がいるの。彼に会いたいけど今は会えない、だから待ってた。なのに急に知らない世界に飛ばされて……ふざけるなって思った。でもさ、一日中泣きながら思った、今嘆いても何も現実は変わらない。今出来ることをしようって。きっと彼もそう言うだろうなー、って。でもまだ気持ちの整理はつかないかな。頭では分かってるのにね。」

と苦笑する。会いたい人にもう会えないのかもしれない。そんなの悲しいよな。



 スープとパンを食べ終わったチユは、そういえば、と言った顔で俺を見た。

「どうしたんだ?」

「さっき、一時的な護衛って言ってたけど護衛って基本何するの。」

 僕は、護衛について軽く説明する。

 護衛の主な仕事、それは聖女様を守ることだ。聖女様は国中から注目を浴びる存在。過去の事例でいくと、暗殺まではいかなくとも誘拐騒ぎなどが度々あったようだ。また、危険な場所へ浄化しに行かないといけないため、魔獣から守ることも大事だ。主にパッと対応ができる魔導士が任される。聖女とも相性がいいらしい。

「成程……。じゃぁレンはずっと一緒にいるってこと?」

「いや、流石にずっとは無理だよ。僕はあくまで一時的。本来、護衛は聖女様本人が選ぶものなんだよ。」

「そう、なんだ。いやー、成程ね!ありがとね!教えてくれて‼︎」

「いや、別に大したことは教えてないよ。僕もあまりよく分かってないことが多いんだ。」

「そうなの?この世界の人なのに??」

「うん。あまり覚えていないんだ。」

「……ふぅーん。」

チユはなにかを察してくれたようだ。僕も大袈裟に言うことでもないためこれ以上は言わない。

「ちなみに今からでも護衛は変えられるよ。」

「え、変えなくていいよー!まだ慣れてないからさっ。」

「そうか。なら良いけど。」

この様子を見るにもう大丈夫そうだけど……。

「そろそろ部屋からは出れそう?」

するとチユの顔が歪む。

「まだ、もう少し心の整理ががしたいかな。」

「分かった。じゃ、僕はそろそろお暇させていただくよ。」

言う言いながら僕は立つ。

「え、もう行くん?」

これはそちらの世界の方言なんだろうか。

「うん、これ。」

僕はカバンからある球体を取り出す。この球体を持ってる限り僕はいつでもチユの元へと行くことができる。

「わぁ〜綺麗!」

彼女は、青いような赤いような不思議な色に夢中だ。

「それがあれば僕はすぐに駆けつけることができる。これを持って僕の名前を言うとな。」

「これ、凄いね。」

「ありがとう、これ、僕が作ったんだ。」

「ま、マジで?」

「おうマジだ。」

「すご。」

それと……と、僕は続ける。まだ、僕は謝っていなかった。

「部屋……勝手に入ってごめん。」

「え、……い、今更?ふ、ふひ、ふははは!」

なんだか、謝っただけなのに変な笑い方をされた。なんなんだよ。



 

 あれから四日間、僕はチユの元へ通った。というのもあれからまだ、外には出れていなかったのだ。行っては、この国のことなどを僕が話していた。といっても、国王と王子の名前とか……僕がなんの研究をしているのかなどの、身内ネタが多かったが。だが、僕もこの世界のことはあまり詳しくないもんですぐに話題が尽きた。なので、今はチユの世界の話を聞いている。どうやらチユの国は魔術や魔法などはないが文明は発達しているらしい。

「自動で移動できる乗りもの、板の中で色々なものが見れる……いやこれは同じとはまではいかないが出来なくもなさそう……。」

そう、僕は呟く。

「レンは、魔導石?ってやつの研究をしてるんよね?」

「そうだよ。」

「ふうーん。」


なんて、会話も何度かした。


「師匠って人に魔術のこと教えてもらったんよね。レンもこの世界のことあまり知らないんでしょ?どう思ったの?」

と、突然に聞かれた。チユがこの世界に来て五日目のことだった。

「この経験が、糧になると思った。……本当は嫌だったけどね。でもこの世界を知るには必要だと思ったんだ。だから目の前のことをコツコツとやったよ。」

「この世界を知るには……。目の前のことを、コツコツと。」


そう呟いていたチユの顔がなぜだか印象深かった。

六日後、いつもの様に部屋に行く。この角を曲がると部屋だ。そう思い曲がるとそこにはチユがいた。

「出てみた。凄くない⁉︎」


そう、顔を突き出す。


召喚されてから、六日目ついに、チユは外に出ることができたのだった。

少し書き溜めれたのでちょっとだけ更新頻度高くなる如月冬香です。よろしくお願いします。

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