二十九話 レンのため息
レン目線に戻ります。
「はぁ……。」
そうため息をこぼすのは護衛魔導士を外されてから五日が経ったレン・ユーリスである。その様子をさっきからチラチラと作業をしながら見ているのは魔塔所属研究者であるザクヤである。
「最近、様子が変。どうしたの。」
そうザクヤはレンに聞く。
「え?いや、別になんでもないよ。」
そう、なんでもないのだ。だが、ふとした時にチユは今どうしているか、大丈夫か少し気になってしまうだけである。
「まぁ、僕には関係ないんだよな。」
今度のパーティが終わった後正式に護衛魔導士が決まる為、僕も気が気ではなかった。
この五日間で分かったことがある。僕はチユとのあの短い時間がとても楽しかったんだという事。
なのでできれば次の護衛魔導士は僕でありたいと心のどこかでは思っていた。
「ねぇ、この作業お願いできる?」
と、ザクヤは魔石を取り出す。今は魔石の研究をしている所である。
師匠は魔獣の討伐に駆り出されていた。また心配性な師匠はあれこれ準備して行っていたが、結局あの人は強い為その準備も無駄になるだろう。
「ねぇ。レン。やっぱりレンはあのチユとかいう女のこと……。」
「ザクヤ、チユは聖女だからな。分かってる?」
「そういえばそうだった。忘れてた。」
「しっかりしてくれよ……。でなんの話?」
そう僕がいうと目を逸らして、
「なんでもないわ。」
心なしか少し顔が赤かった気がする。体調が悪いのか?
その時、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。どうやら研究室に誰かが来たみたいだ。
それは、同じ研究所の同期の男だった。だが、同期と言ってもあまり接点がない者だった。どうやら僕に何かお願いがある様だ。
「この荷物を王宮まで持っていって欲しいんだ。俺は今から用事が入ってしまって……。手は空いてるかい?」
その荷物とは、他の部署が研究したものだったりの報告書の束である。
「なら僕が行くよ。」
ちょうど手も空いていたので僕が行くことになった。
王宮で荷物も運び終わり、アーサーのところでも行こうと思ったが丁度不在だった為、僕はそのまま帰ろうとした。その時、僕はあるものが目に入った。
金髪の髪、あの高いそれでいて耳に残るような鈴が転げる様な笑い声。
パッと見るとそれは聖女チユだった。
「チユ……。」
そう声をかけようとした瞬間、今日の護衛魔術師ドニーが目に入った。彼も腕のいい魔術師である。日替わりで変わっていると聞いていたが今日はドニーだったんだな。
「それにしてもなんっすか、あの幽霊ポーズは。」
「なんかそうなったんよ!」
と、僕には分からない話をしている。なんとなくの内容だが、あるお嬢様に話しかけられてその時に幽霊ポーズになってしまったらしい。うん、あまり状況が飲み込めない。
ただ、一つ言えるのは、僕がチユに話しかけるのを躊躇ってしまったことだ。特に躊躇う必要も無いのだが……。何故かこの日、話しかけることはできなかった。
それから数日が経った。
「レン、これ見て。」
と、ザクヤの試作品を見ていると、アーサーが尋ねてきた。ザクヤは一瞬機嫌が悪くなった様な感じがしたが、僕の気のせいだった様だ。
「で?なんだよ、急に。」
「いやー、チユ様のことで話があってね。」
と、いつもの様子で話すアーサー。
「チユのことで?」
「あぁ、僕はねレンにチユの護衛魔導士をやって欲しいと思っているんだよ。チユ様といる時の君、楽しそうだったからね。でも最近、ドニーという魔術師とチユ様が仲が良いそうだ。」
そうして、一呼吸おく。何が言いたいのだろうか。ドニーと仲がいいのは良いことでは無いか?
「このままだと、君じゃなくドニーが護衛魔術師に選ばれてしまうかもしれないよ。良いのかい?」
「何が言いたいんだよ。」
「別に。君が良いのなら別に僕も良いんだけどね。レン、君は護衛魔導士、それとチユ様に対してどう思っているんだい?」
それは、僕にとって触って欲しく無いところである。
最初は、臨時という形だったこの仕事。でも気がつけばとても楽しいものでとても大切なものになっていた。チユといるのが楽しかった。
「……出来れば、チユの隣には僕が居たいと考えている。でもそれを決めるのはチユだよ。」
「……そうか。」
こうしてアーサーは帰って行った。何がしたかったのだろうか。
それからは、バタバタと仕事が入ってしまったり研究をしたりして忙しかった。というのもチユの参加するパーティーの日に僕は討伐の仕事が入ってしまい元々参加予定だったパーティーは、欠席ということになってしまった。
なので、あの日チユを見かけてからというものチユを目撃したり話したりすることはなかった。
パーティーが終わり数日後。護衛魔導士が決まる前の日の夜、チユが居なくなったと魔塔に連絡が来たのだった。




