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第二「ファーストインプレッション」

 漣の国、商街、宿。 

 マスターから言い渡された宿。商街の外れ、海沿いの通りにある宿は、人少なく、静かだった。


「シャーロック・ホームズさんがこちらにいらっしゃると聞いたのですが」


 主人に問えば、マスターが話を通してくれていた通りに、部屋へと案内された。宿の母屋ではなく離れを使っているらしい。離れは木陰に建てられた小さなログハウスだった。妙に波の音が聞こえる。世界から切り離されたような、静かな場所だった。

 そんな感覚に身を任せ、ぼんやりとしていたい気持ちもあったが、好奇心がそれを微かに上回ったようだった。

 ログハウスの扉をノックする。

 ……。

 返答無し。

 もう一度、強めにノックを。

 …………。

 返答無し。

「もしもし」

 声をかけてみた。返答無し。


「え、もしかして外出中かな。主人さんなんにも言ってなかったけど!? え! もしもーし!! もしかして寝てたり!? すみませーー」

「うるさいなあ」

「わあ!?」


 気持ちが盛り上がって言葉が大きく出てきていたが、前触れなく扉が開いた。驚きで悲鳴のような声が出た。


「……きみは?」

「ええと、あなたが光芒の国への同行者を探している……シャーロック・ホームズさん?」


 ……沈黙。

 少しの間、痛いほどの沈黙が場を支配する。不安に思えてきた辺りで。


「いかにも。私がシャーロック・ホームズだよ。きみの名を聞いても?」

「あ、ユーリです」

「ふむ」


 姓を名乗らない部分には触れず、シャーロック・ホームズを名乗る相手は細い指先を頬に当ててなにやら思考中らしい。

 身の丈は僕より少しばかり小さなくらい。ざっくばらんに、それこそ目が見えれば良いとばかりに適当に切り揃えられた黒い前髪。腰よりも長く垂れ流された後ろの髪。顔色が少し悪そうに見えるのは気のせいだろうか。あと、からだが全体的に細っこい。いっそ髪の自重で折れそうだ。

 性差が少なく見える目の前のシャーロック・ホームズというひとは、僕にとって、今この時点でも不思議ないきもの、という印象を持つに足るほどには不思議だった。


「マスターから聞いているよ。まあ、詳しい話は中でしようじゃないか。どうぞ」


 小さく口を動かして言葉をつくり、かのひとは室内に僕を招き入れる。僕も続いて入ることにした。少なくとも、魔鉱石とこのひとについての知識が得られるという好奇心は抑えられるものではなくなっていたのだ。

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