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浪漫主義

(犬という知恵のかたまりはもちろんニャアと鳴く獣でもわかる話)


 写実主義の語る社会的テーマでは、個人の悩みを語れない。そこで、個人的テーマを語る浪漫主義へ。

 テーマ重視・・・写実主義

 表現技術重視・・・擬古典主義。


 これまで、そう説明してきました。

 浪漫主義もテーマ重視です。


 客観的テーマ・・・写実主義

 主観的テーマ・・・浪漫主義


 そんな言い方をすればいいのでしょうか?


 写実主義は、社会のヨコの人間関係から生じる人格を扱う。

 あの人って、ああいう人間だよね。

 こういう人たちがいてね、こんなことが起きるよ、と。


 浪漫主義は、過去と未来を通した個人の歴史を生じる人格を扱う。

 個人の心の中の葛藤ですよ。


 樋口一葉の『にごりえ』とか見ていたら十分だと思います。


 浪漫主義の樋口一葉は『にごりえ』で芸妓さんの出てくる小説を書きます。

 その芸妓さんは、相手の男への恋慕の情と相手の家庭を壊す罪悪感で苦しみます。


 ━━ゑゑどうなりとも勝手になれ、勝手になれ、私には以上考へたとて私の身の行き方は分らぬなれば、分らぬなりに菊の井のお力を通してゆかう、人情しらず義理しらずかそんな事も思ふまい、思ふたとてどうなる物ぞ、こんな身でこんな業体で、こんな宿世で、どうしたからとて人並みでは無いに相違なければ、人並の事を考へて苦労するだけ間違ひであろう━━


 写実主義の三宅花圃も元芸妓さんの出てくる小説を書きます。

 その元芸妓さんは、自分の男を取られたと思ったらダッシュで相手の家に怒鳴り込みに走ります。

 ━━人の男をたらしこんで、イケシャアシャアとしたお嬢さんだ━━

 ━━威張るって? 威張るというのは、金があると思ってしたい放題のことをする奴のことです!━━

 ━━はじめてうかがいました。柄杓とか杓子とかのお姫さんは、人の男を泥棒しても、御法には触れないのですか?━━


 三宅花圃は「こちとら幡随院長兵衛派だ、喧嘩は倍付で買う」という明治生意気娘。

 当時の【誠情】を重視する桂園派の和歌の世界では、短い字数で自分の気持ちを明確に表現できる三宅花圃は、樋口一葉よりも高く評価されました。

 ただ、心理的葛藤とわりと無縁のひとでした。

 目的をスパッと決めて、それを実現するための努力を惜しまない。


 三宅花圃は父親が破産して貧乏書生と恋愛結婚して一時期に没落令嬢になります。


 サムライ気質の夫に代わって古本屋さんを相手に「ちょっと負けろヤ。テメー」と値段交渉し、「鹿鳴館でも評判の当世風ハイカラが世話女房に」とゴシップ誌ネタに。


 なお、没落令嬢になったのは、ほんの二年ぐらいだけです。


 彼女の選んで結婚した貧乏書生は、天下の俊傑、三宅雪嶺で簡単に偉くなります。

 ついでに言えば、三宅花圃は、鹿鳴館の貴婦人・姫君たちから共同でかわいがられる自由猫ポジションだったので、花圃が貧乏になると援助の雨が降り注ぎました。

 何だかんだで、理想の夫婦と実の娘から言われるような家庭生活を送ることになります。


 樋口一葉の場合、ふだん貧乏をしていても、男性作家たちがお客様としてくれば、高い料理を出前でとって景気よく奢りまくります。

 お金がないないと言いながら周囲に見栄を張らずにいられない。

 そういうタイプ。

 ゆえに、樋口一葉の方が人間の心理的葛藤をよく理解できました。

 すぐに「作戦目的は? 具体的計画は?」と走り回る人ではなく「目的をどうやって選べばいいの? 私が選んでいいの?」という心の内側の悩みが多い人なのです。。


 社会で共有できるテーマを描きたいという写実主義は、目的をスパスパ早く決めるひとたちに着目します。

 多数のキャラに、いちいち悩まれてしまうと、話が進みませんからね。


 で、自我同一性(アイデンティティ)について悩むことこそ、浪漫主義です。

 一人称や主人公視点もオススメ。

 古来から「主人公に最初に大きな嘘をつかせれば、読者を引っ張れるよ」というテクニックが存在します。

 主人公を悩ませるのです。


 ・主観的テーマ

 ・個人的問題

 ・自我同一性の危機

 ・一人称や主人公視点

 ・主人公に最初に大きな嘘をつかせる。

 ・決心したことを悩む。


 このあたりの技法が浪漫主義の技法と言えるでしょう。




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