act1 キンセンカ
尊い2人を温かい目で見守って下さい。
〜僕はきっといつか君を忘れてしまう。
でも君を忘れたくない、ずっと一緒に居たい。
そう思ってる。
君もそうであってくれたらいいな〜
僕は白川 透20歳、大学生だ。
恐ろしい程に大人しいと言われる僕だが最近は
よくうるさいと幼なじみの黒瀬に言われる。
「次の授業なんだっけ?」や「今日って課題の提出日だよね?」とか、「僕って本当に出来損ないだ」とか最近は感情の起伏が激しい。
どうしたものか…
「透、どうした昨日は俺にずっと課題の提出日聞いてたと思ったら今日は落ち込んでるじゃねぇか!何だよ最近ずっとらしくねぇな〜この〜」
僕の頭をぐりぐりとしているのが黒瀬 歩
僕の幼なじみであり、初恋の人。
現に今もずっと彼を思い続けている、叶わない恋だとしても。
「やめろって歩〜、僕だって自分でらしくないなとは思ってるんだから」
「なんだお前も気づいてたのか。好きな女にでも振られたか?話聞くぞ?」
黒瀬は少しほくそ笑みながら僕の顔を覗いている。
「そんなんじゃないって、もー。」
僕は少し怒った表情を見せてみる。
「わーったって、悪かったなぁ透ちゃん」
そう言って僕の頭をぽんぽんとする。
胸が苦しい。ドキドキする。
黒瀬に触れられる度、そばに来る度に鼓動の音が聞こえないか心配になる。
「ほら、怒ってねぇで講義始まんぞ」
僕は黒瀬の一言で、筆記用具とノートを出し
講義を受ける準備をした。
講義が終わって、お昼ご飯の時間になり僕は食堂へ、黒瀬は彼女とお昼を食べるそうで教室で別れた。
「っつ…痛たい。」
僕は頭を抑えしゃがみこむ。
最近ずっと頭痛がしている、頭痛薬も効かなくなってきたから明日病院に行く事を決め
ゆっくりと立ち上がった。
その後は午後の講義を受け帰路に着いた。
「ただいま」と僕の声に気付いた母が出迎える。
「お帰りなさい!大学はどうだった?」
「うん、変わりないよ。」と僕が答える。
「そう、それなら良かったわ」笑顔で母が言った。
「そうだ、母さん。明日僕病院に行こうと思うんだ」
「え?どうしたの、どこか具合悪いの?」
母が心配そうな顔をする。
「いや、最近頭痛がずっとしててさちょっと酷いから病院に行こうと思って」
少しおどけながら母に話す。
「そうなのね…心配だわ。病院まで車出そうか?」
おどけてみせたが効果は無し。母さんが僕の肩に両手を置き、覗き込む。
「ありがとう、お願いします。」
僕は母の優しさに甘える事にした。
ーーーーー次の日ーーーーーー
母に病院まで送ってもらい、診察待ちをしている。
待合室には小さい子供が走り回り、その子の親が周りの人達に「すみません、すみません」と
謝りながら子供を注意している。
その時、僕の足元に飛行機のおもちゃが落ちる。
僕はそれを拾いあげて、子供に手渡す。
「はい、どうぞ次は落とさないように気を付けてね」と笑顔を向けると。
「にーちゃん、ありがと!」と飛行機のおもちゃを持って親の元まで走っていった。
「白川さん、3番診察室へどうぞ」ちょうど看護師さんに呼ばれて診察室へ向かう。
コンコンッと2回ノックをしドアを開ける。
「失礼します。宜しくお願いします。」
と軽く挨拶をして、ドアを閉めイスに座る。
「白川 透さんですね、私は熊田です。今日はどういった症状で?」
聞かれた僕は頭痛の事を話した。
「結構強い痛み…そうですね、だるさや、不眠症状だったり少し気分が下がったりとかは無いですか?」と先生が続ける。
「あ、あります。最近結構感情の起伏が激しいといいますか、落ち込んでしまったりとか。」
と言うと先生は眉をひそめた。
「1度脳を検査してみましょう。」と先生に言われるがまま検査をし頭痛薬を出されその日は帰された。
また1週間後に検査結果が出るので来てくれと言われた。
急に先生が険しい顔をして検査を勧めて来たので結果が少し恐かった。
頭痛は前よりは落ち着き、薬を飲みながら1週間待った。すると病院に行く前日に病院から自宅に電話があり、「必ず誰か親御さんと来てください。お話があります。」と言われ
次の日の通院は母と行く事になった。
「白川さん3番診察室へどうぞ」この間の看護師さんに呼ばれる。
コンコンッと2回ノックし診察室へ入る
「白川さん、とお母様ですね。どうぞお座り下さい。」と熊田先生に言われ僕と母はイスに座る。
「先生、それでお話とは…?」と母が待ちきれずに言う。
「息子さんの病気ですが、ただの頭痛ではなく。若年性アルツハイマーという事が分かりました。」
母は状況が理解出来ず、固まっていた。
先生が色々と説明をしてくれて少ししてから理解出来たのか母の肩が震え出した。
僕はただの頭痛だろうなんて思って居たが為に驚いたけど、何が何だかこれからどうなるんだかもわからなかった。
「もちろん薬で進行は遅らせる事は出来ます。ただ今後は周りの皆さんの支えも無いといけません。アルツハイマーへの理解も。お辛いとは思いますが精一杯力になりますのでよろしくお願い致します。」先生が言うが母は何も言わず下を向き、大粒の涙を静かに落としていた。
僕は母の肩を抱き先生に一礼をし
「ありがとうございました。」と言って診察室を出た。
病院を後にし、駐車場に向かい車へ乗り込む。
母は運転席に座り糸が切れたように声を出しながら泣き出した。
「うわあああああぁ…なんで、どうして、透が透が?まだこんなにっ…若くて楽しい未来が待ってるはずなのに…どうして?どうしてよ…」
僕は母が落ち着くまで車の外で待っていた。
少ししてから僕のスマホが鳴る。
画面には黒瀬 歩と出ている。
僕は画面をタップしてスマホを耳に当てる。
「もしもし、透?お前今日大学休んでるだろ。
連絡ぐらいよこせよ、どうしたよ風邪か?」
辛い時の好きな人の声がどれほど頼りになるものか計り知れない。
今すぐにでも黒瀬に打ち明けてしまいたい。
僕はアルツハイマーだと。
でも好きな人に拒絶されてしまったらどうしようという不安が胸いっぱいに広がる。
なんとか絞り出した震えた声で
「大丈夫だよ…ちょっと風邪ひい…てさ、明日は行くから…心配させてごめん…じゃあね」
と話を終わらす。
「おい、本当に大丈夫かよ声どうしたよ?震えて…」ピッ、黒瀬が喋り終える前に電話を切ってしまった。
「そんな事言われたら…我慢してたのに出てきちゃうよ…」必死に我慢してた涙が目から溢れ出す。
落ち着いてから母の車に戻り2人で帰路に着いた。
母は家に着いてからソファに座り手のひらで顔を覆ったままピクリとも動かない。
僕はそんな母に、温かい紅茶を入れ母の目の前に置き自室へと戻った。
ピロンッ、ベットの上に放り投げたスマホから通知音が鳴る。
黒瀬からだった。
~電話の時どうしたよ、体調どうだ?今日の授業のノートは取ってあるから心配すんなよ!
なんかあったら連絡くれよ、お大事にな。~
黒瀬はどこまでもいい男だ。
出会った頃はまだお互い幼稚園生だった。
いつの間にか仲良くなって、いつの間にかに一緒に成長して、いつの間にかに当たり前の様に毎日一緒にいた。
そして、いつの間にかに黒瀬に恋をしていたんだ。
僕がゲイだということ、そして病気になったという事。
彼は聞いたらどう思うだろうか。
これまで通り笑顔で接してくれるだろうか。
会いたい…けど会いたくない。
そんな事を思いながらベッドに倒れ込みいつの間にかに寝てしまっていた。
コンコンコンッノックをした後、母のいつも通りの声が聞こえる。
「透〜朝よ、今日は学校行かないと…だよね?
でも無理しなくて良いから。お母さんもお父さんも透の味方だから。とりあえずご飯食べなさい。」
僕は着替えを済ませて下へ降りる。
「あれ?父さんは?」
「今日は早々出ていったよ、会議の準備があるんだって!顔洗って来なさい、今日の朝ご飯はちょっぴり豪華だよ」
母は少しやつれた顔で無理やり笑ってみせた
恐らく昨日は一晩中泣いて居たのだろう。
目もだいぶ腫れている。
母が作ってくれた朝ごはんを完食し
大学へ向かった。黒瀬に会わないように時間をずらして大学へ行き、講義もギリギリに入り出口から1番近い席に座った。
だけど黒瀬はそれを許さなかった。
「おい、透?どういうつもりだよ、いつも一緒にいるってのに挨拶も無しかよ。」
今僕は廊下の壁に追い詰められている。
逃げ場はない。
「いや、ごめん。まだ風邪が治ってなくてうつしたら大変だからしばらくは放っておいてくれないかな?」
僕が言ってる事は自分勝手極まりないのは十分承知している。
だけど今は黒瀬と話したくない。
「何があった」黒瀬は僕の顔を覗き込みながらそう言った。
「何も無いよ。だからお願い、そこどいてくれないか」
黒瀬はしぶしぶ「わーったよ。好きにしろ」と
どいてくれた。
そのまま僕はトイレに駆け込み気持ちを落ち着かせて講義に戻った。
黒瀬と口を聞かなくなって1週間が過ぎた
黒瀬は「好きにしろ」と言っていたがとうとう
限界が来たようで呼び出された。
「透、何があった。もう今日は何も無いじゃ帰さないよ。」
黒瀬のこんな真剣な表情は初めてだった。
こんな状況で場違いかもしれないが自分の事を心配してくれてる事が嬉しかった。
そんな事を考えながら、必死にこの質問から逃げる策を考えていた。
「風邪をこじらせたんだ、ケホッケホ…ね?」
無理のある咳の演技…バレバレだ。
「んな嘘、一緒に何年も居りゃお見通しなんだよ。」
呆れた素振りをした隙を着いて僕は走り出した
この質問から逃げる為に。
「あっこらお前逃げんなって!!」
ぐいっと黒瀬の強い力で腕を引っ張られバランスを崩しカバンの中身をぶちまけてしまった。
「あっ。すまん流石にやり過ぎたわ。」
少し申し訳なさそうな表情を見せながら僕の
荷物を一緒に拾ってくれる。
「良いよ別に、僕の方こそ避けててごめ…」
「透これなんだ…?」
黒瀬が手に持っていたのは僕の若年性アルツハイマーの診断書だった。
「あっ…返して!」勢いよく僕は診断書を取り返そうとするが黒瀬に阻止されてしまう。
「なんで…なんでこんな大事な事言ってくれなかったんだよ!!俺たち…俺たち友達だろ?」
黒瀬は怒ってる様で少し寂しそうな顔をしていた。
「それは僕のじゃない。」もうバレてるのに
もう隠しようが無いのに咄嗟に嘘が出てしまう。
「もういいよ、嘘付くなよ。」その黒瀬の言葉に僕は涙が止まらなかった。
こんな泣いてる姿、好きな人に見られたくなかった。
泣いている僕に黒瀬は自分で着ていたパーカーを被せてくれた。
黒瀬は、そっと僕のそばに座り泣き止むまで
ずっとそばに寄り添ってくれた。
つづく
最後までお読み頂きありがとうございます。