帰郷
馬車はサンタナ領に到着し、俺達はその地に足をつけた。
「ここがアルマの故郷か」
「早速パパとママに会いに行こう!」
「悪い。俺はちょっと・・・」
はしゃぎ気味の二人に対し、俺は静かに告げた。
そんな俺の意図を汲み取ったエルは、コユキを連れて一足先にダグラスの家へと向かった。
俺は二人の背中を見送り、二人とは別の場所へ足を向ける。
目的地は俺の家。今となっては誰にも使われず、その場に佇んでいるだけのエンブリット家だ。
どんな道より歩き慣れた道を進み続けて数分。
目に入ったのは、変わらない我が家。それを少し離れたところから眺め続ける。何を思うでもなく、ただ眺めた。
どうしてこの場所に来たのか。
心のどこかで、今の鬱々とした感情に変化をもたらしてくれることを期待していたのかもしれない。
だが、そんな期待は儚く消えた。今の俺には郷愁に浸る余裕もない。
エル達と合流しよう。
そう思い、振り返ったそこにはダグラスの姿があった。
「よう」
そんな軽い挨拶と共にその大男は歩み寄ってきた。
「とりあえず、着いて来い」
俺の肩に手を置き、ダグラスは言った。
ダグラスの後を着いていき辿り着いたのは、いつしか狩りに付き合わされた時の場所。
そこにダグラスは勢いよく腰を下ろした。そして隣に座れ、と目線で指示する。俺はダグラスの左隣に座った。
「何かあったのか?」
その言葉に僅かな驚きを覚える。
そんな驚きもすぐさま無くなり、次の瞬間には自分でも驚くほど自然に口が開いた。
「俺は不安なんです・・・。自分のした事が間違いだったんじゃないのか。早とちりだったんじゃないか。なによりやってしまった事の罪悪感が、消えないんです」
何をしてしまったのか、という部分には触れなかった。触れてしまったら押し潰されてしまうと、そう思った。
「なら、生きるしかないな」
ダグラスはそう言った。
「生きる・・・?」
「そうだ。今消えない罪悪感は、きっとこれからも消えない。なら背負って生きていくしかない」
その言葉は残酷で、しかし冷酷では無かった。
「償いですか?」
「違う。みんなそうして生きているからだ」
「ダグラスさんも?」
「ああ。罪悪感も後悔も、死ぬほど経験してきた」
過去を懐かしむような口調でダグラスは言った。
「だからアルマ君も、安心して罪悪感を味わえ。本当に辛かったら、その度に打ち明けろ。その一端くらいは理解してやれる」
一区切りついたかのように、ダグラスは大きく息を吐いた。そして再び口を開いた。
「ま、気持ちもよく知らずに説教したってしょうがないしな。俺から言える事は一つだけだ」
隣に座っていたダグラスは立ち上がり、俺の前に立った。
座ったままの俺はダグラスを見上げる。その先にある青空が眩しく見える。
「エルを連れてきてくれてありがとう」
枯れていた心に一粒の水滴が落ちるかのような、曇り空に一筋の光が差し込むかのような。笑みを佇ませた口から出たのは、そんな言葉。
「罪悪感を背負う・・・」
見上げていた視線を落とし、瞼を閉じる。
俺のした事、目を逸らしていた記憶をゆっくりと脳裏に浮かべる。
その全てが痛々しくも鮮烈で目を背けたくなるけれど、それでもしっかりと刻み込む。
そして暗闇の視界が一瞬青く光った。もう何度目か分からないが、この感覚には慣れない。
感覚が落ち着いた頃に瞼を開き、そして立ち上がる。ダグラスに対し、真っ直ぐに顔を見合わせ、俺は口を開いた。
「ダグラスさん、ただいま」
「おかえり、アルマ君」




