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はたして俺の異世界転生は不幸なのだろうか。  作者: はすろい
六章 帝都ガラニス 
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死霊術師の秘術

 俺は今、馬車に乗っている。

 どこに向かってるんだったか、思い出せない。


 流れる景色は、果てがないと思えるほど続く草原。それは分かるのだが、草原からは色が失われて灰色に見える。草原だけでは無い。視界に入るもの全てが灰色に映る。


「アル!もうすぐサンタナ領だよ!」


 そうだ、サンタナ領に向かってるんだった。

 俺が旅立って約一年、エルからすれば約十年ぶりのサンタナ領だ。

 ダグラスとの約束、エルと一緒に帰ってくるという約束を果たすために、俺達はサンタナ領へ向かっているんだった。

 ついでと言ってはなんだが、コユキも居る。


 しかし何故だ?

 俺は帝都にいたはずだ。それがどうしてサンタナ領へ向かっている?

 思い出せ。俺はここ三ヶ月の間何をしていた。思い出せ。


 雲がかかったかのような記憶が、だんだんと明瞭になっていく。

 色が失われていた視界に、彩りが生まれる。

 そして思い出した。この記憶は思い出してはいけないという事を。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 次第に息が荒くなる。汗も滲んでいる。


「アル!アル大丈夫!?」

「アルマ、落ち着け。深く息を吸え」


 エルとコユキの声が、二人がとても遠くに居るかのように聞こえる。そんな中で聞き取れたコユキの言葉に従って深呼吸する。呼吸を、精神を落ち着かせるために。


 ああ、そうだ。そうだった。


 俺はコルナとカシムの子供を、生後三日の男の子を・・・



 殺したんだった。



* * * * *


 グレイ家に生まれた新たな命は、アノマと名付けられた。

 コルナから聞いたところ、俺とノアの名前を組み合わせたところ、この名前にしたらしい。恐れ多いと言ったのだが、俺とノアの尽力のおかげで平穏が訪れたのだから謙遜するな、と言い返された。


 それからはグレイ家の主役はアノマとなった。

 アノマを一番甘やかしたのはもちろんグレイ夫妻、ではなく俺とノアだった。自分達の名前が由来で名付けられた赤子が可愛く無いわけがない。

 まあ、コユキはアノマに対して敵対心を抱いていたが。コユキとしては自分が甘やかされる機会を取られた思ったのだろう。どこまでも子供な神様だ。


 そうして、三日が経った。


 朝起きて、アノマを可愛がり、朝食を全員で囲み、そして観光へ出た。今回はコユキに加えてノアも同行してくれる。


「どこに行くんですか?」

「銃を見に行きたいと思ってな」

「銃ぅ〜?あんな鉄の筒より妾の方が強いぞ」


 アノマ誕生以降、若干ご機嫌斜めのコユキを撫でた。


 正直、銃を使うより魔法の方が強いのだから現実的に考えれば要らないのだが。

 だがしかし、ロマンがある。買うことはなくても、この手に握ってみたいと思う。


 そんな経緯で、銃が展示されている店に入った。その店から出たのは約三時間後、正午直前の頃だ。

 俺達は店を出たのち、コユキの案内で飲食店へ向かった。昼飯を終えた後、気の赴くまま帝都の街を歩き回った。


 平穏な一日は、やがて夕暮れを迎えた。

 そろそろ帰る頃だと、俺達はグレイ家へと足を向けた。


「にしても、そろそろ帝都を出るかな」

「騎士団に顔を出さなくちゃいけませんしね」

「また王都に行かねばならんのか」


 明日とはいかずとも、明後日あたりには出れるように準備しておくか。


 そんな会話を道中に交わした。

 そして魔道具店と書かれた看板を掲げるグレイ家にたどり着いた。


「ただいま」


 扉を開け、家に入る。

 そして俺の言葉に台所でカシムが答える・・・ことはなかった。いつもなら帰ってくるはずの言葉が無いというのは、少々気味が悪い。


「おーい。カシムー、コルナさーん」

「居ないんですかね?」

「おかしいな。いつもなら夕飯を作ってる時間だろ?」


 いつも、毎日、例外なく。

 それがどうして今日は居ないのだ?


 と、その時。階段を降りてくる一つの足音が聞こえた。


「なんだ、居たなら返事くらいしてく・・・」


 言葉が途切れた。息が止まった。


 降りてきたのは血塗れのアンデッド。

 俺とノアとコユキを死霊術師がいる診療所へ案内したあのアンデッド。

 アンデッドには外傷がない。にも関わらず血塗れだ。それは間違いなく返り血。二人分と言われても不思議はないほどの。


 そしてその腕の中には大事そうに抱かれているアノマ。


「そこをどけ・・・。転生の秘術は成されたのだ・・・・」


 アンデッドは口を開いた。

 転生の秘術、とそう口にした。

 転生したのは死霊術師。その転生先の器は腕の中。


 そこからは思い出せない。思い出したくない。


 ただ、手に感触は残っている。

 これまで剣を振るってきた中で、最も手応えのない感触。

 未発達で、未成熟な肉を断つ感触。


 どうしてそんな行動を取ったのか。

 狂気に飲まれたのか、或いは正気だったのか。

 そのどちらであってもあの時の俺が激情に飲まれていたのは確かだ。


 それから先の事は。

 帝都から王都までの長い道のりは。

 王都騎士団でギルダとした話は。

 エルとサンタナ領へ向かうという段取りは。


 すべて曖昧で、思い出せない。 

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