立ち塞がる壁
「ヌール・・・!?」
時間にしてみれば、王都から神都へ向かう道のりを共にしただけの短い仲だ。
だがアンデッドと化した両親を前に、俺の決断の一押しをしてくれた。そういう意味では思い入れが深い男だ。
そんな男が死霊術師に与している。その事実が視界を揺らすほど衝撃的だった。
「知り合いですか?」
「どうしてお前が!?」
ノアを無視してヌールに問いかける。動揺で思わず声が大きくなる。
「私はいつ、どんな時でも『愛』の使徒、いえ奴隷と言った方がいいでしょうか。私は、彼の内に宿る歪曲した『愛』に惹かれたのですよ」
そう言って、死霊術師を見るヌール。
死霊術師に愛がある?
教会で神父も言っていたが、とても俺にはそうは思えない。死体を利用するそいつは、人の命を愚弄していると言っても過言ではない。
「お前は間違ってるぞ」
困惑と憤りが混ざり、声が震える。ヌールの理解が及ばない思考に、それ以外に返す言葉が見つからなかった。
そんな俺の言葉は届くわけもなく、ヌールは不敵に口角を吊り上げた。
「ええ、ええ!そうです!私がここにいるのは貴方を阻む障害となってその『愛』を見届けるために他ならない!!」
理解できない。こいつが何故そこまで愛とやらに固執するのか、何故それが戦うに値する理由になるのか。ヌールという男は、俺の理解の範疇から大きく外れている。今の俺にはただただ愕然とする事しか出来ない。
「ただ・・・それには邪魔な者がいる様ですね」
狂気的な雰囲気は消え、冷酷な表情を浮かべたヌールは視線をノアに向ける。俺はその様子に何かを感じ、すかさずノアの前に移動した。
「グッ!!」
その瞬間、俺は背後にいたノアごと後方に吹っ飛んだ。なんとか持ち堪えるも、あまりの衝撃に脚に力が入らない。
一体何が起こったんだ?何も無い場所から腹を殴られた様な、そんな感覚だった。
ヌールを目をやると、その顔に余裕の笑みを浮かべたまま佇んでいる。かかってこいとでも言いたげな様子だ。
その様子に、俺とノアは同時にヌールとの距離を詰める。しかしその途中で、ノアが吹っ飛ばされる。それを確認しながらも、俺はそのまま肉薄した。
勢い殺さずに剣を振り抜く。一切の躊躇を切り捨て、首を飛ばすつもりで繰り出した剣はその手前で止められる。剣は空間に固定されたかのように微動だにしない。
「どうやら大丈夫そうだな。後は任せるぞ、『愛の教祖』」
そう言って、死霊術師は一歩下がった。俺たちに視線を向けたままにしている様子を見るに、どうやら俺たちがやられる様を見届けたいらしい。すぐさま奴をぶちのめしたいが、そうもいかない。
「動揺と躊躇をすぐさま振り切り、殺しにかかる。やはり貴方は素晴らしい」
その言葉の後、固定されていた剣が動くようになった。ヌールは首元を狙う剣を軽く回避し、次に拳を俺の腹に打ち込んだ。
それから続くヌールの猛攻。剣でそれを防ぎ続けるも、手に痺れが残る。
「普通に近接も出来んのか・・・!」
「これでも二つ名持ちですので。戦闘には少しですが覚えがあります」
少しどころでは無い。重く鋭い打撃はダグラスやギルダの攻撃と遜色無いほど強力だ。
だが、二つ名持ちとなると分が悪すぎる。このままでは敗色濃厚だ。とにかく攻撃を逃れる必要がある。
攻撃と攻撃の僅かな合間をつき、素早く後退する。吹っ飛ばされていたノアもどうやら復帰したらしく、後退した俺の隣に並んだ。
「ノア、大丈夫か?」
「アルマさんこそ」
「俺は大丈夫だ」
「あの人を倒さないといけないらしいですね」
二つ名相手に数的有利があるこの状況、勝てるか?いや難しいだろう。何処までの範囲か分からないが、距離があっても攻撃でき、近接も出来る。俺たちでは難しい相手だ。
何か策は・・・。
そういえば、今ならあの時と同じことが出来るのではないか?
「ノア、死なないように自滅覚悟で攻撃するぞ」
「は?」
ノアが何言ってんだ、という目を向けてくる。そう感じるのも無理はない。自分でも支離滅裂な事を言っているのは分かっている。
少々情けない策ではあるが、これに賭ける他無い。




