招待
外に出た時は昼過ぎだった。
ようやく手がかりを得た達成感と、それよりも強大な脱力感を抱えながら俺たちは教会から離れた。
棺の位置は元に戻し、神父の衣服は棺の下に隠して置いた。いずれ神父がいなくなっていることが公になるだろうが、こうしておけばしばらくは大丈夫だろう。
教会から出る瞬間、迂闊だったな、と反省をした。幸いにも人が来ることはなかったが、神父との戦闘などを一般人に見られる可能性もあったのだ。その辺りを警戒しておけばよかった。
人が来なかったのは神父が俺たちを迎え撃つにあたって人払いを済ませていたとか、そんなところだろう。運が良かった。
「これからどうするのだ?」
コユキから投げかけられる質問。それに直感や気分に従って答えるのは迂闊なため、歩きながら熟考する。
いま俺たちに出来ることは大きく分けて二つ。
一つは、このまま診療所に向かうこと。
もう一つは、ノアとすり合わせを行うために今日診療所に向かうのを見送ること。
気持ちとしては診療所に向かいたい。せっかく捉えた死霊術師の背中。それを前に居ても立っても居られないというのが本音だ。
だがそれは愚かな判断だ。
軍服のアンデッド、神父のアンデッド、そしてディール。その誰もが戦闘に秀でたアンデッド達だった。
ほぼ確定で、アンデッドはこの三人では無い。死霊術師の側にはより強い者たちがついていると見ていいだろう。コユキ以上の強者がいるとは到底思えないが、万が一というのもある。
それにここで俺が独断で行動して、ノアに不都合が出るというのも考えられる。俺のせいでノアの首が飛ぶというのは考えたく無いな。
であればここはノアの判断を仰ぐか。急いては事を仕損ずるとも言うしな。
「今日、死霊術師を追い詰めるようなことはしない」
「それが良いだろうな」
ようやくここまで来たんだ。
一時の判断ミスで墓の中なんてのはごめんだ。
* * * * *
「なるほど」
夜になり、調査を終えたノアとの会議が始まった。
台所の方から皿を用意する音が聞こえて来る。おそらくカシムが夕飯を用意しているのだろう。コルナは多分寝室にいるはずだ。
俺は今日のことをノアに報告し、明日からの行動について話し合うことにした。
ノアは神妙な顔で思考を巡らせる。俺はただ、彼が下す判断を待つばかりだ。
それにしても、ノアが騎士団に入団したのは去年の出来事だったはずだ。いわば新人が、こんな重大な役割を担うというのは酷ではないか。
騎士団には騎士団なりの考えがあってのことだろうが、重責によってノアが潰れてしまうとか考えなかったのだろうか。その新人に判断を仰いでいる俺も俺だが。
いつかこいつが重荷に耐えきれず潰れてしまいそうになったなら、その時は本当に旅に連れて行こうか。
昨日冗談混じりで似たようなことを口走ったが、俺がノアの拠り所になれるのであれば喜んでなろう。旅に同行してもらうなんて、こっちからお願いしたいくらいだ。それだけのことを、こいつはしてくれてる。
そんな事を考えていると、ノアがその顔を上げた。
「明日、診療所に行きましょう」
そう、ノアが口にした。
「キャアァァーーーー!!」
それと同時に、家の外から悲鳴が聞こえた。
俺とノア、そしてコユキは急いで外に出る。悲鳴が聞こえた方へすぐさま駆け出し、悲鳴の正体を見つけ出した。
そこには一人の女性。そしてアンデッド。
女性が地面に腰をついたまま立ち上がれずにいるなかで、アンデッドは歩みを止めようとはしない。アンデッドは女性を意に介さず、駆けつけた俺たちの方へ歩を進めている。
そして少し離れたところで立ち止まり、俺達を指差して言った。
「お前たち・・・ついてこい」
見るからに戦闘能力の無さそうなアンデッドの口から出たのは誘いの言葉。その言葉の真意を俺たちは即座に理解した。
これは死霊術師からの招待。
探りを入れる俺達を迎え撃つという、死霊術師からの宣戦布告だ。




