教会にて
「俺を助けるためについてきたのが、逆に助けられた気分はどうだ?」
「ふん!調子にのるでない!」
俺が引っ張ったことで、寸前で攻撃を回避したコユキは頬を膨らませて不満げに言った。
「避けられましたか。まあいいでしょう」
俺とコユキの会話に割り込んだ冷たい声。
声の主は考えるまでもなく目の前の爺。今まさに俺たちに牙をむいた張本人だ。
「爺、あんた何者だ?」
敵意に対し、真っ向から問いかける。
「爺とは失礼な。見ての通り私は神父です。神父様と呼びなさい。そして神に許しを請うのです」
爺、もとい神父はそんな俺の問いかけに答えることは無く、この期に及んで聖職者気取り。
そこに焦りはなく、悠々とした態度で俺たちに相対している。
「妾はお前を許さんがな」
そんな神父の言葉にコユキが神なりにジョークをかました。いや、ジョークなどではなく本気で言っている。
このままではコユキは神父を瞬きの間に叩きのめしてしまいそうだ。そう思った俺は、神父の元へ歩み寄ろうとするコユキを手で制止した。
コユキが力をふるおうものなら、神父は文字通り瞬殺されるに違いない。それではいけない。
仮に殺してしまうのだとしても、それは情報を引き出してからだ。
「なら神父様、お前の懺悔を俺が聞いてやる。知ってること全部話せ」
「命の危機に瀕しているにも関わらず、お話がお好きなようですね。分かりました。少しだけ話しましょうか」
神父自身、俺が知りたい情報は知っているだろう。だからこそ、核心に触れるようなことはせずはぐらかすように返してくるに違いない。
そんな俺の予想と反して、神父は会話に応じた。
「何故、死体を弄んだ?」
死霊術師の動機を探るべく質問を投げかける。
「弄んだ、と言うのは酷い誤解ですね」
「死した者の安らぎを奪っておきながら誤解とは、神父が聞いてあきれる」
神父の答えにコユキが苛立ち混じりに返す。
コユキの言うように、神父の言っていることは意味不明だ。誰が見ても死霊術師は人の命を軽視し、そのうえで死体を弄んでいる。
「命を尊ぶからこそ禁忌に触れた。そんな男が居るのですよ」
これまでの冷え切った言葉とは違う、憐れむような温かい言葉と表情。
一瞬見せた感情を神父はすぐに振り払い、口を開いた。
「先んじて言っておきますが、私が言えるのはこれだけです。これ以上の問答は無駄と知りなさい」
その言葉と共に、神父の背後から放たれる光の矢。それらは凄まじい速度で俺たちめがけて飛んできた。
俺とコユキは素早く横に飛ぶことで回避するも、左右に分断されてしまう。結果、左右に散った俺たちの間に神父を挟む形になった。
しかし神父は挟撃されることを危惧していないのか、その場を動こうとはしない。それどころか俺とコユキの足元に光の矢を撃ち込んだ。二人同時に仕留めることが出来ると言わんばかりに。
そして再び、口を開いた。
「ふむ。まずはあなたを始末しておきましょうか」
そう言って神父は俺の方に体を向けた。
「お前、失敗したな」
「何を言うかと思えば、虚勢ですか。まったく・・・愚かしい」
俺に向けて光の矢が一斉射撃される。しかし俺はその場を動かずにいた。
この攻撃は俺に到達することなく掻き消える。なぜならば神父は瞬殺される。
神父は俺たちを見た目で判断し、よりにもよって俺の方を危険視した。そんな俺の視点からは、神父の背後で冷気を纏うコユキの姿が見えたのだ。教会に入って早々攻撃され、挙句力量を軽々しく見られたことに激怒するコユキの姿が。
たちまち俺の目の前には氷山と呼ぶべき氷の塊が、真下から神父を貫いた。
「妾を無視するとはいい度胸よ!」
その氷山の裏から、満足げに腕を組むコユキが高らかに声を上げた。




